第5話 嫉妬
その日はピクニックに行こうと計画していたので、朝からサンドイッチ作りに励んでいた。
マヨネーズを効かせたたまごサンドとチキンを甘辛く焼いてレタスで挟んだチキンサンド。
デザートに洋梨のコンポートを手早く作り、完成。
アルと合流して、目指すのは初めて訪れる花畑。
「わあ、こんなところあったんだね」
一面にいろいろな花が咲き乱れ、凄く綺麗な場所だ。
アルの家から程近いところにあり、「一度連れてきたかったんだ」ってはにかんでいた。
シロツメクサで花冠を作ってアルに冠せたら複雑そうな表情をされた。
ついでに四つ葉のクローバーをいくつか見つけたので、あとで栞にしてあげよう。
アルはヨモギの葉を摘んでいて、おじいさんに持っていくんだって言っていた。
しばらくそうやって遊んだ後、木の下でお昼にした。
サンドイッチをひとつ掴んで差し出す。アルはあいかわらず嬉しそうに上品に食べる。
「俺、今まで食事してて美味しいって感じたことなかった。何を食べても味気なくて食事が苦痛だった」
ポツリと呟いた。
「でもヴィーの作るものは全部美味しい。不思議だな」
寂しそうに笑うので、私は胸が締め付けられた。
「大丈夫だよ。これからも美味しいものたくさん作ってあげるから」
アルになにがあったのかわからないけど、これから先、幸せにしてあげたい。
それから私たちは、木に寄りかかっておしゃべりをした。
いつものように手を繋いで来たので、私はアルの肩にもたれかかる。
「でね、その時王子様が現れて、主人公を攫っていくの」
私は昨夜読んだ恋愛小説の話をしていた。
小説の中の王子様がどんなに素敵なのか熱く語っていると、アルは撫然とした顔をした。
「ふうん。ヴィーはホントに『王子様』が好きだね。じゃあさ、ユーインの王子にも会ってみたい?」
「とんでもない。そんな畏れ多いって」
咄嗟に否定する。
「そう言うわけじゃないけど……」
頭によぎるジークフリート。
「ねぇ、この国の王太子のジークフリート様ってさ、今婚約者いるのかな?」
「なんでそんなこと気にするの」
「別に。ちょっと気になっただけ」
元婚約者としてはね。なんて言えないけど。
「なんであんなやつ気にすんだよ。ジークフリートなんかのどこがいいんだ」
「誰もそんなこと言ってないじゃない。アル? どうしたの? なに怒ってるの?」
「ジークはクズな奴だ。関わっちゃいけない」
「え? アル、なに言ってるの?」
アルはそれに答えず、
「ヴィーは俺のだ。他の男を見ちゃダメだ」
きつくきつく抱きしめられて、身動きができない。苦しい。
「ヴィーが好きなんだよ。どうしようもなく好きだ。君を手に入れる為なら、なんだってする。全てを捨てろって言うならそうする。だからお願い。俺から離れて行かないで」
肩を震わせながら懇願してくる。
私はアルの背中をあやすようにポンポンと叩いた。
「バカだね。田舎暮らしの私なんかが王太子様と何かあるわけないじゃない」
「ヴィーは自分の魅力をわかってなさすぎだよ……」