天才魔法少女⑤
魔物の退治が終わり、帰宅したのは深夜だった。
あと数時間すれば朝になる。
報告は明日、というより今日なのだが、昼間にやることになっている。
レントと別れた私は、すぐに自室に向かって。
「やっと終わったぁ」
ベッドにダイブした。
初日からハードすぎる。
書類仕事だけで終わるはずが、特訓に付き合わされ、そのまま魔物退治?
残業で帰宅が朝になるとか、どこのブラック企業ですか?
「はぁ……」
ため息しかでない。
選択を間違えてしまったのだろうか。
あの日、彼に助けられなければ……。
「死んでいただけなのよね」
死ぬか、生きて彼の元で働くか。
その二択。
いいや、断るという選択肢も会ったけど、助けられた恩を無視するということだ。
それはさすがにできなかっただろう。
結論……。
「考えても無駄ね」
もう寝よう。
おやすみなさい、と心の中で呟いた。
◇◇◇
翌日。
初日と同じ時間に目覚めて、朝食を食べるためレントの元へと向かう。
「おはよう、リベル」
「……おはようございます」
「眠そうだね」
「理由は聞かなくてもわかるでしょ」
「そうだね。俺も眠い」
全然そうは見えない。
昨日と同じくらい元気そうな彼と共に、朝食を摂る。
「今日の予定は?」
「それは俺がお前に聞くものじゃないのか?」
「知っていると思う?」
「はぁ……明日から予定も管理してくれ」
「昨日みたいなことがなければ、覚える余裕もあったわよ」
「あれは珍しい。運が悪かったな」
まったくだ。
おかげでほとんど眠れなかった。
女王時代から睡眠は短いほうだけど、今回は特に短い。
さすがに眠くて瞼が重い。
「なんであなたは平気そうなの?」
「俺は元々三時間寝れば元気になるからな」
「……早死にするわよ」
「気をつけるよ」
食事を終え、執務室に向かう。
道中、騎士に声をかけられた。
「おはようございます! レント殿下!」
「おはよう。昨日は急に駆り出してすまなかったな」
「いえ、我々は何もしてません。全てはリベルさんの活躍あってこそです」
若い騎士は瞳をキラキラと輝かせ、私のことを見てくる。
「昨日の活躍、感服いたしました!」
「あ、はい。ありがとうございます」
「では私はこれで! リベルさん、機会があればぜひ強さの秘訣を教えていただきたいです」
「そうですね。時間があれば」
若い騎士は去っていく。
それを見ていたレントは、楽しそうに笑っていた。
「何がおかしいのよ」
「いや、モテモテじゃないか」
「誰のせいよ」
「ふふっ、いいじゃないか。これなら、俺の側役に選ばれたことにも、皆が納得するだろう?」
「……」
ひょっとして、最初からそのつもりだった?
私の実力を騎士たちに見せて、認めさせるために……。
だとしたら、とんだ策士だ。
「はぁ……やっぱり失敗だったかしら」
「今さら後悔しても遅いぞ? あ、そうだ。今日はいくつか用意しておきたい書物があるんだ。すまないが書斎に行って取ってきてはくれないか?」
「わかったわ。何を持ってくればいいの?」
「メモしてある。二冊だから持ち運びはできるぞ」
メモを渡され、私は執務室とは逆方向にある書斎へと一人で向かった。
ため息がこぼれる。
本当に選択を間違えたのかもしれない。
恩とか無視して、一人で逃げるべきだったか。
そんなこと、選べるはずもないのに。
「えっと、この本は……」
書斎に入り、本を探す。
目当ての本を見つけた……その時だった。
「――!」
世界が反転した。
上下が逆になり、私の身体は浮いている。
空が赤い。
本は逆さまなのに、落下していなかった。
周囲に漂う異様な魔力を、私は以前に感じたことがある。
「こんなところにいたのね? 元女王陛下」
「……あなたは、セミラミスだったかしら?」
「覚えて頂いて光栄ですわ」
「……」
間違いない。
私に呪いをかけた魔女だ。
この空間も、彼女の魔法で作り出された異空間。
気づかぬうちに、私は囚われてしまったらしい。
「もう見つかったのね」
「ふふっ、私も驚きました。まさか、隣国の王子の従者になっているなんて。確かに彼の眼なら、あなたの魂を見破れますね」
「そうね。運がよかったわ。それで? 私を見つけて、また幽閉しにきたのかしら?」
「さぁ、どうでしょう?」
私は会話をしながら脱出の糸口を探す。
この反転した空間から抜け出す方法はないのか。
そもそもどういう魔法なのか。
原理もさっぱりわからない。
これが本物の魔女の力……。
「勘違いしないでほしいけど、私は復讐とか望んでないわよ」
「なぜですか?」
「面倒だからよ。シエリスお姉様が私の代わりをしてくれるなら、それでいいと思っているわ」
「務まると思っているの? 彼女に」
「どういう意味? そう思ったから、協力したのでしょう?」
「いいえ? これっぽっちも」
「――!」
どういうつもりなのか?
彼女を女王にする手助けを、魔女は手引きしたわけじゃないのか?
嘘をついているようには見えなかった。
この女は本心から、彼女に期待していない。
「私がここへ来たのはスカウトよ」
「スカウト?」
「ええ、魔女になった元女王陛下。私と一緒に、あの国の新たな王にならないかしら?」
「……は?」
理解ができず、あきれ顔になる。
「何を言っているの? 私から女王の座を奪っておいて」
「そうしないと始まらなかったのよ。あなたは女王として理想的だったわ。あなたが女王のままでは、あの国はもっと成長し、人間の暮らしが豊かになってしまう」
「それの何がいけないの?」
「ダメよ。人間は愚かで弱い生き物なんだから。私のように力を持つ者が支配してあげないと」
さっぱりだ。
この女は、何を言っているのかわからない。
わからないけど、何となく察する。
「あなた、自分の国がほしいのね」
「ええ、わかってくれる?」
「知らないわよ。大方、自分に都合がいい国がほしいとか、そんなんでしょ?」
「嬉しいわ。わかってくれる人がいて。あなたはやっぱり優秀よ」
「褒められても嬉しくないわね。それに――」
やっと見つけた。
結界を構成している魔力の流れを、私は右手で掴む。
そのまま自分の魔力をぶつけて、流れを絶った。
握りつぶすように。
「結界を解いたの!」
「これが応えよ。そんな意味不明なスカウトに乗っかるわけないでしょう? さっさと帰って」
「……正気かしら? 王子の従者として一生を終えるつもり?」
「それも悪くないわね。少なくとも、あなたと一緒にめちゃくちゃするよりは」
「……その言葉、私への明確な敵意と受け取るわ」
「ご自由にどうぞ。私はもう女王じゃない。今の私はリベル、この国の人間よ。この国に手出しするなら、私も容赦しないわ」
敵意には敵意で返す。
決して怯まない。
私は間違っていないのだから。
「後悔するわよ」
そう言い残し、彼女は闇に消える。
今の私の魔法では、彼女を捕らえることはできない。
だから精一杯のハッタリと口の強さで乗り切った。
「はぁ……後悔ならずっとしてるわよ」
それでも、私は王に戻る気なんてない。
アリエルは死んだ。
新しく名を貰ったリベルとして、第二の人生を歩む。
この先に、自由と幸福があると信じて。
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