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学校へ行こう③

 その命令に、私は耳を疑った。


「リベル、お前には明日から学校に通って貰う」

「……はい?」


 一日休みを貰った翌日。

 朝食を終えて、彼の仕事の手伝いを始めようとした時だった。

 話があると言われ、座っている彼の前に立ち、話を聞く姿勢をとっていたのだが……。


「えっと、もう一度お願いできる?」

「学校に行って貰う」

「意味がわからない」


 本当に意味がわからなかった。

 何の脈絡もない。

 事前に相談があったわけでもなければ、必要性も感じていない。

 

 何を言っているんだこの人は……。


「理由を聞いてもいいかしら?」

「そうだな。王都には国中から志願者を集めた学園がある。貴族、平民、国外からでも試験を突破すれば入学は可能だ。もちろん、種族は問わない」

「カイノス王立学園のことでしょ? そんなことは知っているわよ」


 隣国でも有名だ。

 アルザード王国一の教育機関。

 設立から長い歴史を誇る由緒正しき学び舎で、先々代国王の方針で国外や種族を問わず、様々な人に門を開いたのは五十年ほど前。

 それまでは国内の、特に貴族たちが通う学び舎だった。

 しかしそれでは優秀な人材を取りこぼしてしまう。

 人は生まれながらに、教育を受ける権利を持つと先々代国王は主張し、改革を行った。

 結果、多くの学問が増え、生徒数も急増。

 世界でも有数の学び舎の一つとして数えられている。

 先々代国王が行った政策の成功例だが、これも現国王は気に入らないらしい。


「その学園に、なんで私が入らないといけないわけ? 確かに今の私の見た目は、適正年齢ではあるけど」


 中身はもう成人済み、元女王だ。

 学園で学ぶ内容なんて、すでに網羅している。

 自慢じゃないけど、小さいころから英才教育を受けたおかげで、勉強はそれなりにできる。

 そもそも、学園に通いたいなんて一言も話していない。


「ただ通って貰うわけじゃないぞ? これも側役としての任務だ」

「任務って……教養が足りないから学べと?」

「そんなわけあるか。お前に学ぶ必要がないことはわかってる。目的は、人探し……いいや、魔女探しだ」

「――! 学園にいるの?」


 レントは難しい表情を見せる。

 私も背筋を伸ばし、真面目な話を聞く姿勢をとる。


「昨日、天啓があったんだ」


 彼は女神の加護を受ける聖人だ。

 その身には女神の力が宿り、時折声を聞くことがある。

 未来に起こる何か、その前触れ。

 彼にとって重要なことを伝えてくれる……女神の助言。

 それが天啓だ。


 彼は続ける。


「もう一人の魔女は学園にいる。それがわかった」

「わかったなら捕まえればいいじゃない」

「できないから、お前に探してもらおうと頼んでいるんだぞ?」

「探す? わかったって言ったじゃない」

「いることがわかっただけで、誰かまではわからなかったんだよ」


 何それ。

 女神の天啓って、意外といいかげんなのね。


「いるのがわかったなら、全員一人ずつ調べれば?」

「それも考えた。というか、すでに調べた。天啓があったのは昼過ぎ、そこからすぐに学園へ行って、この眼で見た」


 彼の眼は、魂すら見透かす。

 私のことも、姿や声が変わっても、アリエルだと見抜ける。

 彼の眼なら魔女を見つけ出すことができるだろう。

 だが、彼は首を振る。


「見えなかったんだ」

「あなたの眼でもわからなかったというの? 私がアリエルだってことも見抜けたのに」

「よほど優れた魔女なんだろうな。俺じゃ見つけられないし、下手に大事にしてしまうと、その隙に逃げられる。いつから潜り込んでいるのかもわからない。簡単には見つからないさ」

「だから同じ魔女の私に探せと」

「そういうことだ。外見年齢的にも、今のお前なら学園に入っても違和感はない。名目上は特別編入で、経験を積ませるとかにすれば、短期間なら誤魔化せるだろ」


 彼はテーブルから書類を取り出し、私に見せる。

 そこには私の名前と、入学の許可がされた一文が記載されていた。


「すでに手続きは終わっている」

「拒否権ないじゃない」

「ああ、受けてもらうぞ? 必要ならいつでも呼んでいい。そう言ってくれただろう?」

「……はぁ、わかったわよ」


 私としても、セミラミス関係の魔女が近くにいる環境は安心できない。

 安眠するためにも、さっさと見つけ出して、母国に強制送還してやろう。


「ちなみに、手掛かりはないの?」

「ないな」

「え……」

「残念ながら、いるという情報以外は何もなかった。しいていえば女性、魔女であることは確実ってところくらいか」


 私は心の中で思った。

 女神の天啓って、大して役に立たないんじゃないかと。

 

「役に立たないわね」

「おい」


 思っただけにとどまらず、つい口から出てしまった。

 だって仕方がない。

 女神の天啓なんて大それた助言にもかかわらず、あそこにいるよーというアバウトな情報しか与えてくれないのだ。

 文句も言いたくなるだろう。


「要するに、手探りで探せってことね」

「そう拗ねるな。学園に通っている間は、基本こっちの仕事はしなくていい。学園のスケジュールに沿って行動してくれ」

「それって……」

「学園は、七日に二回は休みだ」

「さすがレントね! 完璧な作戦だわ!」

「調子いいなぁ……」

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『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

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