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魔王クリエイター  作者: 百合姫
一章 兆し
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6

玄関で待ちぼうけていたのは、辺境で娯楽がなく、友達のいない彼女が暇だったからとして、あまり良く考えないことにしよう。

それよりも相も変わらずの無表情が問題だ。

良くなるかは分からねど、何もしなければ良くならないことは分かる。

いや、放っておけば時間経過で勝手に治る可能性も…無表情の治し方なんざまったくもって見当もつかない。

いっそのこと魔王クリエイターでと思うものの、精神面を弄ればそれすなわち洗脳のようなもので、何もしていない子供にするには気が引ける。

なんとも悩ましいところだ。


なんでこんなに無表情を治したがるかと言うと可愛くあっても意外と無表情というのは怖い。

ぶっちゃけて言うならば無表情な女の子とは嫌いじゃなかった。

アニメとかで一番に好きになるヒロインはいつも無表情で無口ないわゆるクーデレ系と呼ばれるキャラクター達だったから。

彼女には悪いとは思うし不謹慎には感じるが、初めて彼女と顔を合わせた時、めちゃめちゃ喜んだともさ。

しかし、現実は無情である。

リアルでは無表情だと何を考えているか分からないという恐怖心が勝る。

実際に接して分かるこの違和感。不快感。

現実ではコミュ障どころではないとっつきにくさに早変わりだ。

治るよりも僕が慣れるのが先やもしれないが、彼女のこれからのためにも出来ることなら治してやりたい。

まあ、まだ7歳。成長とともにそれなりに解消されるだろうと気楽に考えている。



「これ、うちで取れたお野菜。今日もとっても美味いよ。好き嫌いせず沢山食べてね」

「ありがとう」


うちで取れた野菜は全て僕の魔王クリエイターの力で改造してある。

非常に食味が良く、日持ちし、大きく育ち見た目が良いとのことで、うちのお野菜はいつも即日完売、大繁盛である。

なんなら貴族の間で噂になっているくらいだと言う。

育成面においては病害虫にも比較的強い、成長速度が早く、実付きも良く、水切れ、ないしは水分過多による根のトラブルにも強く、肥料が少なくても育ちが悪くならないように貧栄養に耐性を持たせている。その分太陽光が必要になるが、プラベリアは農業国家と言われるだけあって年中過ごしやすい温暖な気候かつ適度な雨量に恵まれていて様々な野菜が通年育ち放題という立地だ。

太陽光の心配はいらない。


「…これ、お返し」

「あみ籠?凄い良い出来じゃないか。おばさんが作った…わけないよね。リアちゃんが作ったの?」

「うん、いろいろお世話になってるから」


彼女からお返しにと貰ったのは木の枝を使った立派なあみ籠。

使われている枝はこの付近にあるとうのようだ。

籐は地球では家具の材料として有名で、それ専門の職人だっている。

しかし、通常、籐家具を作成するには…特にあみ籠のように複雑に絡みあわせるのは色々な器具や、一時的に火を当て柔らかくしてから編み込む必要があると聞く。


「火を使ったの?ダメだよ危ないから」

「…なんの話…ああ、なるほど。とうを編み込むのに火を使うんだ。どおりで…硬かった…エル君は頭が良いね」


いや、頭が良いのは7歳児でありながら、言葉にしなくても僕の意図をハッキリ理解した君だ。

今日も聡明スキルさんは大活躍だぜ。


その後、彼女の家でおやつを頂きながら少し駄弁った後。


「…そろそろいつものを…」

「えーっと、うん、わかったよ」


いつもの、と彼女にせがまれ僕は彼女を抱きしめながら頭を撫で撫でする。


ああ、色々と言いたいことがあるのは分かる。

僕はフィクションにおける安易なナデポ(頭を撫でることでヒロインがポッとなる、ないしは満更ではない様子を見せること)や、安易な肉体的接触を厭うタイプの人間だ。

特に彼女がいないまま大人になったという人が転生したり転移したりして主人公になったネット小説などで、主人公がちょっと絡んだだけのほぼ初対面のヒロインに気安くナデポをする様を見ると違和感しか感じない。

そんなプレイボーイな行いを簡単にできるならすでに彼女の1人や2人はできているだろうし、そうでないなら非モテのくせにそんな行為をやらかすその精神構造にドン引きだ。

非モテな僕だったからこそわかる。もっと挙動不審であれ、あたふたしろ、異世界転生で浮かれすぎやろと。


つまり何が言いたいかと言うと女の子を抱きしめているからと、それらの浮かれポンチ主人公と一緒にしないでほしいということだ。これが年頃の女子相手ならば、気安く抱きしめてさらには頭を撫でて「すまん、嫌だったか?妹みたいだったからついやってしまった(キリッ)」なんて未だに女性と付き合ったことのない僕にはハードルが高すぎて普通、やらない、というかやりたくない行為である。なんなら実妹相手にだってやらない。というか実妹こそ1番無いくらいだ。

端的に言うと凄い恥ずかしい。

それは子供が相手でも多少感じるが、まあ、異性というよりは小さな子供という意識の方が勝る。

だって、ほら、中身大人なので。久しく子供心から離れて、どんな接し方をすれば良いのか分からないという意味で変な緊張や、構えてしまうことはあれど、子供相手だからこんなことをしているということは理解しておいて貰いたい。

もちろん、こんなことをし始めたきっかけはある。


無表情を治すにあたり、考えたのは原因らしき要因の解消である。

すなわち、虐待やら友人がいないことによる愛情やら人情、友情といった諸々の不足の解消がいいのでは?と僕は考えた。


そしてそれらの情を感じるにはやはりスキンシップが1番なのではないかと考え、子供が求めるスキンシップならばやはり抱っことかチューとか、頭を撫でるとかそんなところでは!と考え、意識的に、段階的にスキンシップを増やしていった。

抱きしめる行為に至っては街中でカップルが抱き合っていたのを見て、試してみたいと適当な理由づけをしてのこと。

そうしたら彼女はどハマりしてしまったようだ。

余程、愛情に飢えていたのだろう。

過剰なまでに僕を抱きしめ、お互いの息遣いや体温をしっかりと感じさせてくれる。

僕としても、子供にここまで好かれれば…好かれるというのとは少し違う気もするが、懐かれて悪い気はしない。


そういえば、と。

あの悪辣ババアがおらんなと、気づく。

彼女の母親であるレムザはいつも僕が来るたび、何かしらの心無い言葉を吐きかけてくる。

まあ、どこであっても嫌なやつはいるものだ。良い気分はしないものの、適当に相手していればやり過ごせるだけ楽な相手である。

わざわざ、僕が訪ねるたびに出迎えてくるその律儀さに実は良い奴なのではと思っちゃうくらいには、いつも顔を出してきたものだが、どうしたのだろうか?


「ねぇ、リアちゃん。お母さんはどうしたの?最近見ないけど、病気かい?」

「…エル君もお母さんが好きなの?」


僕の何気ない質問に《《いつも通り》》の相貌で質問仕返す彼女。

僕もという言葉にあんな性格ブスを好きな奴、居たっけ?いや、でも見てくれだけは格別だからなぁと頭の片隅で考えながら、首を横に振る。


「…えと、リアちゃんには言いにくいんだけど…好きではないかなぁ」


むしろ嫌いよりだ。

仮にも娘の前であまりハッキリとしたことは言えないが。


「そう…《《よかった》》…」

「えっと、何が?」

「ううん、なんでもない…じゃあ、私は?」

「もちろん好きだよ。じゃなきゃこんなことしないもん」

「なら、問題ないよね?」


こんなこと、とは抱きしめて撫でることだ。

好きと言うのも、もちろん子供としてだが。

彼女の好きも友愛のそれか、異性のそれだとしても娘が父親に結婚すると言うような、いずれ消えゆくような淡いものだろう。

実にほっこりする。

そして問題ないとはなんだろうか?

好きじゃないなら彼女の母親に会えなくても問題ないと言いたいのかな?

彼女の母親に会いたくて、毎日遊びに来ていたとでも思われていた?怖気の走る仮定である。


「リアちゃんの方がうんと好きだよ?大好きだと言っても過言じゃないね」


一応、念押ししておく。

それに対して彼女は怖気が走るほどの無表情で


「私も…大好きだよ」


と。

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― 新着の感想 ―
[一言] やばいよ、やばいよ。 なんと言えばいいか分からんけど、やばいよコレ。
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