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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻一
13/105

あこぎ、ヤケクソになる

●道頼、後朝(きぬぎぬ)の文を贈る


 少将道頼が迎えの牛車で帰っていったあと、朝の連続テレビ小説もまだ始まらないという時間帯に早くも、道頼から姫君に宛てた文、そして帯刀からあこぎに宛てた文が届きます。

 

 帯刀の文には――

『姫君には、少将殿からのお文には()()(←ここ、極太の大文字)お返事なさいませと、お伝えしてほしい。男女の仲は、なるようになるものさ。案ずることはないよ』 

 

 あこぎは少将道頼の文を手に、ばたばたと落窪の間に駆け込みます。

「お文が届きました! 少将の君からですよ! こんなに早く。マナーをきちんと守るお方ですね」

 

 姫君は、へたれたダウンを引っ被って、まだめそめそしています。泣きながら小声でつぶやくように歌っています。メロディは、どことなく、松任谷由実のDESTINY©に似ているような――?

「どうしてなの~、今日にかぎって~(いつもだけど~)安い袴を履いていた~~~、恥ずかしい……死んでしまいたい……」


「姫君……。少将の君も、北の方さまが継母界の大横綱だという噂をお聞き及びのはずです。北の方さまのせいで姫君がみすぼらしいままにおかれていることは、察しておいでですよ。姫君の恥なんかじゃありません。さ、早くお文をご覧なさいませ」

 

 姫君が自分から文を手に取りそうにないので、あこぎは遠慮なく開封して、文を姫君の前に広げます。

 和歌が一首したためられてあるだけです。


 いかなれや昔思ひしほどよりは今の思ふことのまさるは(どうしてなのでしょうか、あなたとお逢いする前に思っていた以上に、お逢いした今のほうが恋しさがつのります)


 この歌、ちょっとやばくない? という感じもします。

「いかなれや」を反対解釈すると、逢った後には、逢う前ほどには思わなくなるのがふつう、ということになりますよね。


 ぶっちゃけ、何を言っているかというと――

『ふつう、男ってのは、共寝した相手にはすぐ飽きちゃうんだけど、どうしてなんだろう、今度ばかりはちがう。共寝のあとの今のほうが恋しさ増し増しさ♪』

 

 落窪の姫君は、歌を深読みするでもなく、というかまともに読みもしないで、

「心が晴れないの……体もだるくて……」

 またもダウンコートを引っ被って、めそめそ。返事を書こうとはしません。


 文を届けにきた使者がつゆに話しているのが聞こえます。

「お返事、まだじゃろーか? 早く殿(ご主人さま)にお届けしたいのじゃが」

 この時代のお手紙デリバリースタッフは、届けるだけではなく、返事をもらって帰るのが基本です。

 

 しょうがない。とりあえず帯刀に連絡しておこう。

 あこぎは文を書きます。

『姫君はひどくご気分が悪そうで、起きてもいらっしゃいません。少将の君からのお文をご覧にいれるどころではありません。姫君のごようすには本当に胸が痛みます』



●道頼、昼にも文を贈る

 

 帯刀はあこぎからの文の内容を道頼に伝えます。

 道頼は、

「姫君のご気分がすぐれないといって、それ、私のせいじゃないよね(中身も外見もかっこいいこの私と出会って、そんな反応するわけないもの)。身形みなりがみすぼらしかったことを恥じているだけでしょ。まだ泣いてるんだ……かわいそうに……」

 

 姫君を不憫に思う道頼は、昼のワイドショーが始まる前にも、文を贈ります。

『どうしたことでしょう。あなたは私に心を開いてくださらないのに、私の恋心は募るばかりなのです。恋の相手があなただから、ですよね』

 

 帯刀もあこぎに念押しの文を書き送ります。

『今回ばかりは、姫君からご返事が無ければ、ゲームオーバーになっちゃうよ。まずいよ。少将殿は今は姫君にぞっこんなんだ。今回は真剣だよ、どう見ても。本人もそう言ってるし』



●あこぎ、ヤケクソになる


 じゃが、しかーし。

「姫君ぃぃぃ! お返事! どうか、お返事を! お願いします!」

 と、あこぎが懇願しても、

「少将の君は、私の哀れな姿をどう思い出していらっしゃるかしら……」

 姫君はやはり動きません。まだ泣いています。まだダウンを引っ被っています。初体験の夜にボロを着てた、ってのが一生の汚点になる、と思いこんでるようです。平安時代の男性読者には、案外に、これが萌え要素だったりして……。

 

 あこぎはヤケクソぎみです。帯刀に書き送ります。

『姫君、冬眠しました。だからお返事は無いの、今回も。ところで、少将の君は今回は真剣だ、なんてどうしてわかるわけ? テキトーなこと言ってない? てか、惟成、あんたってほんと、テキトーよね。ああ、あたしも冬眠したくなってきた。あなたのかわいいベイビーより』

 

 帯刀は自分宛てのこの手紙を道頼に見せちゃいます。二人は幼なじみで、バディどうしなわけですね。

 道頼は笑って、

「おまえの嫁さん、おもろいな。姫君が冬眠したって? 泣きすぎて、ここはどこ、あたしは誰、ってな状態になってるだけだろうよ」

 心配しているようすはありません。


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