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6:今後の方針

「任務完了なのです」


 可愛い仕草で報告するリーゼに。


「お疲れ様です」

「皆、ありがとう」


 ルーナとノアがそれぞれ返答する。


 ノアからの労いを受けて――

 

 リーゼ、ポティロン、オルールは素直に笑顔になったり、目をキラキラとさせながらもじもじ俯いたり、「別にたいしたことはしてないんだぜ」とそっぽを向いたりと三者三様に個性的な反応をした。


 そんな違いの中で、誰もが喜びを隠せずにいるというのが三人の紛れもない共通点となっているようである。


「じゃあ、行こうか」


 ポティロン、オルールに連れられて、ノアは襲撃者が集められた場所へと赴く。

 後ろにはノアの背中を守るルーナの他に、難しい表情で「私も行こう」と言い出したローラントがいる。


 部屋に残ったフィーネとラウラの護衛にはリーゼがついていてくれるようだ。

 指示することなく役割分担してくれることにノアは頼もしさを感じる。


「死者は?」

「無しなんだぜ」


 ノアの問いにピクリと反応したのはなぜか無言を貫いているオルールだった。

 疑問に感じつつも、


「甘い対応だったかい?」

「ううん。殺しちゃったら生かして使うっていう選択肢がなくなるからその方が助かる」


 ノアはポティロンの疑問へと素直に答えた。


「そうですね。始末はいつでもつけられます。良い判断です」

「お褒めに預かり光栄なんだぜ」


 終始いたずら小僧のようなポティロンに笑みを誘われ。


「ちょっと考えてることがあるんだよね」


 ノアは軽やかに口を開く。


「この街ってさ、辺境って言うだけあってすぐ近くに大きな森林が広がってるし、王国の支配も帝国の支配も行き届いてないでしょう」

「そうですね」

「だからさ、この街を私と召喚獣の皆が気にせず生活できる場所にできないかななんて思ったんだ」

「乗っ取るのですか?」


 ルーナはノアの考えに少し驚いているようだ。

 きっとルーナのことだ、彼女の中ではさぞ盛大な計画が立て始めてられているのだろう。


 ノアは誤解を解くように、パタパタと手を振り「ちょっと大げさかな」と苦笑いを浮かべる。


「これだけ騒いだ私達が街を去ったらさ、フィーネも、ローラントさん達も生きていけないと思うんだ」

「そうですね、ずっととは言えませんが生き残るには一緒に旅に出るしかないでしょう」

「ローラントさんは街を、一緒に街の上層部に抵抗していた人たちを見捨てられる?」

「私の命はどうなろうとかまわないさ」


 ノアの質問に答えると、ローラントは神妙な面持ちで咳払いをする。

 自分たちの家族が街の未来を大きく変える要素になるのは避けたいということだろうか?


「ただ……

「ただ、フィーネとラウラさんはって?」

「ああ」

「でも、ローラントさん、ラウラさんが私も残るって言うのを説得できないでしょう?」


 ラウラさんは野盗に襲われていた時にフィーネを逃すために自らを囮にする人だ、きっと説得は難航する。

 そしてそれを一番知っているのがローラントさんだろう。


 ノアが冷やかすように聞き返すと――


「うっ」


 ローラントが眉根を寄せ言葉を詰まらせる。

 うん、うん、予想通り、ローラントさんには困難な未来が描かれているみたいだね。

 ノアはそう考え、さらに自分の構想を説明する。


「ローラントさんにはトルニ人外魔境計画にお付き合いいただきたいわけ」


 どうせこの街は今後も、誰かの、もしくは一部の権力者の思うがままに統治されていくだろう。

 今のところは裏ギルドの台頭による犯罪はびこる無法の街が有力だろうか?

 それなら。

 非常におこがましいことなんだけど。


 ノアの理想の街の方が普通の住人にとっては幾分ましな生活となるはずだ。


 利害は一致してるって思っていいよね?


「何をさせる気なんだ?」


 覚悟を決めたローラントにノアは「まだ何も決まってないんだ、でも」とにっこりと笑い答えた後、ルーナとポティロン、オルールに「ねえ」と呼びかけ口を開く。


 自分の描く未来。

 召喚獣のみんなはどう思うだろうか?


「竜が空を飛んで、魔獣たちが野を駆ける。そして森の中にはドライアドの秘密の花園に人魚の歌声響く湖あるなんてワクワクしない?」


「マスター、お手伝いさせていただきます」


 いの一番にルーナが賛意を示すと――


「ワクワクします。賛成なのです~」


 風に乗って、歌うように軽やかなリーゼの声が辺りに響いた。


「それならご主人。ジャック・オー・ランタンが夜な夜な浮遊する墓地も欲しいんだぜ」

「あっ、ずるい。ノア様、墓地は私にください」


 ポティロンとオルールも乗り気みたいだね。


「ハハッ、気が早いな~。でも、貴族に領地を下賜する王様になった気分だよ」


 予想を通り越した内容だったのかな?

 ノアと召喚獣たちの話しに絶句しているローラントに


「わざわざついてきたのは、バリーさんだったっけ? 頭目さんのことで頼みたいことがあるんでしょう? だからこれは取引条件の提示だよ」


 ノアは駄目押しを加える。


「お見通しという訳か」


 ローラントは諦めたよう呟くと、神妙な表情で「手伝おう」と宣言した。

 野盗の頭目がどんな人物か。

 街の為に命を捨てたり上がるローラントが庇うのだ、極悪人という訳ではないだろう。

 偶々通りがかりで捕らえただけでノアに因縁がある訳ではない。

 ノアはこの街に何の柵はないのだ。


 それなら私の役に立ってもらうとしようかな。


「さて、ご対面だね」


 キシキシと音を響かせて、木製の階段を下りきる。

 商店の店舗兼自宅となっているローラント家の正面玄関は、商品が陳列されている場所だけあり、広い造りとなっている。


 そこにはリーゼたちが捉えた男たちが積み重ねられていた。


「ご主人、これが様式美だってアイリスから聞いたんだぜ」


 うん、ドライアドのアイリスに捕まえた野盗を馬車の荷台に積み重ねるように頼んだのは私だったね。

 ノアは事の元凶に思い当たり、軽い気持ちでやった行動を少しだけほんの少しだけ反省した。



「目、覚めた?」

「あ、ああ」


 ノアの指示で、ローラントが気を失っている野盗達から頭目のバリーだけを起こすと。

 胡坐をかいた状態で座らされたバリーは、後ろ手に縛られている自身の状態を確認するように僅かに肩をゆすった。

 だが、既にバリーの瞳に力はなく、ノアには彼が逃げ出すため、抵抗するためにと言うよりも、普段の癖で自身の状態を確認したそんな動作に見えた。


「殺さねえのか?」


 バリーはふらふらと視線を泳がせながら、一瞬だけ部下の積み重なった地点に目を止め、ぽつりと呟いた。


「頭目さんの答え次第かな。質問があるんだけど」

「何が聞きたい?」

「裏ギルドの手先になってなにをしたか、かな」

「ああ、そんな事か」


 淡々としたやり取りが続く中――


「バリー、お前さん、部下の命はと言わんのか?」


 バリーの様子に堪えきれなくなったローラントが感情を溢れさせる。


「ローラント……」


 バリーはローラントに虚ろな表情を幾ばくか向けた後。


「あんたに覚悟を決めろと言ったのは俺だ、その台詞は俺が言っていい言葉じゃねえよ」


 そっとため息をついた。

 その様子から察するに彼なりに覚悟を決めて盗賊ギルドの傘下入ったのだろう。


 どうしたものか? 


 道を決めた者を無理に従わせることに悩みを抱いたノアと、バリーの選択を納得していないローラント。


「裏ギルドの奴らが何を言ったか知らないが、ギルド同士の盟約ならともかく、あいつらが俺たちとの約束なんて守る訳ないだろう」

「んなことはわかってんだよ!」

「お前の嫁さんも、部下たちの家族も娼館に落とされるぞ」

「わかってるって言ってんだろうが!!」


 いつしか議論の主役は移り変わっていた。


「だったら……

「だったら? ……だったらよ、どうしたらいいってんだよ?」


 そしてバリーから吐き捨てられた懇願に。


「ノアに。嬢ちゃんにかけてみないか?」


 ローラントがあっさりと答えを出す。


「…………」

「譲ちゃんならお前の部下も家族も、そして部下の家族だって助け出してくれるさ」


 議論の末、ローラントとバリーの視線がノアに集中する。

 ノアとしては当然ヒートアップした展開に置いてきぼりにされているのだが、一派を率いる親分となるなら、ここは何かを言わないといけない場面なのだと流石にわかった。


「別にいいけど、暗殺までは防げるって約束はできないよ」


 ポリポリ頬をかき、そんなことは大したことではないと示すかのような態度。

 実際は返答に困って誤魔化しただけなのだが……

 バリーにはノアが盗賊ギルド、いや裏ギルド全体を敵に回すことに何も気負いがないと見えたのだろう。


「本当か? 本当に助けてくれるのか?」


 バリーは驚愕と恐怖を綯い交ぜにした複雑な表情を浮かべた。


「だから、捕まってる人質を解放するくらいなら構わないけど、報復までは防げるかわからないよ」


 ノアがちらりとルーナを一瞥する。

 彼女はこの街に歯牙に書けるほどの敵はいないとしっかりとノアへと頷き返した。

 問題はないようだね。ノアはそう判断し、話を進める。


「頭目さんはローラントさんと一緒に仕入れをやって欲しいんだ」

「新しい商業ルートか!?」

「ああ、そこから物が入れば、街の連中も頭を下げてやりたくもない汚れ仕事をやる必要がなくなる」

「家族が飢える心配がなけりゃあ、ギルドから、領主から離れる奴が出てくるってわけだな」

「あっという間に新勢力が誕生するって訳だ」


 バリーが興奮した様子で付け加えた。


「物資は俺とお前さん達で運べばいい。街に嬢ちゃんがいてそこで家族を守ってもらえるんだ、それ以上になにがいる?」

「はっ、いらねえな」

「小競り合いなんてよくあることだ、その被害に女々しいこともいわねえだろう?」

「ああ、魔術師の嬢ちゃんが自分の勢力を守る覚悟あるなら、一人も犠牲を出すななんて無茶はいわねえさ」

「決まりだな」

「ああ、それで次は何が聞きたいんだ、嬢ちゃ、いや、姐さん」


「あ、姐さん!?」


 あまりの呼び名にノアが素っ頓狂な声をあげると――


「マスターに失礼ですよ」

「ぐえっ」


 ルーナの拳がバリーのお腹へと深々とめり込み、バリーがつぶれたカエルのような声を上げた。


 ……


 うん、これはもう一回起こさないとだね。

 ノアはこっそりと召喚術でバリーを治療する。


「し、失礼しやした、えっと――」


 ルーナの厳しい視線にさらされて、


「ノアでいいよ」

「ノ、ノア様」


 今度はガマガエルのようにバリーは脂汗をダラダラと垂らしている。

 ケガは完治しているから痛みではない、恐怖によるものだろうね。

 ノアはそっとバリーから距離を取り、「で、さっきの質問の答えは」と問い詰める。


「裏ギルドでやった仕事ですか……これまで人を殺したことがねえとは口が裂けても言えねえですが、裏ギルドの下について卑劣な仕事をしたのは今回が初めてです」

「なるほどね。うん、とりあえず、第一関門はOKかな」


 ノアが「ルーナはどう思う?」と言うとルーナは「私も問題ないと思います」と淡々と答えた。


「えっと、次は」


 ノアがバリーへ次の質問しようとしていると――


「王国の内乱で物資が厳しくなって誰もが選択を迫られている。バリーがだけ特別って訳じゃない、裏ギルドの手先には誰がなったっておかしくない状況だ」


 厳しい顔つきでローラントがバリーを庇う様に言葉を付け足す。

 自己弁護をしないバリーを見かねたのだろう。

 あの山道で決裂するまで二人には確かな繋がりがあっただと察せられるそんな雰囲気だ。


「ローラントさん、街の状況はこの際どうでも良くて、次に重要なのは頭目さんって信用できるの?ってことかな。私達に鞍替えしたとして、次はって、また裏切らない?」

「バリーの家族を守る。その言葉に偽りがなければこいつは裏切らんさ」

「う~ん………

「もし!!」


 ノアが考え込む仕草をしたことで、ローラントがまた声を張り上げる。


「こいつが裏切るなら俺が責任を取る。だから、一度だけチャンスをやってくれ」

「ローラント……」

「バリーは傭兵団の長だ、部下の家族が人質に取られればそれを守る義務があるってのはわかるさ。納得はしてないがな」

「なるほどね。まあ、ローラントさんが責任取るって言うのなら、一度だけ信じて見ることにするよ」


 一連のやり取りでローラントはノアの協力者もしくはトルニ人外魔境計画の共犯と言う意識が強いことがわかる。

 まあ、ノア自身も部下になれと言ったわけではないので構わないのだが……

 取引内容の事とはいえローラントは明らかに自身の感情のまま、バリーに傾いて動いている。


「すまない。ありがとう」

「良いって。言ったからには責任取ってもらうだけだし」


 いずれ面倒ごとになるかもしれない。ノアがそっとため息をつくと――


「ええ。責任はきちんととっていただきます」


 ルーナには心情が伝わってしまったのだろう。

 ノアだけにはわかる凍てつく感情が込められた瞳をローラントへと向けた。

 当然、ポティロン、オルールも面白い顔はしていない。


 はぁ、やっちゃったかな?


「じゃあ、取りあえず私からは」


 ノアはコホンと咳払いをして空気を改めると


「フィーネのこと好きにして良いって言った責任として、盗賊団の皆はローラントさんに一発ぶん殴られればいいと思うよ」


 とバリーを指さし宣言する。

 バリーはその言葉を納得したように噛み締めた。

 その様子を見てノアがローラントに目線で合図をすると、ローラントは深く頷き、拳を大きく振りかぶる。

 

 その表情は鬼気迫るというか、本当に鬼の様で。


 うん、可愛い娘にあんなことを言われたら、容赦はしないよね。

 頭目さんは目を硬く瞑って衝撃に備える姿勢だったんだけど――


「ぐあっ」


 どうやら父親の愛と怒りの前には百戦錬磨の傭兵も形無しのようだ。

 バリーはローラントの重い一撃を受け、後ろにごろんと倒れ込み天を仰いだ。


「うん、これでとりあえず一味に加えてあげるね。残りは働きで信頼を積み重ねることだね」

「わ、わかりやした」


 バリーはローラントに殴られた左頬を抑えながら起き上がる。


「あっ、そうそう。事が終わったらラウラさんとフィーネからもお仕置きを貰うんだから、殴りやすい面構えのままでいてね」

「ラッ、ラウラにもですかい!?」


 ノアの発言でバリーが青い顔をした。


 もしかすると、ラウラさんは武闘派なんだろうか?

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