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2:道中

「トルニ?」


 問いかけてきたのは先ほどフィーネを助けてくれた少女だ。


「そう、王国と帝国の間にある街」

「そうなんだ。トルニは王国領なの? それとも帝国領?」

「王国領だよ」


 ノアと名乗った少女は不思議な存在だった。

 旅をしているというのに近くの街はおろかこの国の名前すら知らないと言う。

 彼女をマスターと呼ぶ従者がいるのだから、きっと、どこかの良家の娘のはずなのに……

家名などないただのノアだと名乗る。

 従者にしてもそう。

 美しいと言われる街の貴族と比べても並外れて整った顔立ちをしている。

 もしかすると王国の内戦の影響で辺境を逃れてきた高位貴族で、素性を明かせないのかもしれない。


「どうかした?」


 フィーネの視線を受けてノアが首をかしげた。


「なんでもない。他に聞きたいことはある?」

「フィーネが人さらいに狙われたのはさっき言ってた戦争のせいなの?」

「間接的にはね。内戦で街おかしくなっちゃったから、それをなんとかしようって行商に出たんだけど、それが気に食わない人たちがいてって感じかな」

「なるほどね」


 ノアがぽつりと「戦争に権力争いかぁ。それには関わりたくないな」と呟いた。


「巻き込んでごめんね」

「気にしないでよ。事情を知ってても同じ行動したと思うから。それよりほら、集中、集中」

「うん」


 フィーネは(くつわ)を操り、馬に指示を出す。


 逃げる足となる馬を潰さなかったところを見ると、野盗たちはフィーネ達家族を逃がすことなく、馬車ごと奪う自信があったのだろう。


 そしてそんな野盗達からフィーネ達を助けてくれた召喚士と名乗った少女。

 武装集団を易々と無力化する魔術の使い手にして美しい従者の主人。

 フィーネは確認するように荷台でぐるぐる巻きにされ積み重ねられた男たちに目を向ける。


 途中でノアの従者―ルーナ―と目が合った。


 その瞳を見て。

 彼女の監視の対象は野盗だけではなく、父と母、そしてフィーネもなのだと理解した。


 フィーネはまたノアの素性に考えを巡らせ、浮かんだ想像を打ち消すように頭を振った。

 ノアは自分の恩人だという事実のほうが大事なことだと思ったのだ。


「それで、ノアは元々どこを目指していたの?」

「どこ?」

「そう。迷ったとはいっても旅をしていたんでしょう?」

「う~ん。特に行先は決めてないんだよね」


 周辺地理はおろか国すらも知らないのに森に入って迷子となる。

 それだけでも旅人としては失格なのに、直近の行先すらも決めていないなんて。

 ノアの言葉にフィーネは流石に呆れてしまった。


「良く生きてこれたね」


 素直な感想がこぼれた。

 そして、同時にそんな生き方のできるノアが羨ましく思う。


「あ、私をアホの子だと思ってるな? たぶん魔法の影響かな? 気が付いたら森に居たんだよ」

「魔法で森に?」

「たぶんだけどね」


 ノアの表情は真剣でも、話す内容はおとぎ話でしか聞いたことない。

 普段のフィーネなら信じはしなかったろう。

 だがこれまで見た彼女の不思議な力が、フィーネにこの話が真実なのだと思わせる。


「誰かに呼ばれたのかな? 私自身が魔法を使ったっていうのはありえないし。でも、気が付いた場所にはルーナだけで、こんな事態を引き起こした心当たりは誰もいないんだから。もう、何が起きたのかさっぱりだよね」

「それじゃあ、ノアは元々どこから来たの?」

「ここからだと、たぶん、ずっと遠い場所かな。ハハッ、たぶん、同じ魔法でもないと帰れないんだろうなぁ」


 フィーネの問いに答えた自嘲する台詞と寂しさと諦観を含んだ瞳。

 その対照的な在り方が今の彼女のちぐはぐな気持ちを表しているようだった。


「気が付いたら知らない森の中なんて、そんな状況で私を助けてくれたの?」


 だから、フィーネは、故郷の話を誤魔化したノアに気が付かないふりをした。


「言ったでしょう。私の国の常識だと武器を持ってか弱い女の子を追いかける集団は悪党だって」


 どこか得意げな様子で語り掛けてきたノアを見て、フィーネはもう一度礼を告げる。


「もういいよぉ。だから、これでお礼は本当に最後だからね」


 よかった。最初に出会った時のノアだ。

 フィーネは照れている彼女の姿に何故か安堵を覚えた。

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