大将道頼、左大臣に昇進
●それぞれの昇進
新年――。
司召しが行われ、道頼の父左大臣(いつのまにか右大臣から左大臣になっていますね)が太政大臣に、大将道頼が左大臣に昇ります。道頼も、右大臣位をすっとばして左大臣位※に就いたことになります。ま、いっか。とにもかくにも、我らが道頼クン、なんと左大臣です!
義理すじとはいえ、身内に左大臣がいるのですから、故大納言の屋敷に住む人々はあれこれおねだりしちゃいます。
中の君(姫君の異母姉)の夫の左少弁も、左大臣の北の方(姫君)に泣きついてきます。左大臣に取り成してもらえないか、というのです。
「恥ずかしながら、弁官のサラリーだけでは食べていくのがやっとなんですよ。医学部志望の子供に家庭教師をつけてやることも、ガタがきている車を買い替えることもままなりません。どこぞの受領に転職したいのですが、折を見て、左府殿にお話しいただけないでしょうか」
前にも書きましたが、紫式部の父親のような学者肌で不器用な人は例外として、受領になれば、あの手この手で私腹を肥やすことができるのです。
中の君の夫は、左大臣道頼の配慮により、美濃守となります。
越前守は、ちょうど国替えの時期にあたっていましたが、越前での仕事ぶりを認められて、播磨守へ転じます。播磨は大国です。左大臣道頼によるプッシュがあったのです。越前も大国ですが、播磨は京にほど近いので、その国守の座を得るのは競争になります。
左衛門佐(三郎君)は、今や少将です。ヤングエリートですね。
故大納言邸では、茶の間に家族が集まっては、「左大臣殿の北の方さま」への賞賛しきりです。鬼ババ北の方は、面白くなさそうな顔で、好物のでん六豆Ⓡをポリポリしています。
「母上、ウチの人、美濃守になりましてよ! お祝いに、新車買っちゃいましたわ」
「母上、私は播磨守ですよ、播磨守! 赴任したら、あっちから蟹や鯛をクール便でお送りしますからね。食べきれないほど、お送りしますよ」
「近衛府の少将ですよ、私は! ああ~、自分でも信じられませんよ、少将だなんて。内裏でも、きれいな女房たちからちやほやされちゃって。舞い上がっちゃうな~♪」
「母上、おわかりになりまして? 私たちが望むような暮らしができるのは、左大臣殿の北の方さまのおかげですのよ」
「まったくですよ。これでも、三条殿のあのお方の恩恵を受けていないとでも、おっしゃるのですか? これまでのような言いたい放題は、謹んでくださいね」
身勝手な鬼ババも、子供たちの望外の出世は、確かに、左大臣の北の方のおかげなんだろう、と納得するのでした。
「わかりましたよ、はいはい」
※右大臣位をすっとばして左大臣位――異例ですが、この物語が書かれたと思われる時期の少し前に、実例が一件あります。源兼明です。源兼明は醍醐天皇の親王で、源高明と同年生まれの異母兄弟です。ともに非常に優秀ながら、摂関家藤原氏に政治生命を絶たれます。なお、道頼は、大納言が死去したあとに、一度譲った大納言位を取り戻してから、左大臣に任命されたと考えられます。物語のキャラクターなので、そのへんはどうでもいいことではありますが。
●左大臣道頼、事実上のトップに立つ
左大臣道頼は、甥である帝から全幅の信頼を寄せられています。よく学問を修めていて、論も立つので、ほかの上達部(公卿たち)は太刀打ちできません。父親の太政大臣さえ、常に道頼に意見を求めるのでした。
太政大臣は、ときおり、ふと思います。
「我が子ながら、あまりにも優れていて、そらおそろしいほどだ」
太政大臣のそんな思いを周囲も察知してか、「左大臣殿のほうが父親のようだ」などと感じるようになります。人々にとって、道頼はすでに事実上のトップなのでした。
「太政大臣殿より、先ず左大臣殿のご指示を仰ごう。太政大臣殿も、それでよし、と認めておられるようであるし」
当然ながら、昇進を望む人々も「左大臣殿にお願いするのが早道だな」と考えます。というわけで、きらびやかな礼服に身を包んだあまたの貴顕が、三条殿に出入りするようになるのでした。
作者は、これでもかというくらいに、道頼のスーパーエリートぶりを描きます。そして、そのスーパーエリートに溺愛される北の方が、かつての落窪姫なのです。落窪姫の大出世も、間接的に描写されているわけですね。
●第四子、誕生
三条殿のクイーン、左大臣の北の方(姫君)は、任国へ下る人々への餞別など、心遣いを示します。美濃守(中の君の夫)は、左大臣家の家司でもあったので、特別に配慮します。左大臣からも馬と鞍が贈られます。
継母と三の君と四の君には、毎日のように高級食材が届けられます。毎年、夏冬には、すばらしい装束も贈られます。三人とも、大納言の生前以上に贅沢な暮らしを楽しむことができているようです。
左大臣邸では、太郎君の袴着が、次いで姫君(長女)の袴着が執り行われます。現在の七五三の三歳~五歳のお祝いでしょうか。
「そろそろ、もう一人欲しいね」
道頼がささやくと、
「実は……」
「えっ! ほんとに? ほんとにほんとに?」
「うふふ」
な~んちゃって、翌年めでたく第四子が誕生します。女の子であることが後段でわかります。




