第漆話 夜会
「うわぁぁぁん!隼君!無事で良かった!お父さん、凄い心配したんだよ!」
場所は帝都の巨城、全国に散り散りになった運び屋をなんとか連携しながらかき集める事に成功した。
そんな中で隼は山岸に捕まり、抱きつかれているようだ。
「済みません、心配かけて。ただ、瑞穂さんや咲羅さんが側にいてくれたので俺としては心強かったです」
その言葉を聞いて、山岸は2人にお礼の言葉を伝えた。
「不思議っすよね。隼は俺達とは別の担当場所が与えられて、しかも夜勤だし。小町ちゃんもそうなんすけど、颯もいないんすよね。本当に不気味過ぎる」
「私も担当場所が全然違くて。何か、寿彦さんと翼君の橋渡しをするような行動範囲になってるの。合流出来ただけまだマシと思うしかないわね。那須野さんも範囲が更に狭くなって身動き出来ないって言ってたし」
青葉と翼はやはり、この世界に対し戸惑い恐怖しているようだ。
那須野も青葉と目を合わせ、苦しげな表情で頷いていた。
そんな時だった、児玉、燕、剣城が現れた。
「小坂がこの世界にもあって良かった。児玉さん達とも何とか合流出来たし。ただ、俺の仕事は23時59分で終わるのが美徳だと思っていたんだがな。まさか夜勤に回されるとは」
剣城の姿を見て安心したのか希輝と白鷹がすぐさま駆け寄り、そのあとに浅間が笑顔で彼に近づいた。
「剣城君、無事で良かったわ。白山さんにも手伝ってもらったんだけど。どうしても見つからなくて」
「そうなんだよ、剣城!浅間先輩、相方がいるんだって!面白いよね。でも、黒百合みたいに神秘的で素敵な人なんだよ」
「白山なのに黒百合なのか。たしかに面白いな。行動範囲が特殊すぎてな。まるで比良坂町の担当範囲を綺麗に無視したような印の配置になってるんだ。朱鷺田さんや児玉さん達の方が連携がしやすかった。希輝や白鷹もそうだろう?」
「朱鷺田さんに協力してもらえなかったらここに来れてないしね。越後は自分達が考えるより要所だと思う。今回の会議でも話さないといけない事もあるしね」
白鷹が朱鷺田に目配せすると、後輩に慕われて嬉しかったのか照れながら此方へ手を振っているようだった。
それを谷川が呆れた表情で見ているという状況だ。
「皆んな揃ったね。いやはや、ご苦労。ご苦労」
最後に朝風が登場し、彼を議長として会議を始めた。
その中で最初に意見を出したのが児玉だった。
「まず、メンバーの把握をしておきたい。と言うより、この帝国にいないメンバーの整理だな。光莉、望海、旭、颯、小町。それと黄泉達3人は確定か」
「児玉さん、それに付いてなんだか希輝達がある可能性を提示してくれた。西海岸にあるあの“カーテン”あの向こうに旭達がいるんじゃないかってな」
朱鷺田の言葉に希輝と白鷹は頷き、その他全員は目を見開いてた。
朝風に関しては顎に手を当て、考え事をしているようだった。
「殿、俺や燕も把握してるがあのカーテンはいつから現れたんだ?」
「正直、私にも不明なのだ。私がこの帝国で生を受けてからアレは常に存在し、私達の生活の一部になっていた。あの帳の向こうに何があるのか?様々な噂が流れたがその真実は明らかになっていない。だがそれがもし本当なら、此方の人間が助かったとしても彼方の人間を助けると言うのは難しいだろう」
その言葉に児玉と朱鷺田は目を見開き震え出した。
ずっと一緒にいた仲間が離れ離れになり、もう二度と現実世界で会う事は叶わない。それだけは何としても避けなければならないのだ。
ただ、そんな中で隼はある意見を出した。
「...こんな場面で言う事ではないかもしれないけど。以前、颯先輩から見せてもらった本に「月下美人」を薬用に使えばどんな病でも治せるって書いてあったんだ。だから、この世界でそれを服用すれば」
「俺達は戻れるかもしれないって事か。それか、現実世界にいる誰かがそれに気づいてくれるかのどちらかだ。確か、倒れる前。颯と小町の声を聞いた気がするんだ。もしかしたら、2人は現実世界にいるのかもしれない。颯は特に赤い血に詳しいし、何か手掛かりを持っているのかも。それ以上に隼の見た本は颯の所有物だしな」
寂しげにいう山岸の言葉に隼は頷いた。
「「月下美人」って夜に咲く花よね。末っ子君はこの世界だと夜勤者だからそれに気づけたのね。だとしたらよ、もし向こうに末っ子君と同じ存在がいたら気づいてくれないかしら?」
「...望海?」
児玉は自分でつぶやいた言葉に自分でも驚いているようだった。
ただ、その言葉を聞いて隼はしっかりと頷いた。
「望海を初めて見た時、凄い光莉と対称的な子だなと思ったんだ。ほら、光莉は昔から悪餓鬼の問題児だったしな。でも、明るくて昼間の太陽みたいな子だった。間違いなく、彼女は俺の光だった。反対に望海は夜のように静かで、優等生のような子だった。でも、生い立ち的に所々影があって月のようだなってずっと思ってたんだ。多分、いや確実にこの帝国での隼のようなポジションにいるんだろう」
「俺はさ、山岸先輩もそうだけど周囲からも望海と比べられる事が多いんだ。“運び屋の顔”と“運び屋のエース”として。姿形は変わってしまっても“名前”は変わる事はない。そして俺達は運び屋として存在している。だとすればだ」
「隼君が夜の王であるのと同時に、望海ちゃんも夜の女王という事よね。これって、何かの因果が働いてるのかしら?偶然にしては出来過ぎているように感じるけど」
不安がる瑞穂に対し、隣にいた咲羅は口を開いた。
「瑞穂、迷うな。迷えば、後退りは出来ても前に進めなくなる。それだけ分かれば十分だ。後は望海を信じて、此方は此方で出来る事を探せば良い」
「そうね、咲ちゃん。こう言う時こそ、私達の絆が試されるのよ。比良坂町での出来事だって、1人でも欠けてたら絶対に真実に辿り着く事は出来なかった。例え離れていても、引き剥がされても、目的は違っても全員同じ場所に辿り着く。屋上で見た朝日のようにね」
その言葉に児玉と朱鷺田は覚悟を決めたように目を見開いた。