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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻四
97/105

四の君の再婚③――仲人は忙しい

●仲人は忙しい


 さて、三条殿は婚儀の日を迎えます。

 四の君の母親も兄弟姉妹※も、きれいに飾りつけられた西の対へやってきます。

  

 左大臣の北の方(姫君)は、女房三人と女童一人と下仕え二人を連れて、西の対へ渡ってきます。

「四の君。女房二人と女童一人では、何かと行き届きませんでしょう。こちらの六人も召し使ってくださいませ」

「もったいのうございます」

「そんなご遠慮は無用ですわ」


 日が暮れていきます。

 初の仲人役に張り切っている道頼は、西の対の準備に余念がありません。あれこれ指差し点呼して、確認していきます。


「御帳台、よし。几帳、よし。空薫物そらだきもの(室内の芳香)はこれでいいかな。いや、もうちょい麝香じゃこうを利かせるとするか。この屏風はどうかなぁ……絵がいまいちだな。本殿にあるのを持ってこよう」


 道頼みずから、西の対と本殿を行ったり来たりしながら、「婚儀の間」を整えていきます。左大臣のそんな姿を見て、少将景政は、もったいなくも嬉しい、と感激してしまいます。


※兄弟姉妹――長兄の播磨守は任国にいて、まだこの結婚について知らされていませんん。後日、少将から文を受け取ります。



●結婚第一夜


 夜も更けて――。

 太宰帥が到着します。

 花婿を四の君の待つ部屋へ案内するのは、少将景政です。妻戸を開けて南廂へ花婿をいざないます。


 ここで、婚儀の間がどのような空間だったか、ちょっと想像してみたいと思います。


 場所は三条殿の西の対で、母屋もやひさし簀子すのこの三重構造になっているのは本殿と変わりません。

 この夜、西の対には、四の君と太宰帥のカップルのほかに、左大臣道頼と北の方(姫君)と故大納言家から来た人々がいて、多数の侍女たちも控えています。カップル以外の外野陣は、北廂に詰めているのでしょう。北廂と母屋との境は、襖障子(今日見る襖)で仕切られていると思われます。


 対の屋も、本殿ほどではないにしても、かなり広い空間です。四の君は、母屋の西の端で太宰帥を待っているのでしょう。母屋の残りのスペースは、三日目の夜、露顕ところあらわしの宴席として使われるのです。


 四の君のいる場所のどこかに、御帳台という天蓋とカーテンの付いた畳ベッドが据えてあります。四の君は御帳台から少し離れた位置にいて、扇で顔を隠しています。ほとんど真っ暗闇なので、扇は必要ないのですが。四の君の前には几帳が立てられています。


 太宰帥が、紙燭しそく(松材でできたキャンドル)を手にした少将に案内されて、南廂へ入ってきます。南廂と母屋は御簾で仕切られています。寝殿造りにはお約束の御簾ですね。


 少将が太宰帥の耳元でささやきます。

「御帳台は向かって右側です」

 その場に花婿を残し、少将は北廂へ戻ります。姉上には今度こそお幸せになっていただきたいな~♪

 

 紙燭を持った少将が行ってしまったので、あたりはふたたび闇に包まれます。

 御簾越しに、太宰帥が四の君に言葉をかけます。

「私のことは左大臣殿からお聞き及びと存じますが。近々、筑紫へ下る予定でおります。あちらの風物など、何かご存じですか?」

 四の君はどきどきしながら、小声でなんとか答えます。

「いいえ」

「そうですか。実は私も、先達の方々からいろいろ教えを賜っているところなのです。なかなかよい土地だそうです」

  

 太宰帥は、まずまず、無難に会話を始めたようです。

 四の君は思います。

 帥殿のお人柄は悪くなさそう。それに、左大臣殿おんみずから婚儀の間をしつらえてくださったのだし。今さらこの縁談をお断りするなど、できないことなのだわ。…………。

 心を決めて、四の君は几帳の前へいざり出ます。


 頃合いよし。太宰帥は、御簾をわずかにそうっと巻きあげ、中へ体を滑らせます。闇のなかで四の君を抱き寄せると、御帳台へいざないます。


 太宰帥は、闇のなかで触れた四の君の感じや奥ゆかしげなようすに満足します。嬉しい、と思います。どんなことを四の君の耳元でささやいたか? それは聞き及んでいないので、ここに書き記すことはできません。

 夜が明け、太宰帥は帰っていきました。


(手当たり気配などのをかしげなれば、うれしと思ひけり。聞こえたまひけむことは、聞かねば、書かず。明けぬれば出で給ひぬ)


 聞こえ給ひけむ言は、聞かねば、書かず――作者は、誰かからの伝聞を書き記しているという体裁にして、この物語を執筆しているのですね。『源氏物語』も同じ体裁を踏襲しています。便利な方法で、省筆(描写を省く)したい部分では、「聞いてないから、書けません」とか、「聞いたけど、ごちゃごちゃ煩わしいので、ここ省略ね」とか、すませることができちゃうんです。



後朝きぬぎぬの贈答


 朝――。

 左大臣の北の方(姫君)は、太宰帥殿は四の君をどう思っておいでなのかしら、と不安げなようすです。結婚の前に二人のあいだで文のやりとりがなかったことが、今になって、気になりはじめたのです。


 そんな北の方(姫君)を抱き寄せ、道頼は微笑みます。

「手紙を頻繁に贈ってこなくても、末永く愛してくれるという例もある。帥殿は四の君をおろそかに思ったりはしないよ。まさか、そんなことはない。それより、四の君が、いまいち乗り気じゃないという雰囲気を醸しちゃってるのが、いただけないなぁ。賢明とはいえないよ。私は、最初はあなたのことを、世間でよくいう恋愛のように、恋焦がれるとか、苦しいほどに恋してるとか、思っていたわけじゃない。時々思い出したように文を贈っていただけだ。あなたに逢ってはじめて、どっちでもいいやといういいかげんな気持ちであなたに逢わずじまいだったら、どれほど後悔しただろうと気づいたんだ。不思議だね」


 道頼と北の方(姫君)は、四の君のようすを見ようと、西の対へ渡ります。北の方(姫君)だけが、几帳のなかへ入ります。

 四の君は、まだお疲れモードなのか、御帳台に横になっています。

「起きてくださいな」

「あ……」

 四の君は衣を直して、御帳台の外へ出てきます。ちょっと恥ずかしそうですね。


 そこへ、本殿のほうから女童が小走りにやってきます。

「お文です! 太宰帥殿からです!」

「早いな。さすが、帥殿」

 道頼は女童から文を受け取って、

「このお文、読みたいなぁ。でも、やっぱり、隠しておきたいことも書かれてあるでしょうから、遠慮しますよ。だけど、四の君、後でちょっと見せてくださいよ」

 几帳の奥へ差し入れます。


 その文を北の方(姫君)が受け取って、四の君に差し出しますが、四の君は手に取ろうとしません。

「じゃあ、私が読んでさしあげますわね」

 北の方(姫君)が結び文の結び目をほどきます。


 四の君の脳裏には、あの面白の駒から届いた文がちらつきます。あの悪夢がくりかえされるのでは――? 四の君は胸つぶれる思いでいます。

 北の方(姫君)は、四の君に顔を近づけるようにして、小さな声で文を読み上げます。


『あなたに逢って夜が明けた今、荒い波の打ち寄せる浜の真砂まさごを、あなたを恋しく思う数だけ取ろうとして、取りきれずにいます。いつのまに、こんなに恋しく思うようになったのでしょう』


「お返事をお書きなさいな。さあ、早く」

 北の方(姫君)がやさしく促しますが、四の君は無言のままです。

 

 几帳の外から、道頼が声をかけます。

「やっぱり、それ、見せてくれないかな。ちょっとだけでいいから」

「どうしてそんなにご覧になりたいんですの?」

 笑いながら、北の方(姫君)が文を几帳の端から差し出します。


「ふ~ん。ずいぶん、あっさりしてるね」

 道頼は言い、

「お返事をお書きなさい」

 と、文を几帳の向こうへ返します。


 北の方(姫君)は、硯と紙を揃えて、四の君を促します。

「お返事を。さあ、早く」

「帥殿へのお返事も、左大臣殿がご覧になってしまわれるのですよね。恥ずかしいですわ」

 ためらう四の君です。


 太宰帥邸から文を届けにきた使者は、返書を受け取らなくてはなりませんから、まだ中門のあたりに待機しているはずです。

「もう、もう……! じれったいったら……! 早くお書きなさいませっ」

 北の方(姫君)にせっつかれて、ようやく筆を手にする四の君なのでした。


『私以外に恋人が大勢おいでのあなたさまは、荒い波の打ち寄せる浜の真砂は取り尽くしてしまわれたでしょう』


 四の君は、文をしたためると、急いで結び文の形にしてしまいます。道頼はわざと声に出して言います。

「ああ、拝見したかったのに。残念!」


 道頼は太宰帥邸からの使者にかずけ物(ふつう、女装束)を与えて、帰らせるのでした。左大臣の被け物ですから、ずいぶん上等なものなのでしょうね。


 太宰帥は二十八日を船出の吉日として選びます。旅立ちまで、もういくらもありません。

 


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