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第14話 アルとの再会

 デビュタントが無事済み、私はグレース夫人に引っ張り出され、いくつかの夜会に参加させられていた。グレース夫人に紹介されて、何人のもの男性と挨拶を交わし、誘われてダンスを踊った。

 ヘトヘトになって帰宅すると、反省会と言う名の品定め会?だ。やれ、あそこの伯爵は女癖が悪いだの、あそこの侯爵は派手好きで資金繰りが怪しいだの、あそこは長男じゃないから縁談に向かないだの、まぁ出てくるわ出てくるわ。グレース夫人の口は止まらない。


 私はややウンザリとしながら聞いていた。

 そんな私の様子を目を細めながら見守るお父様。


「そんなに気乗りしないなら、無理に夜会に参加しなくともいいんじゃないかな」

「出ましたよ、侯爵の日和見主義。駄目ですよ。ヴィアンカ様には早めに婚約者を見つけてあげないと。この子は跳ねっ返りなんだから」


 酷い言われようだ。


「まあまあ」


 お父様は笑っている。


「グレース夫人には本当に感謝しているんですよ。貴女のおかげで、ヴィアンカはこんなに立派なレディに成長した。跳ねっ返りは変わらないけどね。このままなら今に縁談がたくさん舞い込むだろうね。ホント良い子に育ってくれた。それとね」


 お父様が今度は私に向き合って言った。


「ヴィアンカの縁談に関しては私も考えてない訳ではないんだよ。先方も乗り気でね。近いうち婚約を申し込まれる手筈になってる」

「あら、本当ですか。侯爵のお眼鏡に敵うなんてどんなお方ですの?」

「正式に決まったらお話ししますよ。大丈夫。悪いようにはしないから」


 私は頭が真っ白になった。


「い、嫌です! そんな話、聞いていません!!」

「ヴィアンカ様、家長に逆らってはいけませんよ」

「でも……」


 これは大変だ。


 貴族の家に生まれたならば、政略結婚は避けては通れない道だ。それはわかっている。わかっているんだけど……


 アル、アル、助けて。いつになったら迎えに来てくれるの。





 その日は天気がいいので、お買い物に行こうとハンナを誘った。この前の縁談の話以降、毎日悶々としていたので何か気晴らしがしたかった。三番街に行こうと、町娘の格好で出かけた。


「おばさん、こんにちは」

「あらお嬢ちゃん、また来てくれたの。嬉しいわぁ」


 よく来る青果店に顔を出す。


「今日は何がおすすめ?」

「これなんかどう? 今朝入荷したばっかりだよ」

「あ! 無花果?」

「そう。よく知ってるね」

「田舎でよく食べてたから」


 無花果を手に取って匂いを嗅いだ。完熟した甘い香りがした。

 懐かしいな……アルと遊んでて木から落ちた日のことを思い出した。あの木も無花果だったっけ。


「じゃあ、この無花果10個ちょうだい。あとねぇ……」

「このりんごなんかどうだい? ちょっと傷が付いてるから、安くしとくよ」

「じゃありんごも10個」

「まいど。いつもありがとね。これはおまけだよ」


 青果店のおばさんに別れを告げ、歩き出す。ハンナにはりんごの袋を持ってもらい、私は無花果の袋を抱き締めた。


「これ、どうするんですか?」

「う〜ん、無花果は私はそのまま食べるのが好きだけど、りんごはジャムにしてもいいし、アップルパイも美味しいし、身を搾ってりんごジュースにしてもいいよね。ハンナは何がいい?」

「ヴィアンカ様のアップルパイが食べたいです!」

「あはは、わかった〜」


 呑気に会話していると、不意に袋を奪われた。ハッとして顔を上げると、目の前にお兄様がいた。


「こんなに買って、お前、店でも開く気か?」

「な、お兄様!? 奇遇ですね」


 そのまま腕を掴まれ、歩き出された。


「こっち来て」

「何ですか? ちょっと!」

「いいから黙ってついて来いって」

「何なの? ねぇ痛いって」


 強引にぐいぐいと腕を引かれ、何処かへ連れていかれる。腹が立つな。何なんだ、一体。説明くらいしろ。




「ほら」


 急に立ち止まり、背中をトンと押された。    

 「何?」と思っていると、目線の先には。


 ……………………え?



「…………ア…ル?」



 そう、目の前にアルがいた。

 一目でわかった。あの頃よりだいぶ大人びているけど、ここにいるのはアルだ。金髪碧眼の美しい顔立ちは少年ぽさを残しつつ、精悍な顔つきになっている。私と変わらなかった背丈もスラリと伸び、その見目麗しい姿に、私は目を離せなかった。

 懐かしさと切なさと、溢れんばかりの愛しさに、胸が締め付けられる。


「ヴィー、久しぶりだね」


 若干気まずそうに、そして照れたように、言った。

 アルが、アルが、アルが、私の名前を呼んだ。


「嘘……」


 思わず口元を手で覆った。私はもう涙を堪えきれなかった。ポロポロと涙がこぼれ落ちる。


「な、泣かないで」


 慌てて頭を胸元に押し付けられ、背中をポンポンとされる。私はそのままアルの胸の中で子供みたいに泣きじゃくった。





 私たちは今、公園のベンチに座っている。辺りにはひと気がなく、ひっそりとしていた。

 時折、ヒヨドリの「ピーヨ、ピーヨ」という鳴き声がする。


「ヴィー、綺麗になったね」


 優しく微笑みながら、アルは言った。私は思わず顔が赤くなって、俯く。こういうことさらっと言うとこ、変わってないね。


「俺のことは聞いてる?」


 思わずアルを見る。アルもこっちを見ている。視線が交差する。アルは、瞳の中の感情を読み取るかのようにジッと見つめてくる。


 私が頷くと、

「そっかぁ」

 アルは両手で顔を覆い、

「黙っててごめんね」

と言った。私は小さく首を横に振った。


 若干の沈黙の後、アルが呟いた。


「本当は今日、君に会う気はなかったんだ。それをルドルフォの奴が勝手に……」


 ……え?

 私は頭をガンと殴られたような衝撃を受けた。


「アルは私にはもう会いたくなかったってこと?」


 これこそ、私が最も恐れていたこと。会いたくなかったと過去をなかったことにされるのが、私は一番怖かった。

 涙が、また溢れて止まらなかった。

 私はアルに会いたかった。会いたくて会いたくて愛しくて仕方がなかった。でも、アルは……違うの?


 突然泣き出した私にギョッとして慌てて抱き締めてくる。


「ち、違う。ごめん。言葉が足りなかった」


 私の背中を優しくさすりながら、

「駄目だなぁ、俺は。君を泣かせてばかりいる」


 情けなさそうな声を出し、アルは私の肩口に顔を埋めた。


「俺はヴィーが好きだよ。俺の気持ちはあの頃からちっとも変わっていない。俺には君だけだ。毎日君のことを考えてばかりいる。本当だよ」


 何か言いたいのに、胸がいっぱいで、言葉が出てこない。代わりにアルに精一杯抱き付いて、背中をギュッと握り締めた。


「君を万全の状態で迎えに行きたいんだ。それにはもう少し時間がかかる。あとひと月だけ、待っててくれないか。そうしたら必ず君を迎えに行く」

「……本当に?」

「ああ、約束する」


 そう言ってから、アルが強引にキスをしてきた。ビックリしたが、私はアルの首に腕を回して、キスを受け入れた。長い口づけの後、アルが耳元で囁いた。


「本当は俺だって待ちきれないんだ」

次回からアル視点に移ります。

時系列的には少し遡ります。

数話続く予定。

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