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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻四
98/105

四の君の再婚④――豪華な宴

●道頼の告白


 四の君の結婚二日目の描写はなく、三日目の話となります。

 

 左大臣道頼は三日夜みかよの祝宴の支度をします。四の君と太宰帥は再婚同士ですが、宴は左大臣が主催するのです、質素に、なんて考えはお呼びじゃなく、盛大なことこのうえもありません。何もかもが華やかです。四の君にはため息が出るほどに豪華な装束が用意され、侍女たちにも真新しい袿、唐衣、裳が贈られました。四の君のために、京の都で人気ナンバーワンのヘアメイクアーティストが呼ばれたことは、言うまでもありません。


 準備がほぼ終わり、あとは太宰帥を迎えるだけとなったころ、道頼は北の方(姫君)と語りあいます。


「女性というのは、周りから大切に大切に世話をしてもらうことで、夫の情愛を勝ち取るんだ。こんなに気遣われている女性なのか、と夫は妻を愛しく思うようになる。四の君のお世話には、あなたも心を砕いてほしい。この三条殿で初めて執り行う婚儀なので、行き届いていない感じがして、四の君に申し訳ないと思っているんだ」


 北の方(姫君)には、その昔、左大臣道頼が――当時は少将でしたが――初めて自分のところへ通ってきたときのことが思い出されます。

 あのころ、左大臣殿はこの私をどう感じておいでだったのかしら? あこぎは、私が情けない思いをしないようにと、気遣ってくれていたけれど。


「どうして私と逢った後に初めて、私へのお気持ちが深まられたのですか?」


 道頼は微笑んで、

「ちょっとテキトーなことを言ったかな(さて、そらごとは)」

 北の方(姫君)の耳元へ顔を寄せます。

「あなたが落窪なんてひどい呼ばれ方をして、あちらの北の方からも父君からもひどい扱いを受けていたあの夜、あなたを愛さずにはいられなくなったんだ」

「…………」


「あの夜、几帳の陰で横になりながら、『こうしたい!』と望んだことは、すべて叶ったよ。あの夜の仕返しのために、故大納言殿のご一家をとことん懲らしめて、その後で、どなたもが有頂天になるほどにお世話する。そのようにしたいと思ったんだ。だから、四の君についても、こうして太宰帥殿との仲を取り持つことにしたわけでね。あちらの北の方は、嬉しいと思ってくれているかな? 景純かげずみなどは、わかってくれているようだけど」


「母上も、度々、嬉しいと口になさっておいでのようですわ」



 日が暮れます。

 太宰帥が通ってきます。

 美しく飾られた西の対で、露顕ところあらわしの宴が催されます。

 太宰帥の供人たちに被け物が大盤振る舞いされたことは、言うまでもありません。


※この段の注目ポイントとして、二つ、挙げられるでしょうか。

 先ず、道頼が告白めいたことをしていますが、落窪姫と恋に落ちたのは、落窪姫が受けている虐待に対して義憤を感じたからだ、と言っていますね。落窪姫の考え方や性格といったパーソナリティに惹かれたから、とは言っていません。現代人の感覚からすると、何か違う、という感じがします。けれど、義憤にかられて恋に落ちる道頼は、平安時代の読者に、ラブストーリーに登場する男性キャラの一つの進化型、という印象を与えたのではないでしょうか。何が恋のきっかけであれ、道頼は姫君ただ一人にまことの愛を捧げ、ほかの女性には目もくれないのですから、色恋に関しては、スーパーなダ~リンではあります。


 もう一つのポイントは、道頼と北の方(姫君)に、四の君の人権はどうなる?と、今日的ポリコレ感覚で小一時間説教を垂れても無意味だろうな、とわかることですね。道頼は悪魔的で、頭がイカレてて、北の方(姫君)は「結果オーライなんだから、いいわよね」と追随しています。このミもフタもないところに『落窪物語』の魅力がある、などと感じるのは筆者だけでしょうか???



●太宰帥の本気度


 四日目の朝――。

 太宰帥は四の君の正式な婿となりましたから、夜明け前に急いで消える必要はありません。日が高くなってから堂々と帰ります。牛車に乗りこむその姿は、細身なだけに、なかなかに優雅です。「では、また今夜。一日が長いな……」などと、ちょっと愁いある眼差しになったりもして、イケオジ度二百パーセントといったところです。面白の駒と並べて比較することなどできません。


 次の日も太宰帥は三条殿へ通ってきますが、帰り際にこう切り出します。

「筑紫への下向を控えて、処置すべきことが山ほどあります。こちらへ毎日通ったのでは、支度がはかどりません。あなたが気兼ねするような人はいませんから、私の屋敷へいらっしゃい。あなたに仕えて筑紫へ下ってもいいという侍女を召し集めて、あなた自身も筑紫下向を決断してください。出立まで、あと十日と少ししかないんですよ」


 四の君はわずかにうつむいて、

「筑紫はあまりにも遠い土地ですわ……母や兄弟姉妹を残して旅立つわけには……」


「私一人で下向せよ、と? あなたは、たった数日私と逢瀬を重ねただけで、終りにするおつもりだったのですか?」

 太宰帥は、穏やかな笑みを浮かべ、落ち着いています。太宰帥には、自分のほうから四の君を見限る気は無いのでした。


 四の君……美人だが、人柄がいまひとつよくわからない。そこは気がかりだが、なんといっても左大臣殿が取り持ってくださった縁なのだ。下向が迫っているからといって、四の君の態度がはっきりしないからといって、こちらからあっさり見切りをつけるなど、してはならないこと。


 うつむきかげんの四の君の頬にそっと触れ、太宰帥はやさしく言います。

「さあ。私の屋敷へいらっしゃい。この太宰帥の北の方として、私といっしょに、家の者たちにあれこれ指示を出してください」


 四の君から太宰帥の意向を聞かされた道頼は、笑って、

「帥殿が四の君をこんなに早く帥邸へ迎え入れなさるとは! 悪い婿取りではなかったな。いや、まったく、結構なこと」


 早速、四の君の引っ越しに付き従う面々を選びます。親しい人々を前駆として任命します。左大臣に近い人々ですから、四位、ひょっとすると三位の貴族ということになります。豪華な顔ぶれになりそうですね。



●四の君、帥邸に迎え入れられる


 引っ越しの当日――。

 四の君と侍女たちは牛車三輛に分乗して、太宰帥邸へ向かいます。


 直前に、ちょっとした問題が発生します。北の方(姫君)が婚儀の直前に四の君付きとした六人の侍女たちが、帥邸へ同行したくないとゴネはじめたのです。何から何まですばらしくて居心地のいい三条殿を離れて、ようすのわからない他家へ赴くのは面白くない、というわけです。


「侍女なら、あちらにも揃っていると思いますわ」

「人手が不足というなら、とりあえず、帥殿のお屋敷のほうでパートさんをお雇いになればよろしいのですわ」

「あたくし、チーム二条殿、チーム三条殿と、キャリアを積んでまいりましたのに。不本意です……」


 北の方(姫君)は労働契約規約その1、その2、その3、その他諸々を読み上げ、侍女たちには雇用主たる自分の命に従う義務あり、と申し渡します。

「どうしても、あなたがたには行ってもらわなくてはならないの。これまでどおり、四の君に誠心誠意お仕えしてください(ボーナスをこちらから年四回支給してもよくってよ!)」


 お見送りがてら、私も帥邸まで四の君に付き添ってさしあげられたら、よかったんだけど……と、懐妊中の身を嘆く北の方(姫君)なのでした。再婚に消極的だった四の君を、いささか強引に太宰帥に妻合めあわせた、という思いがあります。身重でなければ、当然、この引っ越しに同道すべきだったのに、と考えているのです。侍女たちに断固たる態度で臨んだのには、そうした背景があったのでした。


 さて。

 四の君を迎え入れる太宰帥邸のようすは、どんなものでしょう?

 

 古株の女房たちが台盤所で盛り上がっています。

「前の北の方さまがお亡くなりになってまだ間もないというのに、早々と新しい北の方さまがおいでになるとはね」

「どんなお方なのかしらね、新しい北の方さまは?」

「どんなお方であれ、お小さいお子さまがたには、おかわいそうなことですわ。継母ですもの」

「権勢家の左大臣殿のご縁者ですって。わが物顔にお振舞いなさるんでしょうよ」


 太宰帥は、どうやら、二人の妻に先立たれたようです。出産で命を落とす母親が少なくない時代ですから、珍しいことではありませんね。

 最初の妻は三人の男子を遺しています。嫡男は某国の権の守、三男は六位の蔵人から五位に叙せられています。

 最近亡くなった北の方とのあいだには、女の子※と十二歳になる男の子がいます。この二人を太宰帥は溺愛していているようです。超デレデレパパとして、有名なのです。


※女の子――すぐ次の段で、十歳くらいであることがわかります。四の君と面白の駒とのあいだの姫君と年齢が近いですね。


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