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異世界の三兄姉弟1

 町のはずれにある塔の中の薄暗い部屋。そこに響く不気味な笑い。小柄な体躯から伸びる腕で周囲の実験器具や実験材料をごそごそと動かしている。手元は常人には視認できないほど暗いのに、明瞭に見えているかのように手を動かしている。もしくは、そこにあるものすべての位置を覚えているのだろうか。彼は驚異的な集中力で事を進めている。その集中力のせいか、部屋の扉が開き誰かが入ってきたことにも気づかなかったようだ。

 「それ改良された魔力薬?」

 「うばぁぁぁああああああ!!」

 「うわ悲鳴やば」

 白髪の少女が部屋に入ってきていたようだ。少女は15歳、動きやすそうでいて可愛らしさのある服装をしている。

 「いいいイヴ、いつのまに入ってきてたの」

 少年は17歳、青い髪で研究者風の装いを厚手のローブで覆い隠すようにしている。

 「いつもなにもないよ、さっき入ってきたばっか。というか今日何日だと思ってんの、シア?」

 シアと呼ばれたその少年は、少し困惑した表情で「えーと、15日…?」とつぶやく。それに対しイヴは「何言ってるの!?今日は18日!魔力薬と治療薬の納期は過ぎてるの!冒険者(アドベンチャーズ)組合(ギルド)から在庫がなくなるって言われてんの!」と怒鳴る。

 「うう、ごめんよ…でも、なんで組合(ギルド)は僕の錬成薬だけをあてにしてるのさ、他の錬金術師が供給すればいいだろうに…」

 シアは周囲に散らばる紙やペンをわきに寄せ、それらを手で制するように片手間に魔法を使った。中級の生活魔法である『整理(ディスポシティオ)』程度ならば、素質あるものが少し練習すれば使えるようになる。そうしてまとまった紙類にはもう目もくれず、日の当たりにくい場所からフラスコに入った液体を取り出した。

 それをずらりと並べた色付き小瓶の方に持っていく。

 『均等(アエクアリタス)

 上級生活魔法は基本的な素質と練習だけではなく、もっと重要な「才能」が必要になる。シアは錬金術の才能しかないために、上級魔法までしか使えない。それ以上の高級・聖級・神級の魔法は、魔術の才能が必要である。

 フラスコに入った無色の液体がふわりと浮いて、並んだ色付き小瓶に均一な量が注がれる。それと同時に小瓶の色と同じ色のガラス棒を手に取り、錬金魔術『(オペレクロ)』で魔法薬の入れ終わった小瓶に蓋がされる。

 「…いつ見ても(オペレクロ)の段階が一番好きだな~」

 「えぇ?僕らからしたらただの作業なんだけどな…錬金術用ガラスじゃないと魔法薬が劣化しちゃうから全部それにしてるってけだし」

 「だって、ガラスの形が変わって綺麗に蓋になるの好きだし」

 イヴが暇つぶしという名の監視をしている中、シアはまた別の魔法薬を違う色の小瓶に詰めていく。

 「…そっちは何の薬?」

 「こっちは治癒薬だね。飲む用じゃなくて傷口にかける用。デザインが丸い奴は基本かける用かな」

 「へー、今まで気にしたことなかったな」

 「まあ、魔獣の治療薬はまったく違う規格だからね。人間用より種類が細かいからさすがに覚えてないけど」

 そんなことを言いながらシアは淡々と作業をしていく。研究に没頭する癖さえなければただの有能な錬金術師だ。国家錬金術師にならないかと打診を受けたときですら連日連夜の研究とその反動の熟睡で期日を過ぎてしまったほどだ。

 「はい、できたよ。少し数多くしたから大丈夫だよね?」

 「多分ね。運ぶの手伝うよ」

 緩衝材の布を敷き詰めた木箱に底板を数段渡して小瓶が並ぶ。それに蓋をしたものが三箱。引きこもりのシア一人では運べないし、イヴも町の中心部の組合(ギルド)までは運べない。しかし玄関まで運んでしまえればあとは楽なのだ。

 イヴが周囲を見回し、十分にスペースがあることを確認すると、地表に魔力をためていく。

 『召喚(ヴォカレ)・パーヴンド』

 すると、地表の魔力を介するように小型の竜が現れた。翼はないが、温厚な性格で荷運びによく使われるものだ。

 「あとは荷台を着ければいいね。前置いてったやつあるよね?」

 「もちろん。こないだマシュが来たときにミスリル分けてくれたから、それで金具補強したけどいいよね?」

 「うん。さすがは我らが弟様だねぇ」

 「様様だ」

 マシュはイヴの一つ年下の弟だ。魔術師の才能があるものの、魔術学園には入らずに冒険者として叩き上げで魔術の腕を上げている。そのおかげで希少素材などを兄姉に分けたりすることができ、シアとイヴが加工することで売ることもできるのだ。売り上げは兄姉弟で山分けしているので、全員に利がある話なのだ。

 パーヴンドに荷台をつけ、三つの木箱を乗せる。背中が平たいので荷物のバランスを崩しにくいことも、イヴがわざわざパーヴンドを召喚契約している理由である。

 「やっぱ鱗がごつごつしてるなぁ…これでふわふわだったら最高なのに」

 「イヴ本当にモフモフが好きだよな」

 「モフモフは正義なの」

 二人と一頭で組合(ギルド)まで歩いていく。町の中心部まで来るとたまに同じように商品を運んでいるであろうパーヴンドとすれ違う。皆下手に商品を壊したりして問題が起きないようにパーヴンドが通れる道を作る。人通りもそこそこあるものの、ギルドまで難なく行けるのもこうした理由がある。

 「パーヴンドはそこにとめて。報告行ってくるから」

 シアは一人で組合(ギルド)の中に入っていく。

 「シロナさん、錬金薬持ってきました。遅れてすみません」

 「いえいえ、在庫が尽きる前に間に合ってよかったです。表にありますか?」

 「はい、三箱分。人手をお願いできますか?」

 「はい。ナートさん、ラータさん、手伝ってくださーい」

 受付嬢のシロナが奥に向かって声をかけると、見た目のよく似た職員が現れる。双子の兄妹なのだ。彼らはシアと共に組合(ギルド)の外に向かう。

 「お待たせイヴ。じゃあナートさんとラータさんはこの箱をお願いします。僕はこれ運ぶので」

 「「はい」」

 三人で箱を持てば、すぐに作業が終わる。納品書にサインをしてもらえば、あとは報酬を受け取るだけ。さっさと終わったその作業に、「期日さえ過ぎなければランク上がるのになぁ」とイヴはぼやく。

 イヴも冒険者だが、Aランクの弟とは違いCランク止まりである。それは召喚術師というこれまた上級魔法までしか使えない打ち止めの職だからだ。そして期日を守らない錬金術師のシアはというと、Fランクである。期日を守れないのには研究の幅が広すぎるが故でもあるのだが、組合(ギルド)に登録している以上、定期収入を得るには期日を守るべきなのだ。研究費用の為にも遅れてはならないはずが、組合長(ギルドマスター)の温情で薬品(ポーション)が切れる前であれば遅れての納品でも定期収入がもらえるのだ。

 「ほんと、いつもありがとうございます。うちの兄がご迷惑おかけして…」

 「いえいえ、シア君の錬成薬は割安だし、その上効果もハズレがないからいいんですよ」

 「…あれ、ひょっとして僕の薬がやたら重宝されてるのってそのせい?」

 「腕を買われてるんでしょ。ほら、このまま籠借りてパーヴンドに乗って。素材調達だよ」

 「うげぇ…」

 保存魔法は錬金魔法の一つで、シアがいないと使えない為素材調達というシアにとって単調な作業に駆り出されるのだ。

 「特に生花なんかはシアがいないとすぐ萎れちゃうんだから…」

 「はいはい、わかってるよもう…」

 兄妹の会話は近郊の森に入っていった。

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