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魔王クリエイター  作者: 百合姫
V章 侵掠
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それからも2人の快進撃は続いた。

今日の宿代を稼ぐどころか、ちょっとした小金持ちくらいになれるくらいの成果をあげ、少しだけ同業者に注目されながらも、着々とダンジョン内を探索し続けていく。

これだけ聞くと、不思議な迷宮の探索は簡単に思えるようだが、そんなことはない。

むしろ、死傷率は高い。

特に色々な意味で経験の少ない20歳未満の1か月以内における死傷率に至ってはほぼ100%近かった。

しかし、2人は一月どころか半年もの間、危なげなく迷宮の探索をしていく。


2人には才能があった。


荒事に対する才能が。


いや、才能だけではない。


貧乏な家から出て一旗上げようとした彼らは、迷宮が出現しなければ盗賊狩りを生業にしようとしていたのもあって、すでに歳に合わぬ戦闘力を持っていた。


貧乏よりの生活ではあったが、食うに困ることはなく、子供の頃からちまちま貯めたお小遣い全てを使って並みよりも良質な魔科学武器を手に入れる周到さ、貪欲さ。


魔科学武器を十全以上に振るえるようにひたすらに自らを鍛える根性と冷めぬ情熱。


たまたま近所に畑を荒らす盗賊を狩っていた経験を持つ人間がいて、その人に師事できたという恵まれた環境。


それらが相まって、なるほど彼らは歳のわりには非常に高い水準の戦闘力を得るに至ったのである。


本来ならば不思議な迷宮の入り口付近に出没するゴブリンでさえ、そう簡単に倒せる相手ではないのだ。

猿の一種とだけ聞くと、猿を始めとした小動物をダシに芸能人があれこれ騒ぐ系の番組などから賢くも可愛らしく、温厚な生き物であると言うイメージを持っているかもしれないが、実のところ猿の仲間は猛獣に近い性質を持つ個体や種類が多い。

どちらかと言えば気性が荒い生き物なのである。

実際、チンパンジーを始めとした人よりも何回りも小さいながらも、猿に襲われて大怪我を負ったなんて話は多々あり、場合によっては猿に人が殺されたなんて話もある。

メスや餌をめぐっての争いで群れの仲間同士での殺し合いや共食いだってする、非常に獰猛な生き物なのである。

類人猿ゆえに、闘争を繰り返し、同胞を殺してきた歴史を持つ人間に近しいところがあるのかもしれない。

社会的でありながら、高い攻撃性を顕すこともある動物なのだ。


そしてこの世界のゴブリンもまた同じだ。

いや、むしろ魔力というエネルギーによっても体を動かせるので、食べ物から得られるエネルギーを体の成長や脳の発達に回しやすい分、この世界の生き物は猿に限らず、地球産の生き物よりもさらに賢く、繁殖しやすく、巨大化しやすい傾向にある。

ゴブリンの場合、人間と同じように「言葉」という文化を発明、常用する種類も過去には存在していたほどに賢い上、人間とは比べ物にならない筋力を誇るゴリラ以上の身体能力を持つ巨躯と知能を誇るヘラクレスゴブリンという種がいたりとたかだか猿の一種とバカにはできない。

むしろ単純な身体能力という点では人間よりも高い。

ゆえに。

軽い気持ちで一攫千金を夢見て、迷宮にやってきた準備不足な人間達はゴブリンにあっさり殺されて食べられるのがオチである。


フォルフォー少年とルービィ少年がゴブリンを苦もなく殺したのがどれだけ凄いことかお分かりいただけただろうか?

それどころか半年以上もの間、足踏みせずに探索し続ける彼らの才気たるや、常人のソレではない。


そして。


そんな2人には当然、さまざまな目が向く。


自分達の仲間に引き入れたい者。

逆に彼らの仲間になりたい者。

その将来性に期待して媚を売る者。

若き才能に嫉妬する者。

憧れる者。


良くも悪くも彼らは有名になり、そして注目するのは()()()()()()()

さまざまな視線を向けられている2人の少年は今日も十分以上の釣果を携えて、迷宮から出てきた。


「今日はログマントマンドラゴラが大量だったなぁっ、これだけあればニフィちゃんに宝石を買ってあげられそうだ!」

「…はいはい、ご機嫌なのは分かったからとっとと帰ろうよ。こっちは荷物が重い上に泥まみれで疲れたんだ。早く帰って寝たい」


先頭を歩く赤髪のフォルフォー少年は迷宮から出ると同時に構えていた剣と盾をしまう。

ゴブリンの毛皮で作られた丈夫な背負い袋と一緒に泥まみれのルービィ少年は早く帰って寝たいらしい。

ちなみに、ニフィとはフォルフォー少年が天使だ女神だと騒いだ受付嬢の名前であり、ルービィ少年も驚くことに、とんとん拍子に関係を深めているようである。

少なくとも高価な贈り物をしても、引かれないくらいには仲良くなっていた。


「ていうか、迷宮から出たのなら警戒もいらないだろう?フォルフォーも荷物を持てよ。フォルフォーの方が力持ちだろ?」

「分かってるって。それにしても、後衛で動き回らないからってルービィに持たせるにしても、持ち帰れる量が少なくて困るなぁ。そろそろ荷物持ち役を雇うか?」

「そう言って、前回雇った奴は迷宮内で手に入れたアイテムを全部、掻っ攫って行方不明になったじゃないか」


ゲームなどでは敵を倒したりして手に入るお宝などは、普通に持ち帰れるようになっているが、現実においては手に入るアイテム全てを持ち運びできるわけもなく、彼らに限らず、迷宮を探索する人たちは基本的に大きな袋を持ち込み、それに手に入ったアイテムを入れて帰ってくると良う手法を取っていた。

ゆえに一度の探索で手に入るアイテム量はある程度限界がある。

行きだけではなく、帰りにもゴブリンを始めとする敵性生物を倒すことを考えればなおのこと。

持ち運べる量は自身の動きが鈍らない程度となれば、かなり少ない。

20歳未満の若い人間達の死傷率が高いのはそうした事情を鑑みずに、大量の戦利品を持ち帰ろうとして鈍くなったところを倒される場合も多々あった。


そして、その限界を越えるために探索者達が考えたのが荷物持ち専用の人員を用意することである。


しかしながら不思議な迷宮が誕生してから未だ2年も経っていない今、そうしたやり方は未だ定着しておらず、迷宮ギルドではサポートが無かった。

ゆえに個人個人でそれらしき人を探して、連れて行くという形になっており、様々なトラブルが発生していた。

特に多いのが、持たせた戦利品を抱えていつの間にか消えているという、盗難トラブルである。


2人の少年も初めに声をかけた人に騙されてからは、しばらく荷物持ちを無しでやってきたが、やはり荷物持ちがいないとかなり効率が悪かったのだ。




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