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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻一
9/105

漫画チックなイラスト

●少将道頼、イラストを描く


 大騒ぎして支度して、中納言邸のほぼ全員が出かけてしまいます。

「人少なでちょっぴり心細いですけど、のんびりできて、いいですね」

 あこぎは一日じゅう落窪の間に入り浸って、気がすむまで姫君のお世話をします。長い髪を丁寧に梳いてさしあげます。 

 そこへ、帯刀の使者が文を届けてきます。

『石山詣でに参加しなかったと聞きました。本当なの? 本当なら、そっちへ行きたいな。逢いたい♡』


 早速、あこぎは返事をしたためます。

『本当よ。姫君のご気分がすぐれないの。姫君をお独りにして、あたしが出かけるはずないじゃない。こっちへ来たいの? いいわ、いらっしゃい。姫君がちょっとご退屈なさっていらっしゃるから、お慰めできるように考えて。そうだわ、いつか話していた絵を持ってきてよ。必ずよ』

 

 帯刀があこぎに話した絵とは、道頼のもの――正確には、道頼の父親の左大将が、今上の女御である娘のためにいろいろ用意した品々のうちのひとつです。帯刀は、少将殿がそちらにお通いになるようになったら、絵を姫君にもお見せするでしょう、と言っていたのです。道頼の文に反応がないのにしびれを切らして、あこぎ、さらには落窪姫の気を引こうとしたわけですね。

 

 帯刀はあこぎからの文を道頼に見せます。

「絵を持ってきてくれと言われちゃったんですけど」

「惟成の嫁さんて、えらく達筆なんだな」

「ども」

「いらっしゃい、と書いてあるじゃないか。行ってこいよ。で、例の段取りをつけてこいよ。待ちくたびれたよ、こっちは」

「行きますよ。絵を一巻、お貸しください」


「絵は、私が姫君のもとへ通うようになったら、見せるよ」

「じらし作戦ですか? 今、チャンスなんですよ。中納言邸は一族郎党石山詣でに出かけて留守なんですから。絵を持って出かけましょうよ」

「待て」

 道頼は白い色紙にさらさらっと漫画チックなイラスト(戯画)を描きます。小指をくわえた口をすぼめて、しょんぼりしたようすの男の顔です。


 当時、戯画を描くことが貴族のあいだで流行っていたようです。歴代一位のおバカ天皇と評されるも芸術的センス抜群だった花山上皇も、何点もお描きになったとか。花山上皇は、まさにこの『落窪物語』が世に出たころ、いきいきとご活躍(いろいろな意味で)なさっておいででした。

 

 色紙の戯画に、道頼は書き添えます。

『絵をご所望ですか? ぜんぜんご返事をくださらないつれないお方の態度に傷ついて、しょんぼり顔になっています。今は絵をお見せする気になれません。――子供っぽくて、すいませんねぇ』

 

 帯刀は、やれやれ……と思いますが、包んだ色紙を手に中納言邸へ出かけることにします。

 出かける前に、母親(道頼の乳母、左大将家で暮らしている)に声をかけます。

「おいしそうなお菓子を袋に詰めたのを、一つ用意しておいてもらえますか。あとで取りに人を寄こしますから」



●帯刀、イラストを持って出かける


 帯刀は中納言邸のあこぎの部屋で、包んだ色紙を取りだします。

「これを姫君に渡してほしいんだけど」

「絵は? どこにあるの?」

「今日はちょっと……」

「絵を見せるなんて、嘘なのね」

「嘘ってことは……」

 

 ぷりぷりしながらも、あこぎは色紙を持って落窪姫の部屋へ行きます。

 落窪姫は開封して色紙を目にします。

「まあ……。あこぎったら、私が絵を所望しているなんて、少将の君にお伝えしたの?」

「いえ。私は帯刀と文のやりとりをしているだけで。帯刀宛ての文を少将の君がご覧になったんでしょう」

「どっちにしても恥ずかしいことだわ。少将の君は、私が絵をせがんでいると思っていらっしゃるのよ。図々しい女とお思いなんだわ、きっと」

 あこぎは、しゅん、となります。あたし、ちょっと出過ぎた真似をしたかしら?


 と、簀子のほうから帯刀が小声で呼びかけます。

「あこぎ、あこぎ」

 落窪姫がにっこり笑い、

「あなたの婿殿がお呼びよ。お行き」

「では、ちょっと失礼します。すぐに戻ります」

「ゆっくりなさいな。私も今夜はもうやすみます。久々に縫い物もないから」


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