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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻四
99/105

継母の泣き所①

●四の君、実家の母を頼る


 権の守(太宰帥の嫡男)も式部大輔しきぶのたゆう(太宰帥の三男)も、筑紫へ赴任する父親の見送りをしたいので、朝廷に正式な休暇願を届け出ます。実家である帥邸へ帰ってきて、後日、山崎まで見送りにいくのです。


 この二人の息子のほかにも、見送りに何人もの人たちが集まってくるのですから、あらかじめかずけ物を用意しておく必要があります。太宰帥は、被け物とする装束を仕立てるために、絹二百疋といろいろな染め草を四の君に預けます。


 お嬢さま育ちで主婦業を経験したことのない四の君は、慌ててしまいます。


 絹、二百疋!

 これは何? 茜? 藍?

 どこから手をつけたらいいの?


 四の君は母親に助けを求めます。

『帥殿から、被け物の用意をせよ、と絹地を山のように渡されました。どうしたらいいのでしょう? 三条殿からついてきてくれた侍女たちも、若い人ばかりで、相談できそうにありません。母上が恋しくてなりませんわ。幼い姫君にも会いとうございます。人目を忍んで、こちらへおいでくださいませ』



●またも親子喧嘩


 文を読むや、故大納言の北の方は、じっとしていられなくなります。少将(三郎君)を呼びます。四の君からの文を見せて、

「私は行くよ、あっちへ。夜になったら、人目を忍んでね。車の用意をしておくれ」


「人目を忍んで、って……そんなわけにいきませんよ。バレちゃいますよ。四の君の姫君を連れておいでになる? 帥殿にもお子さまがたがおありなのですよ。それも、まばゆいばかりにかわいらしいお子さまがたが。そんなところへ母上が子連れで訪ねていかれても、格好がつきませんよ。帥殿は、亡くなられた北の方の忘れ形見という十歳ほどの女君と十二歳ほどの男君を、いつもおそばへ呼んでは、かわいがっていらっしゃるとか。こちらの姫君をお連れしたら、かえって、かわいそうなことになります。左大臣殿の北の方さまにご相談しましょう。あのお方が、いいでしょう、とご承知なさったら、帥邸へお出かけください」


「納得いかない話だよ。左大臣殿の北の方が承知しなけりゃ、親子の対面も叶わない。あの北の方が、そうやって、四の君を筑紫へ下らせるんだね」

 

「また、そのようなことを……」


 北の方は泣き顔になって、まくしたてます。

「おまえもほかの者たちも、左大臣殿の北の方が生きてるあいだは何でも遠慮するってわけだね。昔は私が人を思いどおりに使っていたというのに、今は私が人の言うことを聞かなきゃならない。情けないねぇ。私が何を言っても、誰も親身になって応じてくれやしない!」


 また、母上のヒステリーだ。少将は心のうちで、ため息をつきます。

「そんなことありませんよ。今回の件は、私にご相談されましても、私の一存では決めかねることなので、さっきのように申しあげたまでです。このように私を責めるのは……勘弁してくださいよ」

 立って、行ってしまいます。



●少将、左大臣の北の方に相談する


 少将(三郎君)は三条殿に参上し、左大臣の北の方に相談します。四の君が被け物の用意ができずに母親に助けを求めてきた、という部分は――おっと、それは伏せておこう。


「四の君が母を恋しがっておいでなのです。幼い娘にも会いたいと、おっしゃっていて」

「当然のことですわね。母上たちを早く帥邸へ行かせてさしあげなさいませ」


「帥殿がウェルカムとおっしゃってくださっていないのに、ですか? いきなりの訪問は、まずいと思うのですが」

「あ……それもそうですわね。では、少将殿が帥殿のお屋敷をお訪ねして、四の君と帥殿がいっしょにおいでになるところで、こうおっしゃってはいかがでしょう。『母上からのご伝言です。――四の君をとても恋しく思っています。ほんの少しのあいだだけでも、こちらへお帰りください。遠い筑紫へ行ってしまわれる日も近づいて、とても辛く心細い思いをしています。あなたが京にいるあいだは、ずっとそばにいたいのです』とね」


「とても辛く心細い思いを――」

「そう。そこを強調なさいませ。帥殿は、それをお聞きになれば、何かおっしゃるはず。帥殿の意向に従って、母上があちらをお訪ねするか、四の君をご実家へお迎えするか、お決めになってはいかがでしょう」


「それは名案ですね!」

「ただ――幼い姫君のことですけど、帥殿に、四の君のお子だと知られないようになさったほうがいいでしょう。少将殿におまかせしますけれど。四の君が姫君を連れて筑紫へ下向なさるのなら、それは母上のお心遣いによるものと、しておきなさいませ。四の君が一人で遠方へ下るのが心配だから、母上が姫君をお供させる※ことにしたのだと、ね」


 少将は帥邸へ向かいます。


※母上が姫君をお供させる――この場面では説明がありませんが、四の君と面白の駒とのあいだの娘を、故大納言が高齢になってからもうけた子、つまり、四の君の妹ということにして、帥邸へ送り届けたことがわかります。



●継母、はしゃぐ


 さて、太宰帥の反応は、このようなものでした。妻である四の君に言います。

「畏れ多いことながら、母上にこちらへ来ていただきましょう。幼い子供たちがいて落ち着かないとおっしゃるなら、あの子たちがうろちょろしないようになんとかしましょう。あなたが京にいられるのも今日明日のこと。母上に会わずに筑紫へ発つなど、できないことですよね」


 うまいぐあいに話が進んだ、と少将は安堵します。こっそり、姉の四の君にVサインを示します。

 四の君もにっこり微笑んで、

「必ず必ず、母上をじゅうぶんに説得してくださいな」

 説得などされなくとも母親はすっとんでくる、と承知しているのですが。


 少将は帰宅して、母親にことの次第を伝えます。

「左大臣殿の北の方さまがお知恵をさずけてくださったんですよ。あのような幸運をつかむお方は、さすが、お心延こころばえがちがいますね」


 母親は四の君に会えると聞いただけで、もう有頂天です。ご機嫌です。

「お心延え? 本当に、ねぇ♪ 三の君? 三の君はどこ? 出かけますよ、帥邸へ」

 少将は呆れてしまいます。すでに日が暮れているのです。

「明日になさってください!」

「ふん……じゃ、そうするかね」



 翌朝――。

 母親と三の君は出かける支度を始めます。


「ちゃんとした衣装が無いのが情けないねぇ。今着ているこれは、どうとりつくろっても、おニューには見えっこないんだし」

 母親が嘆くと、三の君も顔を曇らせます。

「なるべく人目につかない所にいよう、と思います」


 そこへ、三条殿から贈り物が届きます。三(よろい)衣箱ころもばこです。美しく仕立てあげられた女装束が納められています。


「私たちのために、ということのようだね」

「こちらの箱には添え文がありますわ」

「どれどれ?」

 

『小さいお子さまに着せてさしあげてください』


 贈り物には、四の君の姫君のための一揃いも含まれていたのでした。すべて、左大臣の北の方、かつての落窪姫の心遣いなのです。


 継母は大はしゃぎです。

「人は、実の子より継子の恩恵を受けるものなんだねぇ。四の君の姫君のための衣装は、贈ってもらえて本当に助かったよ。嬉しい。嬉しい!」


 この感謝の念、いつまで続くことやら――。

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