「王」の血筋
超短編、完結までお楽しみいただけます。
時は現代。
鎌倉時代より名を馳せた剣道の名門「儀王家」の話。
現当主「儀王成仁」には儀王家発足以来最強と呼ばれる息子「儀王扉」がいる。彼は高校二年。勿論剣道部、二年生にして主将を任されている。
各県の強豪校では共同で、「打倒儀王」を掲げている。
現代、剣道がスポーツ、部活として広まってからというもの、一度もこの目標は達成されていない。
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A県、県大会決勝。
赤・儀王扉(高二) 対 白・条知岳(高三)
儀王扉は決勝に至るまでの全試合、二本ストレートで勝ち上がってきた。試合時間は平均で一分。
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条知岳は、焦っていた。
(やばいやばいやばいやばい、相手あの「儀王」じゃん。勝ち目あんのこれ。まてまて、全試合見てきたけど、何あれ、早すぎでしょ速すぎでしょ。やばー、どうしよ。いやあ、ね。市大会は一位だったよ?県もね、そこそこいければいいかなーなんて思ってたらさ、決勝来たじゃん。扉くんいるじゃん。どうすんのこれ。)
「あのー、始めても?」
「ひえっ!あ、あ、…はい。すみませんでした。」
渋々、本部に礼、そして竹刀を中断に構えて蹲踞。
(顔に出てたかなあ、)
「…では、ーーー始めエッ!」
(ふー。最善を尽くして最善を…)
「メエエエエエエエン!」
カチャッ!
鍔迫り合いになる。
直る。
(睨み合って、落ち着いてーー)
ドッ!
動き出したのは、儀王扉。
「メェン!!」
パン!
(え?一本取られた、の?睨み合ってなかったっけ。)
バッ
四方で赤旗が上がった。
(これ、やばいな。)
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一方で、儀王扉。
(決勝は手練が来るところじゃないのか?例年通り全然そんなことはないな。)
そして、先程の一本。
(純粋に、正面から面を打っても反応する様子がないな。じゃあ、もう一回仕掛けるか。)
ダッ
「ーーメェン!」
パシャアン!
「…あれ。」
ーー試合時間、43秒。
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試合直後、条知岳。
「え…」
(もう、終わったのか…?)
条知岳は、そのままの構えのまま、硬直していた。
(みえな、かった。アレは、本当の異次元だ。僕がたどり着ける所にいない。)
「蹲踞、してください?」
「あ、す、すみません。」
納刀して、立つ。
礼。
(引越しするかあ。大学入っても扉くんまだつづけるだろうしなあ。)
肩を落として退場する。
「待って、ください。」
透き通った声だった。
「ッ!?は、はい…」
「また、一緒に戦いましょう。せっかく同じA県民なんですから。」
面を脱いだ彼の顔は、目を疑うほどの美青年だった。
「あ、はい。」
(はいって言っちゃった。)
儀王扉、東日本大会出場決定。
また、条知岳は、後の範士である。