天才魔法少女①
【作者からのお知らせ】
色々検討しまして、ちょっと路線変更します。
内容的にファンタジー要素が強くなりそうなので、ジャンル移動しました。
私たちが王城に戻る頃には、すっかり夜になっていた。
それでも城内は明るい。
燃え続けているランタンの炎は、精霊の力を借りた仕掛けだ。
この世界は科学の発展が遅れている代わりに、それ以外の技術が発達している。
特に精霊術は、人間の生活を支える重要な要素だ。
ユーラスティア王国やアルザード王国は、精霊との親和性が高い土地らしく、精霊術がより発展し、高い文明力を獲得した。
精霊との繋がりが弱い国では、科学が発展している場合もある。
そういう国は遠くて行ったことがないので、どの程度発展しているのか少し興味があった。
「レント殿下!」
「ん?」
戻って早々、私たちを出迎えたのは一人の騎士だった。
見るからに慌てている。
異変を察知したレントも、真剣な横顔を見せる。
「何かあったのか?」
「はい! 西の街にある湖の周辺で、魔物の群れが確認されたそうです」
「また魔物か」
レントは苦い顔をする。
また……。
そういえば、昼間の内に目を通した資料の中にも記載があった。
最近、王都周辺や近隣の街で、魔物の出現数が増えているらしい。
元々魔物は特定の縄張りを持ち、人間の生活エリアと重なっている一部を除き、基本的には人里への被害はない。
被害の多くは、街道を進んでいる食料品の馬車が覆われたり、群れから逸れた魔物が街に現れる程度だ。
以前に森で私が襲われたのは、あそこが魔物たちのテリトリーだったから。
そういう意味では、無断で踏み込んでしまった私にも非がある。
「魔物は街に向かっているのか?」
「今のところは湖の周囲で彷徨っているようです。ですがあの地域は、街の人々もよく通る街道がありますし、棲みつかれるのは厄介かと」
「そうか。確かに、隣に魔物がいるというのは精神的にもよくないな」
「はい。可能なら今すぐにでも対応したいのですが……」
騎士は困った顔をしている。
魔物が出たなら騎士団で対処すればいい。
というほど簡単なことではなかった。
「兄上には?」
「すでに報告済みです」
「そうか。俺に判断を委ねられたか」
ここにきて、国が三つに分断された弊害が生まれる。
騎士団の半数は、現国王が率いる古郡領土に派遣されている。
名目上は派遣だが、実際は国王が引き連れてしまって、戻ってくることはない。
それでも半数は残っているのだが、今回はタイミングが悪かった。
「動ける人員は?」
「すぐに向かえるのは十二名ほどです」
「少ないな……魔物の数は?」
「わかりません。種類は地上性の個体というだけで、それ以上の情報は」
レントが悩む。
情報が不足し、動ける人員も最小限。
その理由は、他でも魔物の動きが活発になり、騎士団員は各地に派遣されているからだ。
加えて王都を空っぽにするわけにもいかない。
よって動けるのは十二人という少数になった。
敵の情報もわからないまま退治すれば、最悪こちらが大きな被害を被る。
だからこそ、騎士は彼に相談したのだろう。
「殿下、お力をお貸し頂けないでしょうか?」
彼は聖人だ。
女神の加護を受けた彼がいれば、どんな魔物が相手でも相応の対応ができる。
レントも理解している。
自分が動くべきだと。
「無論だ。国民を守るのも、俺の役目だからな」
「ありがとうございます!」
「動ける人員を集めてすぐに出発するぞ! 魔物は夜に活発化する。今夜のうちに対処するぞ」
「はっ! 早急に準備いたします!」
騎士は敬礼し、走り去っていく。
何やら大変なことなった。
もう夜だというのに、これから戦地へ赴かないといけないなんて、王子で聖人のレントは大変だ。
「というわけだ。これから西の街、ホードに向かうぞ」
「いってらっしゃい。大丈夫だと思うけど、気をつけてね?」
「何を言っているんだ? お前も来るんだぞ」
「え?」
私は欠伸をして、もう部屋に戻って休もうと思っていたのに。
ビックリして彼の顔を見る。
レントは呆れ顔を見せ、私に言う。
「当たり前だろう? お前は何のために一緒にいるんだ?」
「私がいなくても、あなた一人でなんとかなるでしょ? 私をボコボコにできるくらい強いんだから」
「剣ではな? 相手は魔物の群れだ。何が起こるかわからない。もしもここで俺が倒れたら、その後のお前の面倒は誰が見るんだろうなぁー。兄上も、俺がいるから特別に側役を了承してくれただけで、魔女を放置はできないと思うぞ」
「うっ……」
ひどい脅しだ。
でも実際、私の今があるのはレントが生きているから。
それは間違いじゃない。
彼がいなくなったら……困るのは私だ。
「わかったわよ。行けばいいんでしょ」
「そうこなくちゃ。準備しよう」
「はぁ……」
どうやら、まだ私はゆっくり眠れないらしい。