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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻四
95/105

四の君の再婚①――太宰帥で中納言

鰥夫やもめ太宰帥だざいのそち


 左大臣道頼は、かねてから、三の君と四の君に立派な婿を世話したいと考えていたのですが、姉妹にふさわしい相手はなかなか見つかりません。これは、と目をつけた貴族も、よく調べてみるとギャンブル依存症だったり超マザコンだったりロリコンだったりするのでした。


「私のように顔も頭も性格もよくて、八頭身でノーブルでエレガントでスタイリッシュでなくてもいいんだけどな」

 などと言いつつ、道頼は家司が作成したデータをパソコンでチェックします。


「三十五歳。年収五千万……でも、受領か。私が紹介するんだから、やっぱり、親王か上達部かんだちめ(公卿)という最低条件は外せないよなぁ」

 画面をスクロールします。


「参議か。年齢三十歳。うん? 多重債務を抱えているという噂あり? アウト!」

 さらにスクロール。


「宮さまだ。常陸の太守か。四十歳。ホラーゲーム中毒の噂あり? どうなのよ……」

 さらにスクロール。


「おっ! 中納言。太宰帥だざいのそち。四十二歳。妻に先立たれたばかり。コブつき。一部の女房たちにイケオジと騒がれている。――コブつきでもええやん。中納言やん! 上達部やん! よっしゃ!」


 大宰帥――大宰府の長官。帥は親王が任ぜられる(遙任ようにん、現地には赴かない)官職ですので、中納言は権帥ごんのそち(次官)に任命されたのだと考えられます。権帥(赴任する人の位階によって、太宰大弐だざいのだいにと呼称が変わる)は大宰府の実質的長官で、日宋貿易や鴻臚館こうろかん貿易に携わるので、ものすご~く実入りの多いポストです。


 道頼は内裏で太宰帥に親しく声をかけます。

「大宰府への赴任はいつです?」

「今月の末です」

「旅立つお支度など、大変でしょうね」

「そうですね。せめて妻がいてくれたら、と思います」

「再婚する気はないのですか?」

「したくとも、よいお相手が見つかりませんので……」

「故大納言殿の姫君は、いかがです?」

「大納言家の姫君! すばらしいお話です!」

「じゃあ、この話、進めてもよろしいですかな?」

「は、はい! よろしくお願いいたします」


 あ、いけね、と道頼は気づきます。

 太宰帥にどっちを紹介しよう? 三の君? それとも四の君? まだ決めてなかった。

 よろしい、お任せあれ、とかなんとか言って、急いで三条殿へ帰る左大臣道頼なのでした。



●道頼と北の方(姫君)の仲人ごっこ


 三条殿で、道頼は北の方(姫君)にこの縁談について相談します。

「どちらを紹介しよう?」

「私には決めかねますわ」

「う~ん、あなたが決めてくれなきゃ」


 北の方(姫君)はしばらく考えてから、

「では、四の君を。気の毒な思いをおさせしたんですものね」


「四の君ね。オッケー。じゃ、急がなきゃ。太宰帥殿の赴任は今月末なんだ。故大納言殿の北の方に、あなたから伝えてもらえないかな。あちらに異存がないようなら、ウェディングはこの三条殿で」


「私からお伝えするのですか……」

 北の方(姫君)は迷います。継母の性格を熟知しているので、自分から継母へ話を伝えても、うまくいきそうにないな、と思ったのでしょうか。


「手紙で長々と説明するのは、ちょっと……。かといって、私があちらをお訪ねするのも、やっかいなことで(みづから渡らむとすれば、所狭ところせし)」

 やっかい(所狭し)と言っているのは、今、身重だからですね。第六子はこれから生まれるようです。


「じゃあ、少将(三郎君)か播磨守(かつての越前守)に伝えたらどうかな」

「そういたしますわ」


 翌朝――。

 北の方(姫君)は少将を呼び寄せ、縁談について話します。


「左大臣殿がこうおっしゃいますの。『独身を通すのも奥ゆかしいことと思いますが、女性が一人でいると思いがけないことも起きるものです。太宰帥殿は立派な方のようです。どなたにもご異存がないようでしたら、四の君をこの三条殿へお迎えして、結婚の儀の万端を整えましょう』と」


 少将は畏まって答えます。

「まことにもったいないお言葉です。帰って、母に伝えます」



●一言余計な継母


 少将は母親に話を伝えます。

「今朝、左大臣殿の北の方さまから、こういうお話があったんですが――」

 かくかくしかじか。

 左大臣殿の北の方さまから、と聞いて、継母は「ふ~ん」てな顔をします。


「左大臣殿は、四の君が、面白の駒の件で世間の笑い者になったことを、帥殿との結婚で帳消しにできるだろうと、お考えのようです。帥殿は歳は四十をちょっと越したくらい。でも、とにかく大宰府のトップですよ。上達部なのですよ」


「太宰帥殿……上達部……!」

 継母の表情が変わります。


「父上がご存命だったとしても、これほどの縁組は望めなかったでしょう。左大臣殿は、実の親以上に親身になって、四の君を幸せにしようと、あれこれ思ってくださっておいでなのです。すぐにも四の君を三条殿へ参上させてください」


「四の君……私が死んで、あの子は独り身のままで、なんて想像すると、いたたまれなくてね。並みの受領でいいから、いい相手がいないものか、と思ってたんだよ。そうかい。そうかい。上達部とのお話なのかい。嬉しいこと! こんなふうに細やかにお心遣いいただいて涙が出そうだと、左大臣殿にお伝えしたいねぇ。左大臣殿のほうがよほど親身になってお世話くださるよ、()()()()()()()()()()


 喜びながらも、余計な一言を挟まずにはいられない継母です。


 少将は大袈裟にため息をついてみせ、

「左大臣殿が親身になってくださるのは、北の方さまが左大臣殿に溺愛されておいでだから、なのですよ。北の方さまが『私を大切に思ってくださるなら、異母兄弟姉妹も同じように大切に思ってください』とおっしゃったので、左大臣殿がご配慮くださるのです。お二人が話しておられるのをそばで聞いていると、そういうことがわかるんですよ。左大臣殿の北の方さまは、女性として、この上もない幸せに恵まれたお方なんです。この景政かげまさ(少将自身のこと)だって、女遊びしたいな~、というのが本音なんです。一人の女性で満足するなんて考えられません。なのに、左大臣殿は、北の方さま以外の女性は眼中におありではないんです」


「さよか。結構なことで」


「そうですよ。左大臣殿と北の方さまは、まことにまことに結構な仲でいらっしゃるのです。左大臣殿は、参内されても、女房たちなんかには見向きもなさらないんですよ。美女揃いだというのに。どんな真夜中でも夜明け前でも、真っ暗な夜道を手探りして一歩一歩内裏から退出されて、北の方さまのもとへお帰りになられるのです※。ここまで夫に大切に思われる女性が、北の方さま以外においでになるでしょうか」


「で、景政、そなたは何が言いたいの?」

「左大臣殿の北の方さまはパーフェクトな女性です、と申したいのです」

「(うっせーわ!)あ、そ」


「母上、四の君がどのようにご返事なさるか、気になります。縁談の件を姉上に早くお伝えください」

 そこで継母、ドラ声を張り上げます。

「四の君ぃぃ、こちらへいらっしゃい。大事なお話があるの」

 塗り籠め(壁のあるワンルーム)の向こうから、四の君がしずしずとこちらへやってきます。



※どんな真夜中でも~~お帰りになられるのです――(夜中にも暁にも、きたどりてぞまかで給ふ)掻きたどる=暗いなかを一歩一歩手探りで歩く。少将景政が大袈裟に表現していることは確かですが、当時の大内裏のリアルな雰囲気も伝えているのかな、という気もします。


 平安京の大内裏は東西約1.2キロ、南北約1.4キロで、内裏は中央からやや東寄りに位置します。大臣といえども特例の宣旨を賜っていなければ、大内裏内は徒歩が基本ですので、退出するときは、内裏の南にある建礼門から出て、大内裏東にある陽明門または上東門まで歩くことになります。距離にして五百メートルほど、徒歩で八分ほどかかるでしょうか。陽明門または上東門を出て、はじめて牛車に乗ることができます。


 月明りのない真夜中でも、大臣は随身ずいじんという近衛府から派遣されたSPが松明たいまつを持って護衛しますから、「掻きたどる」はあり得ません。けれども、ものを本当に信じていた当時の人々にとって、暗い大内裏内を八分歩くのは、あまり楽しいことではなかったのではないか、と想像されます。映画の『陰陽師』に、こうした雰囲気を感じさせる場面があったかと思います。


 とはいえ、青春時代の道頼は帯刀と土砂降りの真夜中も遊び歩いていました。やはり「掻きたどる」は少将景政の誇張表現なのでしょう。いずれにしても、少将のこの台詞はちょっと面白いですね。少将は「自分なら、夜中に内裏を退出するくらいなら、どこぞの女房の曹司にしけこんじゃう」と思っているのでしょう。じっさい、当時は、それが若い貴族たちの()()()()()でした。


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