これを一目惚れと呼ばずになんと呼べばいいのだろう(1)
「あのぅ…す、すみません……と、隣…いいですか?」
「隣いいですか?」だなんて。カップルか?どんな距離感なんだよ。なら初対面?ラブコメじゃあるまいし…そんな状況あるわけないだろ。まあどうでもいいか。そんなくだらないことを考えながらツイッターを素早くスクロールしていく。
「このアニメ2期やるのかぁ。ほんと見たいアニメが増えていく一方だな…」
「あ、あの!聞いてるんですか!と、隣いいですかって、、き、聞いてるんですけど」
「またブツブツと呟いてしまった…キモすぎる…」などと危うく自己嫌悪に陥りそうになっていると、先ほどの彼女が不満そうに声を上げた。自分の声にびっくりしたのか、後半からはさっきの調子に戻ってしまっている。
「どんな奴なんだ…?」
スマホから顔をあげ、声の主の方へ視線を向ける。意外にも声の主は瞬時に見つかった。
「や、やっと顔を上げてくれましたか、、えっと、隣、いいですか?」
雪のような人。はらはらとこの世に舞い降り、あたりを白で彩り、些細なきっかけで溶け、終いには一切の痕跡を残さずこの世から消えていく、雪のような存在。それが僕の彼女に対する第一印象だった。
降ればその景色は老若男女問わず愛される。
積もれば平凡な風景は一変して映画のワンシーン。
さながらそれは神からの祝福。
初雪に忘れ雪。新雪に宿雪。襖雪に斑雪。
浅雪に深雪。銀花に六華。不香の花に雪の花。
——ああ、この少女は神に愛されている。
そう直感的に感じてしまうほどに、彼女は美しかった。
「……もういいです!隣、座りますね!」
「………は?他にも席が空いてるんだし、そっち座ればいいんじゃないですかね?」
思ったよりも語気が強くなってしまったが、まあこれでこの少女との会話は終わるだろう。そしてまた各々の人生を歩み始めるのだ。僕はスマホに視点を戻し、再びツイッターを漁り始めた。
結論から言うと、僕の考えは甘かったと言わざるをえなかった。
10分、30分、1時間。どれだけ時間が経っても彼女は一向に動こうとはしなかった。
最初の会話から3、40分ほど経った頃。初めて僕は彼女に話しかけた。
「そうやって人の休憩時間を邪魔して。何が目的なんですか?」
「面白そうじゃないですか」
「………。平凡な僕と雪のように綺麗な君。周りから視線を感じるんですが。そろそろ…」
「まあ!雪のように綺麗だなんて!すごく嬉しい!」
彼女はパァーッと笑った。少し見惚れてしまった。だがそれほどまでに綺麗だった。
例えるならば、朝日に照らされキラキラと輝く雪のよう。
なんだか負けたような気がして、イヤホンを付けYouTubeを開いた。推しが配信していたのでその勇姿を見届けることにした。