夜明け
少し長めです。
東日本大会は、F県で行われた。
儀王扉の在籍する、A県立萩玉高等学校は、代々儀王家が在籍する影響もあって名門校並びに全日本大会常連高である。
そして今年は当人、儀王扉がいるわけだ。
その影響もあってか、今年の剣道部は精鋭が全国から集まっている。
これは例年、「萩玉儀王現象」と呼ばれるほどに、有名な現象である。
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F県に到着した萩玉一行。
「扉くん、調子どう?」
彼は中学時代、最年少全国制覇で話題になった。
名を三瀬嶋ユウ。
「まあ僕は基本的に、調子は一定なので。心配には及びませんよ。」
「そりゃそっか。まあさ、いいじゃん?全戦ストレートかましてやったんだし。」
「油断はいけませんよ。…しかし、」
珍しく、自信満々に。それでいて、少し戯けたように呟く。
「負ける気がしないのも、また事実です。」
⬜︎
東日本大会、予選。
萩玉高校からは5人中3人が、突破。
東日本大会、準々決勝。
萩玉高校は、1人敗退。
東日本大会、準決勝。
赤 儀王扉 対 白 三瀬嶋ユウ
萩玉 対 萩玉。
⬜︎
(こんなことになろうとは。)
扉は内心、驚いていた。そして、迷っていた。
(三瀬嶋先輩は確かに強い。しかしながら正直、負ける気がしない。勝っていいのだろうか。だが、負けたら負けたで儀王家への面目が立たない。何が正解だ?)
「儀王くん。考えてることが筒抜けだよ。フフッ、俺も舐められたものだね。でもね、本気で向かってきてくれないと、俺も嬉しくない。さあ、遠慮なく。」
「分かりました。全力で行かせてもらいます。」
道場の中央に並び立ち、本部に礼。そのまま竹刀を中段に構えて蹲踞。
「…初めッ!」
互いにまず、牽制から始める。
「さあ…遠慮なく!」
「…いいん、ですね。」
ドッ!
「メエエエン!」
カシャアン
「扉ッ!そんなものか!」
鍔迫り合いから直る。
動き出したのは、ユウ。
「メエエエエエン!」
躱す。そして扉が仕掛ける。
普通、面を狙う時は相手に向かって正面を叩くように竹刀を振る。
しかし、扉は相手に向かって、弧を描くような軌道で、振り出す。
「メェン!」
面と竹刀が触れた瞬間、そのまま横に振り抜く。
さながら、首を刎ねるかのように。
バッ
一本。
⬜︎
実況者席にて。
「あの一本、面の取り方はなんでしょう。解説の大原さん。」
大原貴彦。全日本剣道選手権2度の優勝を誇るベテラン。
「出ましたね、"儀王閃"。僕も現役時代、現当主儀王成仁にやられましたが」
大原は諦めたように言う。
「アレは、見えない。」
⬜︎
「なんだ?アレは。」
呆けて、ユウは言った。
「儀王閃、と呼ばれています。剣筋が見えない、儀王家伝統の技術です。」
「そうか。お前の本気、受け取ったぞ。」
嬉しそうに言う一方で、扉は真顔で言い放つ。
「残念ながら、今本気を出そうと思ってます。」
「?マジか。では、受け取ろう。そう簡単に俺からもう一本取れると思うな?」
この時ユウは、同じ手で来ると予想していた。名を馳せた当時、「分析魔」と呼ばれ、一本取られた後徹底分析し、弱点をついてそのまま二本取ってしまうと言うものだった。
「決めます。」
ドシュッ!
「メ"エエン!」
バガァッ!!
…
バッ
四方で赤旗が上がる。
ユウの背後で、扉は竹刀を振り抜いた状態から向き直り、残心を取る。
「これが、僕の本気です。」
ピシィッ
「参っ、た。ハハッ」
まさか、正面からの速さと力の暴力が襲うとは思っていなかったのだろう。
面にヒビが入り、降参した後、仰向けに倒れた。
「儀王扉、一本。」
審判から一声入る。
蹲踞して納刀。立ち上がり、礼。
「先輩、ありがとうございました。」
儀王扉、決勝戦進出決定。