表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/42

天才魔法少女⑤

 魔物の退治が終わり、帰宅したのは深夜だった。

 あと数時間すれば朝になる。

 報告は明日、というより今日なのだが、昼間にやることになっている。

 レントと別れた私は、すぐに自室に向かって。


「やっと終わったぁ」


 ベッドにダイブした。

 初日からハードすぎる。

 書類仕事だけで終わるはずが、特訓に付き合わされ、そのまま魔物退治?

 残業で帰宅が朝になるとか、どこのブラック企業ですか?


「はぁ……」


 ため息しかでない。

 選択を間違えてしまったのだろうか。

 あの日、彼に助けられなければ……。


「死んでいただけなのよね」


 死ぬか、生きて彼の元で働くか。

 その二択。

 いいや、断るという選択肢も会ったけど、助けられた恩を無視するということだ。

 それはさすがにできなかっただろう。

 結論……。


「考えても無駄ね」


 もう寝よう。

 おやすみなさい、と心の中で呟いた。


  ◇◇◇


 翌日。

 初日と同じ時間に目覚めて、朝食を食べるためレントの元へと向かう。


「おはよう、リベル」

「……おはようございます」

「眠そうだね」

「理由は聞かなくてもわかるでしょ」

「そうだね。俺も眠い」


 全然そうは見えない。

 昨日と同じくらい元気そうな彼と共に、朝食を摂る。


「今日の予定は?」

「それは俺がお前に聞くものじゃないのか?」

「知っていると思う?」

「はぁ……明日から予定も管理してくれ」

「昨日みたいなことがなければ、覚える余裕もあったわよ」

「あれは珍しい。運が悪かったな」


 まったくだ。

 おかげでほとんど眠れなかった。

 女王時代から睡眠は短いほうだけど、今回は特に短い。

 さすがに眠くて瞼が重い。


「なんであなたは平気そうなの?」

「俺は元々三時間寝れば元気になるからな」

「……早死にするわよ」

「気をつけるよ」


 食事を終え、執務室に向かう。

 道中、騎士に声をかけられた。


「おはようございます! レント殿下!」

「おはよう。昨日は急に駆り出してすまなかったな」

「いえ、我々は何もしてません。全てはリベルさんの活躍あってこそです」


 若い騎士は瞳をキラキラと輝かせ、私のことを見てくる。


「昨日の活躍、感服いたしました!」

「あ、はい。ありがとうございます」

「では私はこれで! リベルさん、機会があればぜひ強さの秘訣を教えていただきたいです」

「そうですね。時間があれば」


 若い騎士は去っていく。

 それを見ていたレントは、楽しそうに笑っていた。


「何がおかしいのよ」

「いや、モテモテじゃないか」

「誰のせいよ」

「ふふっ、いいじゃないか。これなら、俺の側役に選ばれたことにも、皆が納得するだろう?」

「……」


 ひょっとして、最初からそのつもりだった?

 私の実力を騎士たちに見せて、認めさせるために……。

 だとしたら、とんだ策士だ。


「はぁ……やっぱり失敗だったかしら」

「今さら後悔しても遅いぞ? あ、そうだ。今日はいくつか用意しておきたい書物があるんだ。すまないが書斎に行って取ってきてはくれないか?」

「わかったわ。何を持ってくればいいの?」

「メモしてある。二冊だから持ち運びはできるぞ」


 メモを渡され、私は執務室とは逆方向にある書斎へと一人で向かった。

 ため息がこぼれる。

 本当に選択を間違えたのかもしれない。

 恩とか無視して、一人で逃げるべきだったか。

 そんなこと、選べるはずもないのに。


「えっと、この本は……」


 書斎に入り、本を探す。

 目当ての本を見つけた……その時だった。


「――!」


 世界が反転した。

 上下が逆になり、私の身体は浮いている。

 空が赤い。

 本は逆さまなのに、落下していなかった。

 周囲に漂う異様な魔力を、私は以前に感じたことがある。


「こんなところにいたのね? 元女王陛下」

「……あなたは、セミラミスだったかしら?」

「覚えて頂いて光栄ですわ」

「……」


 間違いない。

 私に呪いをかけた魔女だ。

 この空間も、彼女の魔法で作り出された異空間。

 気づかぬうちに、私は囚われてしまったらしい。


「もう見つかったのね」

「ふふっ、私も驚きました。まさか、隣国の王子の従者になっているなんて。確かに彼の眼なら、あなたの魂を見破れますね」

「そうね。運がよかったわ。それで? 私を見つけて、また幽閉しにきたのかしら?」

「さぁ、どうでしょう?」


 私は会話をしながら脱出の糸口を探す。

 この反転した空間から抜け出す方法はないのか。

 そもそもどういう魔法なのか。

 原理もさっぱりわからない。

 これが本物の魔女の力……。


「勘違いしないでほしいけど、私は復讐とか望んでないわよ」

「なぜですか?」

「面倒だからよ。シエリスお姉様が私の代わりをしてくれるなら、それでいいと思っているわ」

「務まると思っているの? 彼女に」

「どういう意味? そう思ったから、協力したのでしょう?」

「いいえ? これっぽっちも」

「――!」


 どういうつもりなのか?

 彼女を女王にする手助けを、魔女は手引きしたわけじゃないのか?

 嘘をついているようには見えなかった。

 この女は本心から、彼女に期待していない。


「私がここへ来たのはスカウトよ」

「スカウト?」

「ええ、魔女になった元女王陛下。私と一緒に、あの国の新たな王にならないかしら?」

「……は?」


 理解ができず、あきれ顔になる。

 

「何を言っているの? 私から女王の座を奪っておいて」

「そうしないと始まらなかったのよ。あなたは女王として理想的だったわ。あなたが女王のままでは、あの国はもっと成長し、人間の暮らしが豊かになってしまう」

「それの何がいけないの?」

「ダメよ。人間は愚かで弱い生き物なんだから。私のように力を持つ者が支配してあげないと」


 さっぱりだ。

 この女は、何を言っているのかわからない。

 わからないけど、何となく察する。


「あなた、自分の国がほしいのね」

「ええ、わかってくれる?」

「知らないわよ。大方、自分に都合がいい国がほしいとか、そんなんでしょ?」

「嬉しいわ。わかってくれる人がいて。あなたはやっぱり優秀よ」

「褒められても嬉しくないわね。それに――」

 

 やっと見つけた。

 結界を構成している魔力の流れを、私は右手で掴む。

 そのまま自分の魔力をぶつけて、流れを絶った。

 握りつぶすように。


「結界を解いたの!」

「これが応えよ。そんな意味不明なスカウトに乗っかるわけないでしょう? さっさと帰って」

「……正気かしら? 王子の従者として一生を終えるつもり?」

「それも悪くないわね。少なくとも、あなたと一緒にめちゃくちゃするよりは」

「……その言葉、私への明確な敵意と受け取るわ」

「ご自由にどうぞ。私はもう女王じゃない。今の私はリベル、この国の人間よ。この国に手出しするなら、私も容赦しないわ」


 敵意には敵意で返す。 

 決して怯まない。 

 私は間違っていないのだから。


「後悔するわよ」


 そう言い残し、彼女は闇に消える。

 今の私の魔法では、彼女を捕らえることはできない。

 だから精一杯のハッタリと口の強さで乗り切った。


「はぁ……後悔ならずっとしてるわよ」

 

 それでも、私は王に戻る気なんてない。

 アリエルは死んだ。

 新しく名を貰ったリベルとして、第二の人生を歩む。

 この先に、自由と幸福があると信じて。

【作者からのお願い】

短編版から引き続き読んで頂きありがとうございます!

第一部もこれにて折り返し地点です!


評価がまだの方!

この機会にぜひページ下部の評価欄☆☆☆☆☆から、お好きな★を頂ければ非常に励みになります!

現時点で構いません!

ブックマークもお願いします。


ランキングを維持することでより多くの読者に見て頂けますので、どうかご協力お願いします!



次回をお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
― 新着の感想 ―
[一言] えっと…ポドリアルスペース?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ