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蛇女の足  作者: こばゆん
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第一話

 これは私が十歳の時の話です。


 私の生まれ育った家は、東京でも指折りの繁華街にあります。

 今では廃校になりましたが、通っていた小学校にテレビの取材がやってきたこともあります。




「これほど犯罪が多発する地域に、小学校があっていいのでしょうか」


 スーツ姿のリポーターが校門の前で叫ぶのを、私は大勢の野次馬と共にポカンと聞いていました。

 やり直しを命じられたそのリポーターは、今度は静かな口調で、小学校だけを強調して、同じことを言いました。


「これほど犯罪が多発する地域に、小学校が、あっていいのでしょうか」


 ボケっと取材を見ていた私は、突然マイクを向けられてしまいました。


「今までに怖い思いをしたことはある?」


 人見知りだった私は、ドキドキしながら何も答えられませんでした。

 マイクはすぐに、私の近くにいた大人に向けられました。


「この地域に住まわれて、何か危険を感じられたことはありますか?」


 その大人が何を言ったのかは覚えていませんが、私の時とは違い、丁寧な言葉使いできかれていたことを覚えています。


 そんな地域でしたから、授業参観に来る親たちの腕に、色とりどりの絵が描かれているのも当たり前に見てきました。

 そしてクラスで力を持つ子供の親の身体には、たいていそういった絵が描かれていたのです。

 どんな悪さをしても、その子達は先生からは何も言われず、なにやら気を使われている気配まで感じられました。

 いまでいうとスクールカーストの上位と言えるのかもしれませんが、容姿や成績や運動能力関係なく、この子たちには絶対逆らってはいけないという暗黙のルールが、クラスを暗いものにしていました。




 家の近所に大きな神社がありました。

 お祭りの時は、テキ屋さんの威勢の良い声が飛び交って、とても賑やかでした。


 私には、お祭りのたびに気になり、親に連れて行ってくれとねだっている場所がありました。


 それは祭りの時にだけ建てられる掘っ立て小屋です。

 小屋の看板には、悲しそうな目をした美しい女の絵が描かれていました。

 そしてその絵の下には『蛇女の館』の文字。


 そこはいわゆる見世物小屋です。

 こう書けば、小屋の中にはどのような境遇の女性がいるのか、これを読んでいる皆様には想像がつくと思います。

 

 ただ当時私は十歳。

 子供版のグリム童話やアンデルセン童話を夢中で読んでいた頃です。

 看板に描かれた美女を見て、蛇の国のお姫様が人間に捕まってしまったんだと、本気で信じていました。


 戦後三十年以上経ったとはいえ、まだまだ猥雑な昭和の話です。


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