プロローグ①
連載版スタートです!!
私は女王になんてなりたくなかった。
「女王陛下! 西方の国民が飢餓に苦しんでおり、政府に支援を訴えているようです」
「内容を確認しましょう。資料は」
「こちらに」
大臣から提出された資料に目を通す。
飢餓に苦しんでいるとかいうから、よほど大きな自然災害でもあったのかと思った。
しかし資料を読むと、どうにも自然災害ではないらしい。
「なるほどね。この地域を治めているのは誰?」
「アルフロード公爵家です」
「そう。なら公爵家に伝えなさい。国民から取り立てる税金を今の半分にするようにと」
「よ、よろしいのですか?」
困惑する大臣に、私は呆れながら答える。
「よく見なさい。この規模の領地と領民の数に対して、これは取り過ぎよ」
資料には国民からの訴えも書かれていた。
その中の大半が、お金がないという訴えで占められている。
働いても働いても、大金を領主に搾取されてしまう。
そんな状況で天候の悪化から不作が続き、国民は苦しんでいたが、領主は何も対応しなかったようだ。
「し、しかしアルフロード家は名家です! 我が国の財政を支える貴重な……」
「いくら財政を支える重要な役割があっても、国民を見捨てるような行いをしているなら見過ごせないわ。国民は国にとって血液なのよ。血液なくして身体は動かないわ」
「ですが……このような対応をして、アルフロード家は何というか」
「文句があるなら直接言いにくればいいのよ。私が相手をしてあげるわ」
この手の相手には慣れている。
貴族は自分の利益や地位を優先する者たちが多い。
彼らにはこの国の人間、という意識がどうにも低いらしい。
地位や権力は大切だ。
優劣、上下関係なくして社会は成立しない。
全員が平等、並列なんて世界は作れないし、作った所で秩序がない。
優遇される者、そうでない者は存在する。
それでいい。
重要なのは、何を評価するべきか。
平民だろうと貴族だろうと、この国を支え貢献してくれるなら、対等に評価すべきだ。
「いい? あまりに文句を言うなら、この地は王国に返上してもらうわ」
「よ、よろしいのですね?」
「ええ、私がそう言っていた。伝えなさい」
「かしこまりました」
大臣は苦虫を噛み潰したような顔をして去っていった。
彼も貴族の一員だ。
この後、アルフロード家が怒ることを理解している。
しかし私はそれに屈しない。
貴族だから、なんて優遇はしないことを、彼もよく理解している。
私、ユーラスティア王国、第十七代国王アリエル・ユーラスティアはそういう人間だ。
常に考えているのは国益。
この国を繁栄させ、未来まで守る。
そのために必要なことなら、たとえどんな手段を用いようとも実現させる。
今回は国民の訴えを聞くことになったけど、もちろん逆もある。
どちらかを支持すれば、どちらかに嫌われる。
両方を救い、みんな仲良くなんてのは夢物語だ。
そんなことが可能なら、世界からとっくに争いはなくなっているだろう。
私は王国のためになる選択をし続ける。
必要なら貴族でも切り捨てるし、騒いでいる国民を武力で制圧したこともあった。
当然、反感は生まれる。
けれど半数以上の人々が、私の政策を支持してくれていた。
国はしっかり回っている。
私のやり方は時に過激だけど、何も横暴をしているわけじゃない。
「今日はここまでね」
すっかり夜だ。
私は執務室から出て、寝室へと向かう。
道中、面倒な人と出会ってしまった。
彼女は廊下を塞ぐように立っている。
無視したかったけど、この様子じゃ無理そうだ。
「こんばんは。アリエル」
「……何の御用ですか? シエリスお姉様」
シエリス・ユーラスティア。
私の実の姉であり、本来ならば彼女が女王になるはずだった。
「用がなければ話しかけてもいけないの? 随分とお高くとまっているわね」
「私は女王です。いくらお姉様であっても、意味のない時間を過ごすわけにはいきません」
「……生意気ね。お父様に気に入られていたから女王になれただけの癖に」
「そうですね」
見ての通り、聞いての通り、彼女は私のことを嫌っている。
当然だろう。
本来ならば女王になれたのに、お父様の死後、遺言で私が女王になってしまった。
あの時の彼女の顔は印象的だった。
絶望と怒りを、私にぶつけるような顔だったから。
「用件がないなら、私は失礼します」
「愛想のない子ね? そんなだと、ランド様にも呆れられてしまうわよ」
「……なぜ、ランド公爵の名前を出したのですか?」
ランド・クロータリア公爵。
私の婚約者の一人。
女王である私には、複数人の婚約者がいて、その中で最も位の高い人物だ。
そういえば、最近は顔を見ていない。
重要な会議の場でも、ほとんど会話をしていなかった。
「先ほどまでランド様とお茶会をしていたのよ」
「そうですか。彼はお元気でしたか」
「ええ、私と一緒で楽しそうだったわよ」
「……そういうことですか」
なるほど。
最近私の元に現れないのは、彼女と仲良くしていたからか。
私は小さくため息をこぼす。
「話は以上ですか? 私は行きます」
「少しは悔しそうな顔をしなさいよ」
小声は聞こえていたけど、あえて無視して立ち去ることにした。
私の婚約者を奪って優位に立ちたかったのでしょうけど、生憎私はそんなことに興味はない。
婚約者と言っても、家柄から勝手に決められた相手だ。
そこに愛はないし、運命もない。
何より婚約者が一人じゃないし、仮にランド公爵が離れても、私には何の問題もなかった。
お姉様の頑張りは、ハッキリいって徒労だ。
「そんなだから! 血も涙もない女王なんて言われるんじゃないの?」
「……」
【作者からのお願い】
新作投稿しました!
タイトルは――
『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』
ページ下部にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!
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