女神とありがちな邂逅
《目覚めるのです…》
優しい、清んだ美しい女性の声がする
徐々に意識を取り戻した俺は我に返り寝かされていた石畳の上で飛び起きる
「ここは一体?俺は確か…」
バスに迫り来る土砂と巨大な石、それが俺の最後の記憶である
《残念ながらあなたは死にました…》
哀しみで顔を歪めながら女は言う
長い金髪に緋色の瞳、耳は尖り立派な翼を背負っている
あまりそっち方面には明るい訳では無いがそんな俺でも状況は察した
「女神様、ここは天国って奴ですか?」
月並みの質問ではあるが黙っているよりは大分マシだろう
《日本の方は察しが良くて大変助かります…ここは生と死の狭間の空間です…》
ああそっち系ね、はいはい
新しいアニメの知識は無いが80~90年代のアニメの知識はそこそこにある
理解はまだ追い付いているから大丈夫だろう
《あなたには三つの選択肢があります…》
女神様の言う所には
・ランダムに生まれ変わる道
大当たりも有るが確率的にはほぼ虫やプランクトンだそうだ
絶対にこれはない
・魂を消滅させ永遠の眠りに付く道
女神様によるとこれが一番オススメなのだとか
眠るだけだから恐怖とかそういうのでは無いらしい
そして最後に
・異世界で人として生まれ変わり女神の求めに応じる事
魔王でも倒せとかそういうのだろうか?
サポートは一応してくれるらしい
実質選択肢は二番目か三番目になるのか?
当たり引くまで食物連鎖の中で生きるのはしんどそうだしな
「女神の求めとは具体的に何をしたら?」
結論ここ次第だろう
あんまりキツそうなら寝よう、そうしよう
《実はあなたが遭遇した事故により異世界に十名の生きた日本人が転移しました…これは我々にとっても本意ではありません…出来れば救いたいのです……》
あの事故で半分も生き残ったのか…
その事実に俺は逆に驚きを禁じ得なかった
しかし、幾つかの疑問が残る
「何故自分ではやらないのですか?」
この質問に女神は再び哀しみで顔を歪める
《その世界…イシュカニアには現在強力な魔王が存在します…》
やっぱりそう来たか
まあ、討伐しろとは言われてないだけマシなのか
《魔王の力により世界への干渉が著しく制限をされています…なので異世界に人を派遣さるより手立てがありません…》
申し訳無さそうに女神は俯く
ほんの30分かそこらしか一緒には居なかったが赤ん坊や高校生達は流石の俺でも少しは気になる
どうしたものか
《もし…我々の求めが達成されたなら…次はランダムではなく望む世界に生まれ変われる様ににしましょう…》
これ、内容は兎も角として我々と言うのが気になる
目の前には女神様一人しか居ない
「我々とは?」
大した話では無いのかも知れないが疑問は少しでも解消したい
《失礼しました…この狭間の空間には沢山の神が居ます…事故で亡くなった10の魂にそれぞれの担当が付きます…》
成る程、そしてこの優しそうな女神様は俺の担当と言う訳か
「どうやって探せば?あとどうやって送り返すのですか?」
俺はこの話に乗る事にした
いよいよダメなら次は寝よう
《転生者・転移者の近くに居ると魂が共鳴します…それを頼りに探して下さい…発見したらこちらで再度転送しますので…
成る程、どれだけ広い世界かは解らないが途方に暮れそうな話ではある
「お話を受ける前に聞きたいのですが、俺の家族はどうなりましたか?」
嫁と子供を残してきたのだ、気になるのは当然である
《あなたの生命保険と国からの賠償金で一生生きていけると思います…》
あー、生命保険は微々たる額だから賠償金が大きいのか
嫁よ子よ、達者でな
「解りました、お引き受けしましょう」
ここに第二の人生の幕が切って下ろされる