四の君の再婚②――ためらう四の君
●ためらう四の君
「大事なお話? 何ですの?」
「左大臣殿が、あなたを太宰帥殿の後添いにと、おっしゃってくださっているのよ。嬉しいお話じゃないの。どうかしら?」
四の君は顔を赤らめます。途惑っているようすです。
「すばらしいお話だとは思いますが……。自分の過去を忘れたふりをして、しれっと結婚するなんて、厚かましくないでしょうか。私はかつて面白の駒と結婚して、子までなした身。帥殿はどう思われるだろうと想像すると、恥ずかしくてなりません。左大臣殿のお顔にも泥を塗ってしまうことになりますわ。私は疎ましい身なのです。尼になってしまいたいと思うものの、母上が生きていらっしゃるあいだはおそばにいよう、と決めたのです。ただそれだけでも母上にお仕えすることになると思って、出家せずにおりました」
そう言って、四の君はさめざめと泣くのでした。
弟の少将も、姉はそこまで思いつめていたのかと同情し、涙ぐんでしまいます。
母北の方は涙をぐっと堪え、
「尼になるなんて縁起でもない! 肩肘張らなくてもいいんだよ。今度の結婚も長続きしなくたっていい、とにかく帥殿と再婚してセレブの北の方として華やかに暮らして、世間を見返しておやり。ここは、この母の言葉に従うのが孝行と思って、縁談を受けておくれ」
四の君は何とも答えず、ただ俯いているばかりです。
少将は母北の方を見て、
「左大臣殿には、どのように申し上げたらいいのですか?」
「私からのご返事として、このようにお伝えしておくれ。『四の君は再婚には消極的なようでございます。ですが、今度のお話は、私には大変に嬉しいものでございます。このお話をどのように進めるかは、左大臣殿にお任せ申しあげます』と」
「承知いたしました」
と言って、少将は立ち上がります。
この時点で、四の君の再婚は決まったも同然ですね。
●婚儀は七日、三条殿の西の対で
少将景政は三条殿へ赴きます。左大臣道頼と北の方(姫君)に対面して、先ず母北の方の返事を伝えますが、四の君のありのままの心情も、すべて話すのでした。
「四の君は、一度は面白の……いえ、兵部少輔殿と契りを結んで子までなした身であるというのを、とても気にしております。二人のあいだに生まれた女の子は、幸運にも父親に似ず、とてもかわいらしいんですよ。ですが、姉はやはり恥じているのです。あのように世間で笑い者になっている方を婿に迎えたことを。ひどく情けない身なので出家するほかない、と嘆いております。出家を思いとどまっているのは、ただただ、母を悲しませないためなのだと申しております」
北の方(姫君)は大いに同情します。
「そこまで思いつめておいでだったとは……。ですが、初婚に失敗して再婚なさる方々は、世間に大勢いらっしゃいますわ」
左大臣道頼は、檜扇をパチリといわせて、
「故大納言殿の北の方は承知してくださったんだね。ならば、この話、進めよう。太宰帥殿は立派な方だよ。『筑紫への下向は今月末です。結婚を承諾してくださるなら、とにかく婚儀を早く』と、おっしゃっておいでだ。四の君を急いでこちらへお連れもうしあげてほしい」
道頼は暦を取ってこさせて、婚礼にふさわしい日を確かめます。七日が吉日とわかります。
「侍女たちの装束も揃っている。西の対で婚儀を執り行おう」
●十一歳のかわいい姫君
こう、と決めたら走らずにいられない道頼です。「四の君よ、早くこちらへおいでください」と、催促の文をたてつづけに送ります。
けれど、当の四の君は、母親に「お支度なさい。早く早く」と急かされても二の足を踏むばかりなのでした。
ついに、母親が厳しく言います。
「結婚の話でなくとも、左大臣殿が三条殿へ参れとおっしゃるからには、行かないでは済まされないよ。へそを曲げてる場合じゃないんだからねっ!」
しかたがない……。四の君は支度をします。女房二人と女童一人も、一張羅に着替えるなどして、出かける用意を始めます。お供していくのです。
四の君の娘は、母親が出かけるのだな、と気づいたようです。
「母上、お出かけなさるのですね。まろも連れていってください。お留守番は、いやです」
姫君は十一歳で、なんとも無邪気で愛らしいのです。
故大納言の北の方は、困惑したようすの四の君に目配せし、孫をそばへ引き寄せます。
「大姫、母上は大事なご用がおありなのだよ。このバァバとお留守番をしようね。いい子だから」
「まろも一緒に行きとうございます」
「聞き分けなくちゃ、いけないよ」
「一緒にぃ……」
娘の悲しげな顔を見て、四の君は胸が張り裂けそうになり、泣いてしまうのでした。
●四の君、道頼と対面する
三条殿で、四の君は御簾越しに左大臣道頼と対面します。
「婚儀のすべては西の対で執り行う予定です。お支度は遺漏なく進めていますよ。装束は、仕立てあがって誰も袖を通していないものが、何襲もあります。お好きなのを選んでお召しになったらいいでしょう。ここをご実家と思って、リラックスしてください。お食事もお口に合うといいのですが。専属のシェフが何人も、二十四時間待機しています。チーズスフレ? 鯛と海老の擂り身のムース? 熱々アップルパイのアイスクリーム添え? ご所望なら、夜中でもいつでも、侍女に申しつけてください」
何を言われても、四の君は短い返事すらできません。面白の駒と結婚したときより、かえって、きまりが悪く、恥ずかしいのです。※
四の君は、左大臣の北の方(姫君)より三歳年下で、今、二十五歳です。面白の駒と結婚したときは十四歳。十五歳で女君を生んだのでした。※
※なぜ、きまりが悪く、恥ずかしいのでしょう? 一児の母で若くもないのに、左大臣殿の威勢のおかげで太宰帥の後添いにおさまろうとしている。のこのこと三条殿へも参上してしまった。厚かましい女。みんな、心のなかではそう思っているんじゃないのかしら――などと、考えすぎているのでしょうね。
※この物語で、珍しく、登場人物の年齢が明示されています。落窪姫は二十八歳になったのですね。道頼はちょうど三十歳でしょう。




