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蛇女の足  作者: こばゆん
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第三話

 以前、松本清張原作の『鬼畜』という映画を観た時、私は亡くなった父を思い出しました。

 身から出た錆とはいえ父も、昔の交際相手と妻との間の板挟みにあい、子供を捨てた男です。

 父の場合、母親からも頭を押さえつけられていました。


 交際していた女性が身ごもった時、父は母親から結婚を反対されました。

 母親に言われるまま、その女性に子供を堕ろしてくれと頼み、金銭を渡して別れたのです。

 その後すぐに、父は母親が決めた相手と結婚しました。


 ここまではよくある話ですが、父の交際相手は約束を守らず、子供を堕ろさなかったのです。

 そして一人で産むと、新婚夫婦や舅、姑が暮らす家の玄関先に赤子を置いて行方をくらませてしまいました。


 父は妻や母親に言われて、赤ん坊を乳児院に預けました。

 その時の赤ん坊が私です。

 私は四歳まで施設で育ちました。


 父の奥さんは、何年経っても子供が出来ず、検査の結果妊娠は難しいとわかり、家族会議の結果、私は父の家に引き取られることになりました。


 大人になり、私は実の母親と会いましたが、驚いたことに祖母や育ての母親とそっくりな勝ち気な女性でした。

 父はM気質の強い人だったのかもしれません。

 父とはほとんど会話を交わすことなく、高校卒業と同時に家を出たので、どんな人だったのか、よくわかりません。


 敗戦国となった日本では、男は皆自信を失い、男を立てて一歩下がっていた女が前に出なければならなかったと、何かで読みましたが、私が子供の時の周りにいたのは強い女の人ばかりでした。


 家の中だけでなく、食堂にやってくる夜の商売の女の人たちも、大声で喋り、酒を飲み、タバコを吸い、よく笑っていました。



 私は小学校、中学校と友達が一人もいませんでした。

 どうしょうもなく臆病で、人から声をかけられただけで固まっていました。

 もしかしたら私の父も子供の時には、そうだったのかもしれません。

 父は胃がんで四十代で亡くなりましたが、私も胃腸が丈夫でないので、父の年まで生きられるかどうか不安になる時があります。


 学校でも一人でしたが、家でも絵を書いたり絵本を読んだり、ほとんど一人で過ごしていました。


 そんな私にとってトメさんは貴重な存在でした。

 蛇女への憧れを初めて言葉にしたのです。


 もし他の人に話していたら、私の間違いを正してもらえたかもしれません。

 蛇女など本当はいないと笑われたかもしれません。


 でもトメさんは「蛇女が見たい」と言い、お金まで出してくれるというのです。


 私達はその夜、一緒にお祭りに行きました。

 テキ屋さんの威勢のよい掛け声や、明るいネオン。

 それらを通り過ぎた神社の外れに作られた暗い小屋の前に立った時、私は夢をみているような気持ちでいました。


 ボーッとした頭で、蛇姫様の看板を見上げました。

 

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