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第2話 アルの家

 ある日、私たちは森を探検していると、無花果がたくさん実った木を見つけた。

 私は凄く興奮した。熟した無花果はとても甘くて美味しいのだ。


「取ってくるから、アルは下で受け止めて!」

 

 危ないからと制止しようとする声を振り切って、私はするすると木に登った。


「いくよ〜」

 

 ひとつふたつと実を放り投げると、アルは器用に受け止めている。


「あ! あれ大きいかも」


 上の方に生る実に手を伸ばした時、私はバランスを崩した。あっという間の出来事だった。


「ヴィー危ない!!」


 木から転げ落ちる私を、咄嗟に受け止めてくれ、アルを下敷きにして止まった。


「アル、ありがとう……つつっ」


 どうやら落ちる時、枝に引っ掛けてしまったようだ。

 左足の太ももからふくらはぎにかけてザックリと切ってしまっていた。

 血がどくどくと流れて痛い。熱い。


「────ッ!! ヴィーそれ!!!」


 慌てたように大声で叫ぶアル。声が震えている。


「やっちゃった」


 てへへと笑う私を無視し、着ていた服を脱いでキズに押し当ててきた。


「汚れちゃうよ」

「黙って」


 そのまま私を抱え上げ、何処かに駆け出した。

 無表情のアルはどこか怒っているように見えたので、私は口を噤み、されるがままになっていた。




 しばらくして、一軒の小さな家に辿り着いた。


「ここどこ?」

「俺ん家」


 私はわずかに目を瞬かせた。

 かすかに草のような青臭い匂いがする。扉を開くとそれは一層濃く感じられた。


「おじいさん! おじいさん! どこ! おじいさん!」

「どうした坊ん。そんな慌てて」


 奥の部屋から出てくるひとりの老人。


「枝で足を切っちゃって血が止まらないんだ。おじいさん助けて」


 私を抱きしめるアルの腕にわずかに力がこもる。今にも泣き出しそうだった。


「そうかそうか。ほれ、彼女をベッドに寝かせぇ」

「うん」


 おじいさんは横たわる私の足にそっと触れた。


「こりゃあ派手にやったなぁ。でもあまり深くはなさそうだ。大丈夫大丈夫。ほれ、坊ん。桶に水汲んでこい」

「わかった」


 丁寧に傷口を洗い流し破傷風予防の薬草をつけてくれた。ちょっと沁みる。でも私が顔を顰めるたびに、アルが泣きそうになるので我慢我慢。

 傷に効く薬草を貼って布でぐるぐる巻きにされた。


「これでよし。すぐに良くなるだろ。坊ん、リジン草の茶を入れてやれ。痛みによく効く」


 アルはすぐさま台所に向かって行った。


「ずいぶんとお転婆なお嬢ちゃんだな。何処でこんな怪我した」

「木から落ちた」


 ワハハと笑うおじいさん。


「アルを下敷きにしちゃった。どこか打ったかも。あとで診てあげて」

「わかったわかった」


 おじいさんはなんだか嬉しそうだ。


「おじいさんは薬師さんなの?」

「そうだよ。お嬢ちゃんは我慢強い、いい子だね」

「だって私が泣いたらアルがもっと泣いちゃうもん」

「あの子は今まで大事に大事にされて育ったからな。こんなこと初めてなんだろう。お嬢ちゃんと友だちになれて、毎日楽しそうだ。これからもあの子と仲良くしてやってくれな」

「うん」


 ポンポンと頭を撫でてくる。温かくて優しい手だな、と思った。

 そうしてお茶を持ってきたアルと入れ替わるように、おじいさんは部屋に戻って行った。


 アルが淹れてくれたお茶は苦いような渋いような緑茶を濃く濃く煮詰めたような味がした。


「ヴィー痛い? 大丈夫?」

「ちょっと痛いかな。大丈夫だよ。心配かけてごめんね」


 安心させるように微笑む。


「おじいさんにもありがとうって言っておいてね……えっアル、アル? 大丈夫だよホントに大丈夫だから、ね? 泣かないで」


 アルはポロポロ大粒の涙を流し、ひっくひっくとしゃくり上げながら泣いてる。ものすごくビックリして焦っちゃった。


「だってヴィー女の子なのに」


 袖で涙を拭いながら吐き出すように声を荒らげる。


「ヴィーみたいな綺麗な女の子が、綺麗な足にそんな傷をつけちゃうなんて」


 思わずゴホゴホとむせる。綺麗って何だ。なんだか恥ずかしいこと言われた気がするぞ。私は頬が熱くなるのがわかった。


「ア、アルのせいじゃないし」


 アルの手に軽く触れる。


「私まだ子供だし。知ってる? 子供は傷の治りも早いんだよ」

「ホ、ホント?」

「ホント。だからまた遊んでね」

「うん。でももう木登りはしちゃダメだからね」

「あはは。善処します」


 私たちは笑い合った。

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