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作者: 五日北道

「『ランゴリアーズ』って知ってますか?」

「知らないね」

「異世界に迷いこんだ人たちが、現実に戻ろうとする話なんですが。私の家族、そういうの好きで」


斬り結んでいた男と少女は、砂埃をまきあげてお互いに距離を取った。


終末感ただよう都市。

この場所はもともと、穏やかにも活気あふれる【始まりの街】だった。

VR MMORPG【King】 が、数多のβテスターを呑みこみ、ログアウト不能のデスゲームと化すまでは。


「私たちは考え違いをしていたのかもしれない」

「それがどうした」


少女の言葉も、男の攻撃を止めるには至らない。

少女は、男から放たれた中距離攻撃【閃刃】をわずかな動きでかわす。


その隙に距離を詰めた男の刀は、正確無比に急所を狙ってくる。

少女はリーチの外に回避しつつ、呪符を放った。

少女の【爆呪符】は、任意の時限式だ。男の攻撃筋(アタックコース)を的確に切ってくる。

呪符は赤く明滅して、はぜる寸前だ。男は、強引に最短距離の呪符を一閃、破壊して追いつく。


「はじめ、私たちはゲームをクリアすればログアウト可能になると信じてた。それで現実に戻れると思ってた」

「そうだな」


自嘲気味に同意した男は、しかし追撃の手をゆるめない。


「それもとんだ間違いだったがな!」


攻略組の総力でもって挑んだ魔王は、八時間の苦闘の末に討伐された。

男は、その攻略組のうちの一人だった。


男はまさに眼前で見てきたのだ。

魔王を討ち滅ぼし、ゲームクリアに歓喜した仲間たちと、その後の絶望を。

ゲームクリア後も、ログアウトできない仮想現実。

やがて始まったプレーヤー同士の殺し合い。


「誰が言い出したんでしょうね。生き残って最後の一人になったら、望みは叶えられて現実に戻れる、なんて」

「俺以外の誰か、だ」


男は踏みこんで鋭い突きをくりだす。


「私は疑っています。味方の誤爆(フレンドリーファイア)無効、自殺もできないこの世界(システム)で、私たちは」


少女はどうにか攻撃を回避してつぶやいた。


「お互いに殺し合うよう、誰かに誘導されていなかったか」

「プレーヤーに糞ったれな運営が混じっていて、俺たちを扇動したとでも?」


男は鼻でわらった。


「いたとしても、もう確認できないがな!」


なにしろ、たくさんいたβテスターも、男と少女で最後なのだ。

少女は否定した。


「私が考えているのは、NPCのことです」

「なるほどな。NPC(やつら)が全滅したのは、この殺し合いがずいぶん進んだあとだったか」

「私が始末しました。それも遅すぎましたが」


少女は唇をかんだ。


NPC(彼ら)はこのゲームそのものでもある。元からデスゲームとして意図された世界なら【誘導】は当然でもある」

「それで?」


男が放った渾身の一撃は、ついに少女の錫杖を破壊し、薄く額を斬った。

流血が、膝をついた少女の視界を奪う。


「残念だったな。何を狙ったか知らないが、ムダなおしゃべりもここまでだ」


切っ先を突きつけて、男は少女を見おろした。


「何か言い残したいことはあるか?」


勝者の傲慢。

言い放った男を、少女は見上げた。


「意識を残した一人だけが現実に戻れない」

「何?」

「『ランゴリアーズ』の結末ですよ」


一瞬、動揺した男。

一瞬を逃さず、呪符を放った少女。


呪符は男の顔のすぐ横をかすめるように飛び去り、

反射的に、男は少女を斬っていた。


「保険は、かけましたーー」


光の粒子となって、少女の姿がかき消える。


勝利の喜びがじわりと男の胸をみたした。男は今、すべてのβテスターの頂点に立って、ただ一人生き残ったのだ。


男は肩で息をついて、刀を手ばなした。

刀が地面に転がる。

カラン、とずいぶん軽い音がして、


ただそれだけだった。


勝利を告げる"You Win"の文字も、輝かしいファンファーレも、何もない。

男は不安を覚えた。

男はかすれる声で、希望の一言を口にした。


「ログアウト」


――これまで同様、何も起こらなかった。

勝利の喜びは一転して、どす黒い恐怖に塗りつぶされた。


NPCはいない。

モンスターすら、魔王討伐後から出現(ポップ)しない。

当然、プレーヤーもいない。

そんな世界に男だけが一人。


ふと、少女の残した言葉が蘇る。「意識を残した一人だけが現実に戻れない」

この自殺もできない仮想現実(この世界)で、もし、死んだ人間から現実に戻っていたとしたら?


「勝ち抜いた俺が、敗者だというのか」


男は呆然とし、そして、少女の最後の攻撃を思い出した。


振りかえれば、背後、半壊した建物の壁。

少女が放った最後の呪符が一枚、貼りついていた。


少女は最後、何と言っていただろう?

――保険は、かけました、だ。


「そうか」


男は全速で駆けだした。


少女が言ったことが正しい保証はない。しかし、このままでいることが正しい保証もない。

赤く明滅を始めた呪符に、男は身を投げ出した。




スマホのメモ帳「もうらめぇっ……!そんなに入らないのぉっ!」

文字数が。


スマホのメモ帳にあれこれ駄文を書いていたら文字数が多くなりすぎたのか、挙動がおかしくなったため、こちらに移植……


スティーブン・キングファンのみなさん、ごめんなさい。

お読みいただきありがとうございました。


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