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幼馴染が悪役令嬢の為に王太子殿下になってくれました  作者: みずきあきら


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第7話 家庭教師

 アルがいなくなった日常は全てが色褪せて見えた。


 1年という短い間の出来事なのに。

 アルと出会う前はどうやって暮らしていたのか、何を考えて過ごしていたのか思い出せない。

 そうして、私の中で彼の存在がどれほど大きなものだったのか、思い知るだけだった。


 はじめの数日は部屋にこもって、泣いて泣いて、泣き疲れていつの間にか眠って、目が覚めて、また泣いて。

 そんなこと続けていても、お腹はすくし。

 涙も枯れ果てた頃、部屋を出て、みんなに謝った。何も聞かずに迎えてくれて凄くありがたかった。


 ハンナには全てを話した。もともといろいろ相談に乗ってもらってたし、私にとっての一番の理解者だから。

 話しながらまた泣いていたら、ハンナも一緒に泣いてくれて、「辛いですね」って頭を撫でてくれて、少し楽になった。





 本格的に冬が訪れようとしている。

 ちょうど1年前、アルに出会った。

 初めて会った時のアルは本当に綺麗な子で、まるで物語の中の王子様みたいだって思ったっけ。


 外に出るとアルとの思い出が多すぎて。

 大好きだった森も川も、今はただ、辛い。






 屋敷に閉じこもってばかりいる私を見兼ねて、家令のサージが家庭教師を連れてきた。

 その人は私より10歳ほど年上の眼鏡をかけた物腰の柔らかい男性だった。

 よく見ると整った容姿をしており、ランシードと名乗った彼は男爵家の三男坊で、将来は教師になりたいのだと、はにかんだ笑顔で語っていた。

 私のどんなに拙い質問にも嫌な顔ひとつせず丁寧に答えてくれる誠実さや、問題に正解するとぎこちない手つきで頭を撫でてくる彼は、とても優しい先生だ。

 もともと勉強は嫌いではない。

 座学全般を担当する博識な彼の話は非常に面白く、聞いていて楽しい。




「今日はユーイン王国の歴史について学んでいきましょう」


 ここユーイン王国はおよそ千年前、小競り合いを繰り返していた近隣三国がまとまり建国した大国である。


 三ヶ国統一を成し遂げた初代ユーイン王は実に勇猛果敢な人物であったらしく、優れた軍事的才能と合理的な国家経営でユーイン国の発展に努めた名君として名高い。


 また、いち早く小麦と大豆に目をつけたのも彼であり、幾度なく訪れた飢饉を乗り切った。これらは国の名産として国家繁栄の礎となる。


「初代ユーイン王のおかげで今の平和があるんですね」

「そうですね。その後も名君と呼ばれる王は数多訪れていますが、やはり初代の残した功績は突出してると言っていいでしょう。ですが、」


 ランシード先生は、一旦言葉を区切り、眼鏡の中央を弄った。


「僕は現在、王太子殿下が手がけている『水源管理計画』これに着目しています。これが実現されれば恐らく国の在り方が変わる。そう考えています」

「水源を? それはどういったものなのですか?」

「簡単に言えば、国が水源を管理し、浄化した水を各地へ運ぶ為の水路を引き、また汚水を濾過するという計画です」


 なるほど。日本の上下水道みたいなものか。

 私はビックリした。そんな画期的な考えをできる人物がいるなんて。


「それは……凄いことですね」

「わかりますか。さすが貴女は鋭いですね。このシステムが本格化すれば水不足の解消、安全な水の確保、そして疫病の防止まで見込まれるそうです。驚くべきはこの計画を提案したのが王太子殿下本人だということですよ」

「へぇ。今度の王太子様は優れた方なのですね」


 今の王太子はジークフリートではない。私が屋敷に引きこもるようになって2年ほど経過した頃、国中にもたらされた通達。それは、『第一王子を廃嫡し、新たに第二王子を立太子することとした』という知らせだった。

 ハンナは何やら興奮した様子だったが、私は逆に無関心だった。ジークフリートの奴、一体何をやらかしたんだろうかと思ったが、すぐに忘れた。私にはもう関係のないことだ。

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