表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/42

学校へ行こう②

「そろそろ休みがほしいわ」


 朝、私はレントに告げた。

 彼は朝食の手を止めて、私と向き合う。


「ちゃんと寝る時間は確保されているじゃないか」

「どこのブラック企業よ!」

「ブラック企業?」


 彼はキョトンとした顔を見せる。

 この世界に存在しない言葉だから、彼には通じない。

 私は大きくため息をこぼす。


 ここに来て二週間、毎日彼の補佐として仕事をしている。

 書類仕事、会議への参加、視察、荒事の解決などなど。

 休まる暇もない。


「せめて七日に二日は休みが欲しいわ」

「一日休みたいってこと?」

「そうよ」

「それは無理だろ」


 キッパリと断られてしまった。

 驚いたフリをする。


「何を驚いたフリをしてるんだ」


 フリだと速攻でバレてしまった。

 彼の眼はずるい。


「お前だって女王だったんだ。王族の多忙さは理解しているだろう?」

「……忘れたわ」

「嘘つくなよ」

「ぅ……」


 確かに知っている。

 女王だった時代を振り返ると、一日心置きなく休めた日なんて一度もなかった。

 思えば女王になる前から、体調不良以外でまともに休んでいない。

 それが当たり前になっていたし、女王としての威厳もあったから、口には出さなかったけど……。


「ありえないでしょ。社長だから毎日出社して働け、とか暴論よ」

「さっきから何の話を……休みたいのはわかった。ここのところ遠出も多いし、お前には荒事を引き受けてもらっているからな」

「引き受けてるというか、強引に連れていかれているだけなんだけど」

「側役だからな」


 やっぱり失敗だったかもしれない。

 彼の手を取ったのは。


「まぁでも、一日くらいなら休みにしてもいいぞ」

「本当?」

「頑張ってもらっているのは事実だし、ここに来て間もないのに詰め込みすぎたとも思っている。今日一日は、自由にしていいぞ」

「やった!」


 やはり正解だった。

 彼の手を取ったのは。

 

「それじゃ休むわね」

「急に元気になったな……そんなに元気なら大丈夫だろ」

「全然元気じゃないわよ」

「楽しそうにステップ踏みながら言われても説得力ないぞ」


 早く部屋に戻って二度寝したい。

 女王時代には絶対にできなかったことができる。

 そう思うとワクワクする。

 自然とステップになって現れてしまっても仕方がない。


 レントはため息をこぼす。


「はぁ……お前の扱いは難しいな」

「簡単よ。必要ない時はぐっすり休ませて、必要になった時だけ呼んでくれたら、ほどほどに頑張るわ」

「ほどほどって」

「結果はちゃんと出すわよ」


 レントはもう一度、大きなため息をこぼす。

 書類仕事をしながら続ける。


「簡単に言ってくれるな。お前を側役にすることだって、無理矢理ねじ込んだんだ。兄上を納得させるのも苦労したんだぞ?」

「そうなの? あっさり認めていたように見えたけど」

「そんなわけあるか。あの人は誰より合理的だ。情よりも国の未来を優先する。だからこそ、理論武装でなんとか押し切った」

「へぇ……」


 私は彼の兄と話した光景を思い浮かべる。

 そんな人には見えなかったけど。


「お前の存在は、この国にとって有益であり、聖人である俺を支えるだけの力がある。加えて女王だった経験はこの国に必要だ。俺が管理するという名目で、なんとか納得してもらったんだよ」

「そう? じゃあ頑張って管理しないとね」

「どの立場で? まったく、簡単じゃないことくらいわかっているだろ?」

「……そうね」


 もちろん理解している。

 側役という立場も、その位置にいる意味も。

 私は今、誰よりもレントの傍にいる。

 彼を支える存在として、周囲の人間からは見られている。

 そんな私が、わかりやすくサボったりすることは許されない。

 女王時代よりは楽になっただけ、まだマシだと思うべきか。

 

「それとも、あのまま死んでいればよかったと思うか?」

「それはないわね。感謝はしているわ」


 今の私が生きているのは、レントが助けてくれたから。

 ちゃんとわかっている。

 感謝もしているし、恩も感じている。

 だからこそ、私はここにいるのだから。


「感謝しているなら、少しは気遣ってくれ」

「それはそれ。私はもう女王じゃないし、自分を偽る必要もなくなったもの。だから、可能な限り仮面はもうつけないと決めたの」

「……」

「怒った?」

「いいや、それじゃまるで、俺の前では自然体でいられるって聞こえるな」

「――! 否定はしないわ」


 ちょっと恥ずかしい。

 素を見せていいと思っている、ことを自覚した。


「レントはどっちの私も知っているでしょう? それに、どうせ長い付き合いになるなら、初めから悪い所をいっぱい見せて慣れてもらわないと」

「ははっ! 長く、か。ここにいたいとは思ってくれているんだな」

「別に、他に行く場所もないし。母国に目をつけられてるし、魔女にも睨まれているし、今のところここが一番安全ってだけよ」

「それはよかった」


 レントは嬉しそうに笑う。

 その笑顔がなぜかちょっぴり腹立たしかった。


 本当にどうして。

 彼の前だと、自分を取り繕おうと思わないのだろうか?


「とにかく、私は休みたいの」

「わかった。今日は休め。明日からまたよろしく」

「そうするわ」


 部屋から出ようとして、立ち止まる。


「どうした?」

「……本当に必要なら、呼んでもいいわよ」

「――! ああ、そうするよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ