通りすがりの非存在
白い脚がにゅっと突き出ている。
凌子は臆病だから、目を瞑った。それなのに、白い脚が揺れているのが見える。
帰るときに、凌子は少女を見かけた。
チェックのスカートをはいた女子高生が、街灯の下で楽しそうに誰かを待っていた。
ある日、少女が少年の自転車に乗るのを見た。二人は恋人同士なのだろう。
少女は、はにかんだ笑みを浮かべている。
凌子は二人に会うと、幸せな気分になる。
帰宅時間が正確な凌子は、待ち合わせをしているのであろう高校生カップルに出くわす回数が増えていた。
少女が待ち、少年は自転車でお迎えに来る。なんて素敵な青春の構図!
その日の凌子は疲れていた。顔をあげて歩くのも億劫だった。
それでも、人とぶつかりたくないから、仕方なく前を見た。
白い脚がにゅっと突き出ていた。
二人乗りの自転車に横座りしている少女の脚だ。
前から見ると少年の死角になって、少女の姿は見えないんだ、と凌子は初めて知った。
二人は言い争いをしていた。を通り過ぎるときに、少女の泣き声が聞こえた。
二人の姿があっという間に遠ざかる。
でも、大丈夫だろう、と凌子は勝手に思った。
だって、二人乗りしているくらいだから。
その日から、少女は一人で街灯の下にいた。冬になっても一人ぼっちだった。
季節がうつろって、夏になった。
街灯の下で、久しぶりにあの自転車を見た。
誰かの脚が突き出ている。
白い脚がゆらり、ゆらりと揺れている。
誰も乗っていなのに、揺れている。