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第12話 王都とお兄様

 馬車に揺られる事、半日。


「王都に入りましたよ」


 ハンナが私の手を握りながら言った。

 うとうととしていた頭が徐々に覚醒する。

 窓の外を伺うと、華やかな街並みが広がっていた。


「うわぁ〜」


 私はおのぼりさんみたいに窓にへばり付いた。

 パステルの街とは違った洗練された光景に思わず感嘆の声を上げる。


 凄い……都会だ……

 王都には6歳まで暮らしていたはずなのにあまり記憶にない。そこにはたくさんの店が軒を連ね、群がる人、人、人……


「やっぱり三番街は活気がありますね」

「ホントだね!あそこのお店美味しそうだよ! ハンナ、今度行こう!」


 不安でいっぱいだったのが嘘のようにウキウキと心が弾む。楽しい。


 ユーイン王国の城下町は大きく3つに分かれている。王城を中心に上位貴族の屋敷が取り囲む、通称一番街。パステルダール家もここにある。そしてそれらを取り囲むのが下位貴族の屋敷や大手商会などの二番街。ここには高級な店舗や施設も多く、貴族たちの御用達になっている。そして王都の大部分を占めるのが平民が住まう、三番街だ。




 しばらく馬車を進めて行くと、パステルダールの屋敷に到着した。


「ひえぇ〜」


 さすが侯爵家なだけあって、ひときわ大きく立派な建物だ。遠い記憶にしかないけど。

 私ってお嬢様だったんだなぁと改めて思う。

 家令のサージを筆頭に、大勢の使用人たちが出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「き、今日からお世話になります。よろしくお願いします」


 やや緊張しながら頭を下げると、サージは呆気に取られた顔をした。


「お嬢様が我々に頭を下げる必要などないのです」


 怒られちゃった。てへ。


「ヴィアンカ!」


 その時、お兄様が屋敷から飛び出してきた。


「おお、私の天使! よく来たなぁ」


 その勢いのまま、私を抱き上げたので、凄く焦った。


「お、お兄様。もう子供じゃないんだから……」

「うんうん。ヴィアンカはホントに可愛いねぇ。よしよし」


 聞いちゃいねぇ……


「疲れただろう。今日はゆっくりしなさい。後でパステルでの話、聞かせてね」


 そう言って、頭をくしゃくしゃ撫で回してきたのだった。




 ルドルフォお兄様はお父様に輪をかけて、私を溺愛してくる。小言も多いが、基本甘い。『私の天使』は常套句だ。いろいろ揶揄ったり困らせることもしてきて、私を怒らせることも多々あるが、その度に可笑そうにしている。私はお兄様が大好きだ。


 お父様譲りの亜麻色の髪の美丈夫で、その甘い深紫の瞳でウィンクでもされたら、女性はイチコロだろう。アルといい、お兄様といい、私の周りは美形ばかりだ。

 私とは歳が5つ離れており、学園を卒業した後はお父様の仕事を手伝って王宮に勤めているらしい。


 以前、ジークフリート様と同級生だと話していたこともあったっけ。ただ、ジークフリート様は割とすぐ、ミルーシュ公国に留学されてしまったので、接点はほとんどないんだとも。


 王宮に勤めているなら、アルとも面識あるのかなぁ。お父様がアルと昔からの知り合いなら、お兄様もそうなのかな。聞いてみたいけど、なんだか藪蛇になりそうなので、口に出せずにいる。




 屋敷に馴染むのは割と早かった。お父様もお兄様もいるし、使用人たちも優しかった。ハンナも生き生きとしている。やっぱり王都は刺激が多く、なんだかんだで楽しんでいる。


 ある時、厨房をちょっと貸してくださいって料理人さんにお願いしたらビックリされたけど、快く了承してくれた。それ以来、厨房の空いている時間に、たまにお菓子作りに勤しんでいる。

 最初は侯爵令嬢が厨房に入り浸るなんて……と、小言を言っていたお兄様も今では何も言わなくなった。そのかわり、せっかく作ったお菓子を、目を離した隙にごっそり持ち去っていくのはホントにやめてほしい。3時のおやつにとウキウキしながら準備している時に、お菓子が消えている事に気づいた瞬間の絶望たるや。何度、お兄様に雷を落としたことか。全然効果ないけど。

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