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第1話 領地で出会った少年

 パステルダール領の冬は長い。


 昨夜の吹雪が朝には止み、降り積もった雪は太陽の光を受け止めて跳ね返りキラキラと輝いていた。


 一面の銀世界。


 2階の窓を大きく開け放ち、私は思わず歓声を上げた。


「うわぁー!!」


 今季一番の雪だ! やったぁ!

 『一番雪』は私のものだ。ワクワクと逸る気持ちを抑えきれず、部屋を飛び出した。


 そのまま屋敷を飛び出しそうとした私は、侍女のハンナに拘束されて着替えさせられた。厚手のモコモコした焦茶色のコートにブーツ。淡いピンク色のニットの帽子を目深に被せられ、赤いマフラーで顔の半分が隠れるくらいにグルグル巻きにされる。

 もはや目元しか露わになっていないこの格好。何これ。これじゃ子熊だよ……

 でもハンナのやりきったと言うような満足気な表情に、私は「まぁいっか」と溜息をついた。






 一歩一歩と真新しい雪を踏みしめる。サクサクサク。気持ちい〜!

 さすがに寒さは全く感じない。ハンナ、グッジョブだよ〜と、夢中になって足跡を付けて回る。

 雪うさぎがぴょこっと顔を出して逃げた。その小さい足跡を追いかけてみたりして遊んだ。




「ん?」

 途中、見かけない足跡に気づき、ふと顔を上げてみると、そこには知らない男の子がいた。


 目の前に現れた少年に、私は一瞬息をのみ、目を奪われた。見たことのないほどの美少年だった。金色の髪がキラキラと輝いて、恐ろしいほど整った容姿は、白銀の世界に舞い降りた天使なんじゃないかと錯覚する。いや違う。絵本の中の王子様だ。私の胸はドキッと高鳴った。

 彼の碧眼が私の姿を捕えると一度大きく見開いた。



「なに見てんだよブス」



 ……な、なんて?


 天使な少年が発したとは思えない言葉にかなりムッときて、私は雪の玉を投げ付けてやった。

 ベシャリと顔に当たって落ちた。


 彼は一瞬唖然としていたが、

「なにすんだ」

と、少年も雪の玉を投げ返す。が、私はそれを軽やかにかわした。雪国育ち舐めるなよ!

 そうしてしばらく雪合戦のようなものが続いた。


「私、ヴィアンカ。あなたの名前は?」

「アル」

「アル! 明日はソリしよ。持ってくるね」

「明日は来るかわからない」

「待ってるね」

「お、おい」


 それがアルとの出会いだった。

 その時、私は9歳。パステルダールで暮らし始めて3年が過ぎようとしていた。





 アルは私よりひとつ年上で、どことなく上品な少し影のある少年だった。同年代の子と遊び慣れていないのか何をするにも目を輝かせていた。


 私たちは冬の間、毎日目一杯遊んだ。

 雪合戦したり、ソリで遊んだり、雪だるまを作ったり。

 凍った池でスケートしようとしたら、足を踏み出した瞬間ヒビが入ってヒヤリとしたっけ。


 最初は私を警戒していたアルも、だんだんと笑顔を見せてくれるようになって、私のことを「ヴィー」と呼ぶようになった。

 より一層仲良くなれた気がして嬉しかった。毎日が楽しくて楽しくて仕方がなかった。


 ハンナのお許しが出て、子熊スタイルから、普通のコートとショートブーツに変わった頃。

 春の訪れはもう間近だった。


「アル〜!」

 

 大きく手を振って呼びかけると、アルが振り向いて絶句していた。


「……え? ヴィー……なの、か?」

「なんで疑問系かなぁ」


 呆然とするアルの腕を引っ張り、駆け出す。

「こっち。来て!」




「見て見て。可愛いでしょう、雪割草。この花が咲いて、ようやく春が来るんだなって実感する」


 雪の中から顔を出す青い花をちょんちょんとつつく。アルもじっと雪割草を眺めていた。


 春は、すぐそこまで来ている。






 それからも私たちは毎日のように遊んでいた。


 川で魚釣りをした。意外にもアルの方が多く釣れていた。ちょっと悔しかった。焼いて食べたら、アルは美味しい美味しいとペロリと平らげた。

 水切りを教えてあげたら、アルはすぐに上達して7回も跳ねさせていた。やっぱりちょっと悔しかった。


 秘密基地を作った。草むらの中に柱を4本立てて、屋根代わりに大きめの板を張った簡単な作りだったけど満足だった。これで雨の日も遊べるねと言ったら、嬉しそうに頷いてくれた。


 かくれんぼをした。アルがなかなか見つからなくて半泣きになった。私が隠れる番だとすぐに見つかっちゃう。なんで!?


 たまにパステルの街の子たちとも遊ぶことがあり、そういう時は大抵騎士団ごっこをした。いわゆるチャンバラごっこだね。

 アルは棒切れの扱いが一番上手く圧勝だった。

 アル凄い凄い! 嬉しくて抱きついたら目を白黒させていた。周りのみんなには囃し立てられた。


 お気に入りの丘の上で黙って陽が沈むのを眺めていたこともある。

 オレンジの光が静かに街並みを照らすのが好きだった。

 ふと視線を感じて隣を見るとアルがこちらを見ていた。軽く首を傾げると、目を逸らされてしまった。

 わずかに顔が赤かった気がしたが、それは沈む夕陽のせいだったのか、わからない。

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