第壱拾話 取引先
場所は書庫、颯がある本を発見し黄泉に提示し相談すると双方苦笑いを浮かべていた。
「「月下美人」か。これは困った事になったね。比良坂町には無い可能性が高い。と言うより、夜間勤務の運び屋も朝日奈兄妹ぐらいだからね。臨時で銀河君が担当してる時もあるが行動範囲が限られてる。その中で目撃証言を取るとなると」
「針の穴に糸を通すような物だよな。後は、比良坂町の外から持ってくるかだ。幸い、伝はある。望海の弟に頼むっていう考えもあるだろ」
その様子を見ていた小町がある提案をした。
「だったら、秋津湊のメンバーに頼ればいいの!あの人達だったら、外の世界に行けるんでしょ?」
そう言うと黄泉は困った顔をした。
「確かに外の世界に行けるかもしれない。だけど、見ず知らずの相手に協力してくれるお人好しがいるか?と言われればそうでない」
「Dr.黄泉の言う通りです。しかも、つい最近まで戦場となっていた。その事実を踏まえても国際情勢は悪化しているに他なりません。そんな中で我々に友好的に接してくれる人達がいるでしょうか?」
初嶺の問いかけに全員口を噤んでいた。
その時だった。愛の元に無線が入る。
「節子お嬢様?...はい、此方東出愛です。本当ですか!?望海さんと光莉さんが!はい、皆さんにも伝えておきます!黄泉先生!朗報です!望海さんと光莉さんが目を覚ましたと。それでなんですが、人探しをしているようなんです。詳しい話は協会でしたいと伺っています」
「分かった。これで何か状況が変わると良いのだが」
それと同時期、協会の医務室で光莉は眠りにつく児玉の手を握り。祈るように目を閉じ彼の無事を願っていた。
そのあと、望海も慌てながらも協会に到着しその様子を見守っていた。
「玉ちゃん、絶対。絶対助けてやるから!待っててね。よし、望海。まずはDr.黄泉達と合流しよう」
「“名もなき運び屋”それが何かの手がかりになれば良いのですが」
そのあと、会長室で全員合流し今後について相談する事にした。
「颯さんの言う通り、月下美人が今回の手がかりなのは確実でしょう。ですが、その生息地と野師屋様が作ってくれたスープのレシピ。それがなければ意味を成しません」
「月下美人ってサボテンの仲間なんだよね?なら、暑い所じゃないと咲かないじゃん!どうするの!?」
「いや、それ以上に“名も無き運び屋”ってなんだよ。其方の方が意味不明だろ。だけどもし、望海達が見た夢が過去の回想だとしたら今でも月下美人を食用に使う文化のある所があるかもしれないって事だ」
「私達のいた帝国は沢山の言語が飛び交う所だったんです。その時にその文化も入ってきたのでしょう。野師屋様が好んでいただけかも知れませんが、地理的には近い筈なのです。比良坂町にも帝国にも」
その会話を聞き、側で見守っていた節子はこう助言した。
「あの、少し宜しいかしら?以前、同じような事を聞いた事があるの。そうよね?お母様?」
「えっ、えぇ。確かに、その方達はね。多国籍の方々に影響を受けて運び屋業をされているの。だから、私達が使っている武器に目をつけて使わせてもらいたいと依頼を受けたのよ。勿論、相手は選んだつもりよ」
「あれは技術の結晶だからね。高値で取り引きさせてもらったよ。勿論、安全性と信用は折り紙つきだけどね。また、契約延長の話も出てるし。しばらくはこの繋がりは保てそうだ」
その言葉に望海と光莉はソファから立ち上がった。
それほどまでに、その言葉が印象的だったのだろう。
ようやく、答えに辿り着く事が出来た。
「...その取り引き先って何処なんですか?」
そのあとの事だ。場所は秋津湊、運び屋の代行として多忙に極める音無の元に久堂が現れ、急かしたように肩を叩きメモを渡した。
「音無、指令だ。こんな忙しい時に、福爾摩沙に行けとのお達しだ」
「はぁ!?行けなくもないが、琉球の更に奥に行けと?上司は何を考えているんだ」
「さぁな。その中で、運び屋の取り引き先である。高先生に会って欲しいそうだ。運び屋を育成する学校の教師らしい。その中で“名も無き運び屋”を探せと書いてある」
詳しい情報が書かれたメモを見て、音無は更に困惑した。
「これ、鶴崎からじゃないか。全斎の許可無しに俺は動けんぞ。門だって共同で使ってるのに」
「いや、面白いぞ。俺たちの上司が鶴崎の案を受け入れたんだ。しかも、全斎本人は花を探してくると言っているらしい。鶴崎でも不可能だと悪い笑みを浮かべてな」
そう言うと音無と久道はお互い爆笑し始めた。
「これは傑作だ!運び屋の為に双方が動くとは!面白いな。なるほど、それでか。じゃあ、俺も動かないとな。ひとまず、平埔に向かわないとな。運び屋を探すのはそれからでも良いだろう」
次回、最終話&元ネタ解説で完結とさせて頂きます。よろしくお願いします。




