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第13話 デビュタント

 そうやって日々を過ごすうちに、社交界デビューの日がやって来てしまった。

 白を基調とした立派で清楚なドレスに身を包む。グレース夫人とお兄様でいろいろ言い合いながらデザインしてくれた素敵なAラインのドレスだ。

 髪を結い上げ、煌びやかな髪飾りで飾り付ける。


「私の天使は本当に女神だなぁ」

と、お兄様はよくわからない事を言っていた。




 初めて訪れる王城は荘厳で、一瞬息をするのも忘れるくらい、研ぎ澄まされた場所だった。何処まで続くんだって言うくらい広くて、古めかしいが豪華な造りだ。さすが大国の王城なだけある。

 息を呑む私の隣で可笑そうにニヤつくお兄様。ホント意地が悪い……


 私は凄く緊張していた。手は汗ばみ、口腔は乾いて、お兄様の肘に添える手はカタカタと震えていた。付き添いを申し出てくれたお兄様がいなかったら、逃げ出していたかも。ちなみにグレース夫人も来てくれるはずだったんだけど、どうしても抜け出せない商談が入ってしまったらしく、今日は一緒ではない。自分の教え子の晴れ舞台だったので、非常に残念そうにしていた。




 豪華絢爛な会場内は多くの人で溢れていた。

 国王陛下が簡単な挨拶をして、舞踏会は開催された。


「王太子殿下は、お見えにならないのですね……」


 気がつくと、私はそう言葉にしてしまっていて、慌てて口をつぐんだ。

 お兄様が意外そうな顔をしていた。


「会いたかったの?」

「あ……いえ……」


「あいつはいつも夜会に参加しないよ。前回参加したのは建国祭の舞踏会だったかなぁ。それだって渋々で、最初だけ挨拶してさっさと帰っちゃった。好きな子以外と踊りたくないんだってさ。本当、堅物だよなぁ」


『好きな子』

 このフレーズに私の心臓がキュッと縮む。

 喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか、わからない。アルの真意がわからない。


「大丈夫かい? 顔色が悪いけど」

「大丈夫です。ちょっと緊張してるだけ」


 私は曖昧に笑った。


「お兄様は王太子殿下とお知り合い、なのですか?」

「ん? まぁね」

「どのような方なのですか?」


 う〜ん、と顎に手を遣って考えていた。


「真面目で頑固なところもあるけど、気の良い奴だよ。考え方が柔軟で周りへの気配りも出来る。頭の回転も早いし、将来は立派な国王になるだろうな」

「べた褒めですね……」

「ただなぁ、人使いが荒いんだよあいつ。アルベルトのせいで北へ南へ走り回って毎日大変だよ」


 へぇ。何だか意外だ。いつも飄々としているお兄様が振り回されてる……というか、王太子殿下の仕事を補佐してるなんて、お兄様って実はスゴい人? あいつ呼ばわりだし。


「随分と気にするね。そんなに会いたいなら会わせてあげようか?」

「いえいえ結構です」

「あいつも俺が言えば、機会を作ってくれんだろ」

「結構ですって」

「遠慮するなよ」


 私はムウッと口を尖らせて言った。

「……王太子殿下は会おうと思えば会える方なのですか? 私でも?」

「やっぱ、会いたいんじゃん。なんだぁ? 王太子妃でも目指す気か?」


 ムッときて、ケラケラ笑うお兄様の足を思いっきり踏み付けてやった。


 お兄様が声にならない声で悶えている時、ちょうど名前が呼ばれたので、私は国王陛下の御前に歩み寄った。先程のお兄様とのやり取りで、いい感じに緊張はほぐれていたため、落ち着いて対応できそう。


「お初にお目にかかります。パステルダール家の娘、ヴィアンカと申します」


 カーテシーで頭を下げる。


 初めて見る陛下は威厳と尊厳を兼ね備えた迫力のあるお方で、国王に相応しい人物に思えた。何処となくアルに面影があり、やっぱり親子なんだなあと実感した。


「其方がジョルジオ自慢の娘か。なるほど。芯の強い澄んだ瞳をしておる」


 ちなみにジョルジオとはお父様の名前だ。陛下とお父様は学園時代からの友人らしく長い付き合いなんだって。お父様といいお兄様といい、ガッツリ王族に関わってて、私、どうしたらいいんだろ。はぁ。


「其方とも長い付き合いになるであろう。よろしく頼む」

「有難いお言葉、光栄にございます。こちらこそよろしくお願い申し上げます」


 陛下への拝謁が終わり、私はお兄様の元に戻る。


「何か言われた?」

「長い付き合いになるからよろしくって……私は何をよろしくされたんでしょうか?」

「陛下が? そうおっしゃったの? へぇ……」


 お兄様は何やら含みのある笑いをしていた。

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