表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/42

学校へ行こう①

 去り際、魔女セミラミスは囁いた。


「お別れの前にいいことを教えてあげるわ」

「必要ないわ。どうせロクなことじゃないでしょう?」

「ふふっ、そうでもないわ。私のこと……毒の魔女は誰かが勝手につけたあだ名。私のもう一つの名前は――強欲の魔女」

「強欲……」


 七つの大罪の一つ、強欲。

 その名を冠する魔女とは、いささか大それた名だ。

 私は失笑する。


「あなたにピッタリじゃない」

「ふふふっ」


 彼女は笑う。

 怒っているのか、喜んでいるのか。

 理解できない笑顔だ。


「自己紹介がしたかったの?」

「まさか。私のことを知ってもらいたかったのよ。私は強欲、ほしいものは手に入れる。私が欲しいものは全てこの手に掴みたい。そのためなら何でもするわ」

「そう? 好きにすればいいじゃない。私の邪魔をしないなら、あなたが何をしようと勝手ね」

「あらあら、女王がそんなことを言っていいのかしら?」

「元よ。あなたがそうしたんでしょう?」

 

 私たちは睨み合う。

 女王でなくなった今の私に、母国をどうこうする資格はない。

 後のことはお姉様が頑張ってくれたらいい。

 私はもう、十分に頑張った。


「ふふっ、私が強欲なら、あなたは怠惰ね」

「いいわね、怠惰の魔女。そうありたいと思うわ」

「残念だけど、退屈はしないわ。あなたのすぐ傍に、もう一人魔女がいるもの」

「――!」


 もう一人?

 私以外に魔女がいるというの?

 そんなことを……。


「教えていいのかしら?」

「そのほうがスリルがあるでしょう?」

「危機管理がなってないわね。そんなんじゃ女王の補佐は務まらないわ」

「私に危機なんてないのよ。強欲な私は、スリルも楽しみたい。ただそれだけ……」


 彼女の気配が消えていく。

 本当に立ち去るようだ。

 心の奥でホッとする。

 もしも戦いになったら、本物の魔女に今の私が勝てるだろうか?

 難しいだろう。

 レントが来てくれることを願うしかない。


「いずれ必ず、あなたの国を手に入れてあげる。その日まで、怠惰でいられるといいわね」

「……」


 セミラミスは消えた。

 不吉な笑みと、言葉を残して。


「……まったく、面倒なことばかりね」


  ◇◇◇


 翌日。

 私はレントと共に、東にある小さな村を訪れていた。

 村は大きな二つの山に挟まれ、渓谷の近くに位置する。

 最近、渓谷に野盗が屯し、近隣住民の生活を脅かしているそうだ。

 事前情報によると、野盗たちは数匹の魔物を飼っている。

 魔物は人間には懐かないが、強者に対しては本能的に服従する。

 その性質を利用し、魔物を使って悪だくみをする人間もいる。

 私が女王だった時代も、魔物をオークションにかけている闇市場とかがあった。


「あんな凶暴なのを飼って何が楽しいのかしらね」

「同感だな。危険なだけだ」

「ところで、なんで私たちだけなの?」


 今回は野盗退治に赴いている。

 のだが、なぜか参加しているのは私とレントの二人だけだった。

 以前のように騎士団を引き連れている、というわけでもない。

 

「魔物の群れよりは楽かもしれないけど、数もそこそこいるって話じゃない。二人だけっておかしくないかしら?」

「……出発前に説明したじゃないか」

「そうだったかしら?」

「聞いていなかったのか」

「聞いてた……気がする。あーなんとなく思い出してきたわ」


 セミラミスが去った後、彼女と邂逅したことや話した内容をレントに伝えた。

 それはもう驚いていた。

 ついでに怒られた。


 そういう時はすぐに俺を呼んでくれ。

 どこでも駆け付けるから、と。


 セミラミスの結界の中だったし、呼んでも来れなかったと思うけど。

 言い訳も面倒なので、そうするわと一言答えた。

 そして重要なのは、セミラミスが最後に言い残したことだ。 


「お前の近くにもう一人の魔女がいる。それが事実だとしたら、身近に置く人間には慎重にならないといけない」

「だからって、騎士まで置いておく必要ある? 魔女は女性よ」

「それが嘘かもしれないだろ? 魔女と見せかけて、魔人。もしくはもっと別の何かかもしれない」

「嘘はついてないように見えたけど」


 直感的に、彼女は本当のことを言っていた気がする。

 ただの勘なので、根拠はない。

 セミラミスの発言、性格からの憶測だ。

 レントが警戒するのも理解はできる。

 

「私はいいの?」

「お前が一番信用できるだろ」

「ハッキリ言うのね」

「当たり前だ。俺はお前が、アリエルだったことを知っている。だから傍に置いているし、信用できる」


 彼はまっすぐ私の眼を見ながらそう語った。

 信用してもらえるのはありがたいけど、あまり信用され過ぎるのも困りものだ。

 今日みたいに、面倒な場に駆り出される。


 私たちは平然と歩みを進め、野盗のアジトにたどり着く。


「なんだてめぇら? ここに何しに来やがった」

「俺はレント・アルザードだ。お前たちを拘束しにきた」

「アルザード……王族がたった二人で乗り込んできただぁ? 馬鹿なんじゃねーのか!」


 野盗たちが武器をとって集まってくる。

 すでに臨戦態勢だ。


「馬鹿はお前たちだ。俺が剣を抜くまでもない」

「あん?」

「ちょっと、レント」

「制圧するだけだ。魔物より楽だろう?」

「……」


 最初からそのつもりで連れてきたわけね。

 とにかく私を働かせたいらしい。

 私はため息をこぼす。


「おいおい、女を献上して許してもらおうってか? そんなもんで」

「うるさい。だまって凍りなさい」

「はがっ!」


 一瞬にして冷気を放ち、野盗たちを氷漬けにする。

 確かに制圧で、他に目がないのなら、こういうこともできる。

 

「さすが。一緒に来てもらって正解だったな」

「……」


 なんだかムカつく。

 いいように使われているみたいで……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ