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鉄壁の運び屋 弐ノ式 ー二つの帝国と目覚めの花ー  作者: きつねうどん
最終章 名も無き運び屋
9/12

第仇話 新参者

「初めてまして、殿。本間旭でございます。この度は手厚い保護を賜りまして、恐悦至極にございます」


やはり、生い立ちという事もあり立派な教育を受けた旭は朝風の前は勿論他のメンバーの前で堂々と綺麗な挨拶とお辞儀を交わした。


「私は何もしておらん。助けたのは其方の相棒だ。感謝は其方にしなさい。良く、生きて来られた。つかぬ事を聞くが其方は異国、しかもあの帳の向こうで運び屋をしていたそうだな」


「あぁ、皆にも伝えておく。望海も光莉も無事だ。向こうで同じく運び屋業をしている。俺はどんな因果が知らないが、向こうでも此方でも運び屋の能力を賜った」


「担当としては朱鷺田さんと俺に近いっすかね。旭さんはかなり特殊な例なのかも。だって、可笑しいでしょ。話が本当なら二つの帝国に同じ旭さんがいるんだから。いや、比良坂町も含めれば3人目か」


その言葉に付け足すような形で朱鷺田も口を開いた。


「そうなんだよ。言ってしまえば、比良坂町にいる俺達は2人目の自分なんだと思う。この世界は壁に囲まれてた時の比良坂町に良く似ているんだ。此処の俺達が言わばオリジナル。そんな事を思ってしまう程に今の俺達は鮮明に此処で生きている」


周囲が驚く中、山岸は冷静に考え事をした後こう呟いた。


「ずっと、颯の話も聞いていて俺は血統によって運び屋になるか否かが決まると思ってたんだ。現に颯は1/4引き継いでいると本人も言っていた。だけど、その彼がいない。もしかして違う条件も合わさっているのか?」


「少々、宜しいでしょうか?確かに私や燕様は所謂、世襲制として運び屋業を営んでいます。ですが、それは極めて稀な事なのです。だからこそ、代々続く乙黒家は名門と言われる。同じく隼様もお母様が運び屋をされていたそうですが、夜間勤務ですし担当場所も今の隼様に良く似ていらっしゃいます。これは何か“適正”があっての事では?」


海鴎の言葉を受け、児玉は思い出したかのように口を開いた。


「あり得ない話じゃないな。以前、望海から聞いた事があるんだ。母親は能力に恵まれず、劣等感を持っていた。だが、子供である望海は覚醒したようにその力を使い今尚活躍している。突然変異という可能性もあるが。それ以上に」


その児玉の会話に入るように、隼も提言した。


「海鴎の言う通り、適正があったんだろうね。過去の運び屋を受け入れる適正が。俺達はこの世界の住民の“生まれ変わりだ”姿形を変えても尚、運び屋として存在している。そうなると現実世界にいる颯先輩は言ってしまえば初代という事になる。逆に旭さんは3代目、だとすればだ。時系列が生まれてくる」


「向こうにいた旭が初代で今此処にいる旭が二代目。なら、旭は過去から未来に来た事になる。時間の壁すらも超えてしまったと言う事か。だとすればだ、向こうにいる望海や夢野さんはどうなる?こっちに来れるのか?」


朱鷺田の質問に対し、旭は素直に首を横に振った。


「それはまだ分からない。ただ、俺は三つの世界をこれまで生きてきた事になる。それは例外中の例外だ。2人にそれが当てはまるとは限らない。そう考えてると向こうが心配だな。時の流れがどうなっているのかわからないが、俺が居なくなってパニックになってないと良いが」


その旭の予見は的中する。事務所にいた望海と光莉は野師屋に詰め寄り、真相を探ろうとしていた。

その後ろで斑鳩も問いただすような事はしないが、険悪な表情になっていた。


「何故、旭さんが帰って来ないんですか!?目撃者は!?」


「旭の担当している場所は海の近くだからね。あそこには人魚がうじゃうじゃいる。しかも本島ならまだしも、此処近辺は海流が荒いんだ。劣悪な環境にいる人魚程、凶暴な性格になる。君達も知ってるだろう?運び屋がどれだけ過酷な仕事か?」


その答えの先を想像した時、2人は背筋を凍らせた。

斑鳩は2人を説得するようにこう発言する。


「今から調査に向かったとして、2人に何かあればそれこそ旭君の二の舞になる。それ以上に印を持っていない。今は冷静に行動するべきだ。夢を見ている時こそね」


「そうだ。ここはあくまで、夢の世界。現実世界の旭がいなくなった訳じゃない。だとしても心配だよ。現場世界に戻って心もそうだし身体の無事も確認して安心したい」


「確かに、光莉の言う通りです。私には大切な仲間がいます。野師屋様、貴方と少しですが共に過ごせて嬉しかった。どうか、お許しください」


「許すも何も、最初からこうだったんだ。では、これから君達が元の世界に戻れるよう。スープを作らなくては」


そう言うと3人をテーブルへと案内し。数分後、月下美人を使用したスープを目の前に差し出された。


「レシピは秘匿だけどね。現実世界の君達なら、大丈夫だろう。私からの最後の願いだ。どうか、“名のない運び屋”を見つけて欲しい。その子達がこのレシピをもっているよ」


その意味不明な言葉に望海は疑問府を浮かべていた。


「“名のない”と言う事は現実世界には存在しないのでは?野師屋様、矛盾しておりますよ?」


「良いや、その言葉の通りだよ。だって、私だってそうじゃないか。“名前はあるのに存在していない”なら“名前はないけど存在してる”子達がいてもおかしくないだろう?」


「なんか、哲学的な話をされちゃったな。でも、これで現実世界に戻れるって事だよね。野師屋様、ありがとう。貴方の事は忘れない」


そう言われ、野師屋は安心したのかスープを飲むように催促する。

3人で同時にスープを飲み干すと夢の中にも関わらず、突如眠気に襲われる。3人は気絶するように倒れ込んだ。

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