姫君、優等生モードのスイッチを入れる
●三の君の婿取り
そうこうするうちに、三の君(三女)も裳着(女子の成人式)を済ませ、婿さんを迎えます。
婿さんは蔵人の少将という青年貴族です。順調に出世すると、頭中将(近衛府の中将でなおかつ蔵人の頭)に任命されるだろうポジションにいるのです。
ちなみに、蔵人の頭は帝の秘書です。無事勤め上げると、次に参議というポスト、つまり公卿の仲間入りが約束されています。
あたし、出世まちがいなしのヤングエリートの妻よ。ルンルン♪
三の君は舞い上がります。
一方、落窪姫は、もうほとんど死にそうになっています。新しい婿君が通ってくるようになって、裁縫仕事の量がまたも増えてしまったのです。
●後見が「あこぎ」と呼ばれるようになる
さらに、困った事態が生じます。
女童の後見は髪が長く、なかなかの器量よしですが、見た目のいい侍女はどこでもひっぱりだこなのです。三の君が、後見を自分専属のようにして、手放しません。
忠義者の後見はそれが辛いのでした。落窪姫のママンが亡くなった当時のことを振り返り、涙ながらに訴えます。
「姫君にずっとお仕えしようと思って、親しい人がうちで働かないかと言ってくれたけれど、行かなかったんです。姫君以外の誰にもお仕えしたくありません。三の君にお仕えするのは不本意なんです。マックス不本意なんです。悲しいです。ぐすん、ぐすん。あ~鼻水出てきちゃう」
ここで、落窪姫の優等生モードのスイッチが入ります。
落窪姫、澄んだ瞳で諭します。
「ドントセイザット(そんなことを言うものじゃないわ)。一つ屋根の下、誰にお仕えしても同じでしょう。私は何もしてあげられなくて、あなたがいつもみすぼらしい恰好をしているのが心苦しかったの。だから、三の君にお仕えできるようになって、よかったわ。嬉しく思っているのよ」
けれども後見は、三の君に呼ばれないかぎり、大好きなご主人さまである落窪姫のそばを離れません。二人でガールズトークに花を咲かせます。
すると、ここでまた、うるさい継母が邪魔をします。
「ちょいと。後見は三の君付きになったはず。落窪、おまえがいまだにその女童を独占しているのは、どういうことなのかえ? 後見という呼び名が気に入らないね。落窪の後見ということじゃないか。呼び名を変えよう。そこの女童、おまえは今日からあこぎ。ただの、あこぎ。いいね? 返事をなさい。返事をっ!」
「は……はい……」
こうして、後見はあこぎとなったのでした。