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魔王クリエイター  作者: 百合姫
一章 兆し
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☆ ☆ ☆


ところ変わって。

これはある日生み出された可愛い可愛い芝犬ちゃんの物語。

彼女はペットにすることを目的としてエルルの魔王クリエイターにて生み出された芝犬。になるはずだった異形の生き物である。

子供が見ればトラウマ間違いなしのおぞましい見た目の彼女は魔王クリエイターにより野菜を原料として生み出された直後に魔王化処理、もといスキルを添加されて改造された結果、なんとか辛うじて犬に見えないこともない状態になった。

ところどころ崩れかけだった顔は、骨で出来た仮面状の外骨格によって矯正され、体もまた同じような処理によって、タコのような軟体動物を無理やり犬状の殻に押し込めたような見た目をしている。

犬状と言っても完全に犬型というわけではなく、犬の骨格に彼女の身体が肉として張り付いて、その補強がてら鎧のような骨が体の外側から犬型に整形している。

なかなかどうして無理のある手法で犬型にされているせいか、体の節々が歪で違和感がある。

顔に関しては中途半端に骨が入っているせいで、骨格スキルが彼女の頭には殆ど作用せず、外側から矯正するように狐面のような仮面状の骨が被せられている。

これは鉄針の仮面といい、仮面の裏側に生えた針を顔の一部に突き刺して崩れた肉を引き上げ固定するためだけのスキルだ。

魔王クリエイターによるスキル追加はエルルの発想と容量キャパシティが許す限り、自由自在である。

一応、それだけでは難だからと装着している間に視覚、嗅覚、聴覚を上げられる補正がついている。

頭が歪なために頭周りの感覚器官がうまく働かないと感じていた彼女にとっては非常にありがたいことだった。

そんな彼女は現在、創造主おやから与えられた命令を果たそうとしていた。


彼女への命令は魔王ヨトウガに与えられたものと変わらない。

いくつか違うのが、エルルのレベルが上がり、より多くの改造ができるようになったら芝犬とやらにすると言うことと、北上ではなく南下しろと言われたことだ。

異形とは言え、失敗したものの犬として創られようとしていた彼女にとって、命令されることは苦ではなく、むしろ命令を果たして戻った時に褒めて貰えるかも知れないと思うと、歪な形をした尻尾が千切れそうなほどに振られ、楽しみで仕方ないくらいだった。

芝犬の姿になれるかは分からねど、なれるかもしれないスキルをその身に宿して彼女は獲物を探す。


そして、産み出されたプラベリアの辺境から十数キロほど南下したところ、鉄針の仮面によって強化された嗅覚が人間の匂いを、優れた聴覚が声を、補正されたことによって数キロ先のネズミすら視認できるという猛禽類を超える視覚が大きな街を発見した。

獲物の群れが生息する巣の発見だ。

本来、犬やその原種であるオオカミというのは集団で狩をする生き物である。

そのために何らかの理由で群れからはぐれた一匹狼は長生き出来ないとされている。

彼女もまた、単体ではそこまで大層な戦闘力を持つことは《《ないはずであった》》。

しかし、彼女はなぜか初めからやたらと多い容量キャパシティを持っていた。魔王クリエイターで一から創造したせいで、魔王クリエイターとの相性が良かったのでは?とエルルは考えたが、いまだサンプルが少なくてその理由は定かではない。

まあ、そうでもなければ彼女は未だに軟体動物をしていたので、あまり深くは考えずに都合が良いとエルルは彼女の姿を改善するスキルを与えた後に、芝犬になれるようなスキルとそれの助けとなるスキルを追加した。

それらのスキルによって芝犬になるためには人間を感じ、殺し、食い続ける必要がある。

彼女は今現在、街に侵入し、次から次へと人間を食い殺して回っている。


「ん?

今、何か音がしなかったか?」

「…尾けられてないだろうな?」

「ああ、それはもちろん。細心の注意を払って来ている。…まあ、お前に聞こえなかったのなら気のせいだろう。こんな仕事をしていれば気が張りすぎて、幻聴の一つや二つ聞こえてくるさ」

「…ちっ。大丈夫なんだろうな?体調不良でヘマして捕まるなんてアホは晒すなよ?」

「心配してくれるのかい?お優しいことで」

「ばかを言うな。てめぇを心配したわけじゃねぇ。てめぇの持ってくる商品を心配したんだよ」

「冷たいねぇ、全然お優しくないじゃないか」


街の一角。

とある薄暗い路地裏にていかにもな怪しい会話をする男達がいた。

人口が多いと言うことはスネに傷持つ怪しい人間も多い。

割合自体はそんなことをしている余裕がないために地球のそれより低いが、絶対数は地球よりも格段に多かった。全体の割合が1%だとしても、100人の1%は1人だが、1000人の1%は10人になる。

分母が大きい分、そうした違法者の類は地球よりもはるかに多かったのだ。

そして、そんな輩が良くいる場所と言えば人目に付かないような場所。

今、彼らが居るような場所だ。

悪いことをする分には非常に都合が良いのだが、人口密度の高いこの世界ではこんな場所にも人が住んでいることがままあり、珍しくも実際に人目がないこの場所は悪人たちの憩いの場となっていた。


同じく。


人知れず人間を喰らうと言う悪いことをするのにもまたとても都合が良いのだ。

ゆえに。


「…ぶぎゅる」

「あん?なんか言ったか?」

「…っまじで、しっかりしろよ?お前が捕まって、そこから芋づる式に俺までなんてことになったら、ぶち殺すからな」

「いや、しかしな。これは幻聴じゃ…幻聴検定一級の俺が幻聴かどうかを間違えるはずが…」

「お前、マジで大丈夫か?幻聴検定なんざ初耳…なんだ、ありゃ?」


良からぬ物を取引しようとしていた男2人組のうち、片方がいつもと違う路地裏の様子に気づく。

最近はさらに人口が増えることで、今いるような場所がさらに減りつつある。

たまたま裏路地に迷い込んだ一般人でもやってきたのかと、薄暗い路地裏の先には何やら蠢く物体が見てとれた。

背が低いそれを見て、酔っ払いが管を巻いているのかと、懐にしまってある魔科学式ナイフを取り出す。

見られたのであれば口封じに殺さなければならない。


「殺すのは死体の処理が面倒だから嫌なんだがなぁ…まあ、迷い込んだテメェの不運ハードラックを恨むこって」


そう言って、ナイフを片手に近づく男を幻聴検定一級の男が呼び止める。


「お、おいっ、よせっ!」

「あん?いよいよマジで頭がとち狂ったか?可哀想だから見逃してやれなんて寝言は寝てから言ってくれよ?」

「ちげぇっ!そいつはっ…」

「なんだって言う…あぺっ?」


ナイフを持っていた男の身体がひしゃげて潰れた。

原型を留めているのは頭のみ。

《《彼女》》のスキルは硬い頭蓋骨を砕くには時間がかかる。

獲物を《《全て》》仕留めてから、ゆっくり処理する。

そう考えて、頭だけを残して他の部位は全てミンチにした。

スキル、ミキサー。

アニメや漫画によく登場する《《魔眼》》と呼ばれる能力として芝犬もどきの彼女に与えられたスキル。

視認した相手に対して、不可視の回転する刃を射出するスキルであり、なぜこんなグロいスキルを与えたかと言うと彼女の頭の形状に理由がある。

ご存知の通り、彼女は失敗作として生まれ、身体の成形がうまくいかなかった。それは顎周りにも言える。

もとい、矯正してある程度見られる形になった今でも食べ物を噛み砕けるほどの顎の骨は備えられなかった。

ゆえにエルルは獲物をミンチ状にすることが出来れば、強引に保っているだけの貧弱な顎周りや歯でも物を食べることができるかなと考え、ミンチに出来るような力を与えた。

それがミキサーのスキル。

正直、グロ過ぎるし、超常の存在から依頼された間引き行為と言えど、もう少しやり方を…と躊躇したものの、見た目が酷いだけで実際は即死するから変に苦しまないはずとミキサーのスキルはそのままとなった。

それが今、人目につかない路地裏で猛威を振るった。


「…幻覚、じゃねぇな。幻覚一級の資格までは流石の俺も持ってねぇ。

いつの間にこんな生き物が街に入り込んでやがった?

魔獣ってやつか?だいぶ昔に絶滅させたって学び舎では教えてもらったはずなんだがな…ただで死んでたまるかよぉっ!!」


幻聴一級の男が懐にしまってあった魔科学によって作り出された爆弾を取り出す。

それが何なのかを知らなかった彼女は構わずにミキサーを使用、刃を射出する。


その日、アルマ共和国の最北端に位置する大都市ランブルの一角で大爆発が起こり、周辺の民家のいくつかが全壊。

死傷者怪我人含めて数百の犠牲者が出た。


これに対し、大都市ランブルは調査隊を組織した。

そして大都市ランブルは決定する。

英雄アストルフに今回の魔獣の討滅をしてもらうことを。





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