第4話 豊穣祭
「ヴィアンカ様。なんだかご機嫌ですね?」
ハンナが私の髪を梳かしながら聞いてきた。
「えへへ、わかる? 今日はアルと豊穣祭に行くんだ」
「それはそれは。それじゃ今日はとびっきり可愛くしなきゃですね!」
「うふふ、お願い」
アップした銀色の髪を紺色のリボンで留める。刺繍の入った白いワンピースに袖を通し、サファイアのペンダントを付けた。このペンダントはアルから贈られたものだ。ブルーサファイアに天使の羽をあしらったとても可愛らしいデザインで、照れながら渡された時には嬉しくて涙が溢れそうだった。
ハンナのゴッドハンドにより磨かれた私は、自分で言うのもなんだけどなかなかの美人で、アル君も惚れ直しちゃいますね、なんて揶揄われ、顔を真っ赤にしてしまった。
いつもの待ち合わせ場所に行くと、アルがすでにいて、
「ヴィー、凄く可愛いね」
と、額にキスをしながら囁いた。
なんというか……アルが甘い。前から優しかったけど、恋人になってからはものすごく甘い。
そしてスキンシップが多くなった。そのたびに狼狽してしまう私。うう、心臓が持たないよ。
「いつも可愛いけど今日はとびきり綺麗だ」
「あ、ありがとう」
内心でハンナに感謝した。
「行こう」
私たちは手を繋いで歩き出した。
豊穣祭とは五穀豊穣に感謝し、国の平和と繁栄を祈願するお祭りだ。
ユーイン王国は『実り豊かな』という意味を持つ国で、1年に一度、全国各地で特色のある催しが行われる。
ここパステルダール領では、川にハリマツリの花を流し、願い事をするのだ。
ハリマツリの花を受け取り、私たちは川のほとりにしゃがみ込んだ。
顔を合わせて頷くと、同時に花から手を離す。
川には色とりどりのハリマツリがゆっくりと流れていて幻想的な光景だった。
「綺麗だね」
「うん」
私たちはそれをずっと眺めていた。
願いごとなんて、ひとつしかない。
これからもアルと一緒にいれますように。
帰る途中、出店で買ったりんご飴を齧りながら歩いていると、知り合いに声を掛けられた。
「あいかわらず仲いいね、おふたりさん」
細工工房のキースだ。彼は街の細工職人の息子で、自身も工房を手伝う細工師の卵だ。
私たちともたまに騎士団ごっこで遊んだりしている。アルとは同い年でふたりはしょっちゅう張り合っている。
「キースは何してるの」
「あそこで出店してる」
顎でくいっと指す。なるほど。出店が並ぶ一角にアクセサリーを売る店が見える。
キースが私の胸元を捉え、「ふぅん」と呟く。
「なに」
「似合うじゃん、それ」
ケラケラと揶揄う表情で笑った。
「そのペンダント、うちの工房でアルがつくったんだぜ」
「おい、バラすなよ!」
ビックリしてアルを見上げると、バツが悪そうな顔をしている。
「自分の瞳と同じ色の石を選ぶなんて、すげー独占欲強いのな」
「うるさい」
今もなお可笑しそうに背中を丸めて店番に戻っていくキースの後ろ姿を見届けながら、アルは頭を抱えた。
「俺、すげーカッコ悪い」
「全然そんなことないよ。凄く嬉しい。大切にするね」
アルが愛しい。