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第15話 アルの想い①(アル視点)

 ヴィアンカの元を去り、パステルから王都に戻って半月が経とうとしていた頃。


 アルベルトは日課の剣術の訓練を終え、着替えをする為に、城の廊下を歩いていた。


「おい」


 何か男の声がした気がしたが、自分の事とは思わず、無視して歩いていた。


「おい、待てよ」


 アルベルトは更に無視して歩いていた。


「待てって、そこの第二王子」


 そこで初めて、男が自分に話しかけていた事に気づいたが、そんな風に呼び止められる謂れはない。無視して立ち去ろうとしていた時、ガシッと肩を掴まれた。


「無視すんじゃねえ、このチビが」


 アルベルトは掴まれた手を払い除けて、睨んだ。


「誰だお前」

「ハッ、ようやく振り向いたな。チビ助」

「チビチビうっせぇな。俺はまだ成長期だ」


 男は言うだけあってなかなかの長身の少年で、アルベルトより幾つか年上のように見える。自分を見下ろす姿はジークフリートを彷彿とさせ、不快感が滲む。

 大体、王族に対してなんなんだ、この態度は。


「お前に言っておきたい事がある」


 そう少年は言って、アルベルトの胸を指でつついた。


「お前なんかにヴィアンカは渡さねぇからな」

「はぁ?」


 突然出てきた自分の最愛の名前に驚くと共に、怒りが込み上げる。


「ヴィアンカは俺のだ。わかったな」

「何言ってんだお前。ヴィアンカは俺のものだ」

「俺のだ」

「いいや、俺のだ」

「口答えすんじゃねぇ」


 少年はアルベルトの胸倉を掴んで引き寄せた。アルベルトも負けじと少年の胸倉を掴んで捻り上げる。しばらく殺気のこもった睨み合いが続く。


 その時、少年の頭に特大の拳骨が落とされた。


「いってぇぇぇぇぇ」


 少年は頭を抱えてうずくまった。


 そこに居たのはパステルダール侯爵で、

「お前は何をやっている!!」

と、怒鳴りつけた。

 そのまま少年の襟首を掴み上げ、立たせると、頭を強引に下げさせた。


「殿下、うちの愚息が大変失礼を致しました」


 頭を押さえ付けられた少年はそっぽを向いている。


「お前も謝れ!」

「嫌だね」

「ルドルフォ!!」


 もう一度、拳骨をお見舞いされ、涙目になる少年。ひでぇよ親父ぃと、頭を摩っている。


 これが、パステルダール侯爵家の嫡男、ルドルフォとの出会いだった。





 ルドルフォという男は、第一印象は最悪だったものの、付き合っていくうちに、面白い奴だとわかってきた。口は悪いが、なかなか優秀な男だったので、気がつけば仕事を手伝ってもらうようになっていて、いつの間にか側近のような存在になっていた。


 アルベルトが立太子する際も、大いに活躍してくれた。悔しいので言わないが、非常に感謝している。


 何よりも、ヴィアンカの兄だしな、と思う。自分にとって兄という存在は苦々しい物でしかないが、ルドルフォのヴィアンカ愛は傍目から見ていて、妬けるほどだ。

 それに、ヴィアンカの様子を定期的に報告してくれるのもいい。2、3日顔を見せないな、と思っていたら、決まって領地に行ってたと告げられる。


 ヴィアンカが、最近、家庭教師の男と仲が良いらしいと聞いた時には無意識に立ち上がり、倒した椅子で脛をしこたまぶつけた。


「身元はしっかりした人物なんだろうな」

「ランシード=ピケルって知ってるか?」

「ランシード? たしかピケル男爵家の三男坊がそんな名だったか」

「そうそう、そいつ。この前領地に戻った時、少し話す機会があったんだけどさ、ヴィアンカは算術が得意らしいよ。算術に関しては自分も敵わないってさ」

「ん? ちょっと待て。ランシードといえば数論の天才って言われてなかったか?」

「そいつに敵わないって言わせるヴィアンカ、ヤバくない?」

「ヤバいな……」


 実際、ヴィアンカの知識は底知れないと思う。

 アルベルトが今画策してる最大の課題に『水源管理計画』がある。これももとを正せばヴィアンカの構想だ。

 ある時、どんな国が理想の国だと思う?と尋ねたことがある。ヴィアンカは少し考えた後、「水の綺麗な国」と答えた。そして上下水道の完備の重要性を切々と訴えた。


『水は命の根源だよ。水が何処でも手に入る、それが実現できたら凄いことだよ。上水道を国民が誰でも使用できるようにして、下水道をちゃんと整備すれば、水害だって死者だって減るんじゃないの?』


 そんなことを聞いた後、アルベルトは「なるほど」と呟いた。

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