卒社員たち
「ただいまより入社式ならびに卒社式を執り行います。全員起立。」
人事部長の号令とともに、社員たちが一斉に起立する。
社長および役員たちが登壇した。
「全員礼。着席ください。」
ホールの右半分側にはいかにも大学を卒業したばかりという社員たちが並び、機敏な動作で座った。
そして左半分には白髪や坊主頭の社員が緩慢な動作で座った。
若いとは言えないがまだ中年の域には入らない屈強な青年たちが十数名、ホールのドア付近に立っている。
そのなかの2人が、声をひそめて話をしていた。
「ナカタさん。今年は採用者が多いですね。」
ナカタと呼ばれた背の高い社員も声を潜めて返答する。
「卒社員のレベルが低かったみたいでな。そういえばサトウは営業部から人事部に来たんだったな。」
「はい。去年まで営業部だったので、制度があることはきいてたんですが。」
「そうか、じゃあ、よくみておけよ。」
式は整然と進行していく。
最初に新入社員代表の挨拶がはじまった。
「私たちは、今この場にいることを感謝し、会社のために全力で頑張ることを誓います。」
次に卒業社員代表が登壇する。
ナカタが言った。
「そろそろ動けるように準備しておけ。」
「え?なんのことですか。」
「すぐにわかる。」
「ええ・・・、私たちは本日を持って・・・・この会社を去るわけですが・・・、お世話になった・・・。」
消え入るような声になり、肩が震え出す。
それを見ていた卒社員たちからも嗚咽が漏れ始めた。
「おい、いくぞ。」
「え?な、なんなんですか??」
ナカタはダッシュし、サトウは首をかしげながらも後を追う。
突然、壇上の男が絶叫した。
後方に座った役員の方を指差す。
「わしは嫌だ〜〜〜!。お前らなんかに負けてたまるかああ・・・・。」
スーツの内ポケットに隠し持ったナイフを取り出す。
壇上に駆け上がったナカタは男にタックルし、男は数メートルふっとんで気絶する。
異様な雰囲気になった卒社員たちを人事部の屈強な男たちが銃を持って取り囲んだ。
その中のリーダーらしき男が言った。
「これ以上見苦しい真似はおやめください。あなたたちは勝負に敗れたのですよ。これ以上暴れたら卒社法特例に基づきこの場で射殺します。」
新入社員の優越感に満ちた目と卒業社員の口惜しげな目が交差する。
そこには華やかさはなかった。
2100年の日本。
少子高齢化と財政破綻により我が国の年金制度は崩壊していた。
企業としても少子化に伴い優秀な社員は確保したいが、無能で給料だけ高い老人を抱え込むと世界的な競争に負けてしまう。
その対策として、圧倒的過半数を占める与党が可決した法案が、通称”卒社法”である。
これにより会社員は60歳になると卒社試験対象者となり、ランダムに選ばれたエントリー学生と戦う。
仮採用期間の間にエントリー学生の狙撃に成功したら卒社員の勝ちで1年間の卒社延長を勝ち取る。
負けたら卒社で、即安楽死である。
10年間勝ち続けたら定年退職者となり、やっと年金を受給できるのだ。
この勝負、卒社員にとって非常に不利にできている。
まずは卒社員に与えられる弾薬は模擬弾で刃物の使用は禁止、エントリー学生を怪我させたら失格である。
一方、エントリー学生に与えられるのは実弾でアーミーナイフの使用も許可されている。
エントリー学生が卒社員を殺傷しても免責扱いになるのだ。
卒社員の勝率はわずか10%で、10年間勝ち続けて年金受給できるのはわずか1%という狭き門である。
この制度の導入に伴い、年金問題は解決した。
ナカタは服についた埃をはらいながらサトウのところに戻ってきた。
「毎年の恒例行事みたいなもんだ。まあ、気持ちはわからんでもないからな。」
サトウは項垂れる卒社員たちを見回す。
「なんだかかわいそうになりますね。助かる方法はないんですか。」
ナカタは言った。
「特例措置ってのがあってな。まずは役員にはこの法律は適用されない。公務員や自営業も対象外だ。あと、当然のことだけど政治家の先生方もだな。」
「じゃあ、自営業になればいいんじゃないんですか。僕だったらそうしますけど。」
「サトウはまだ若いからわからんだろうけど、会社に40年近く勤めたら、定年近くになって新しいことにチャレンジしようって気持ちはおきないもんだ。そんな元気があったらとっくに辞めてる。昔っから会社一筋のやつのことを社畜ってのはよく言ったものだと思うわ。」
「社畜ですか。牛やブタみたいに最後は殺されちゃうんですもんね・・・・・。で、ナカタさんはどうする気なんですか。」
「俺か、俺は実家の仕事を継ぐからいいんだ。田舎で小さいが田んぼ持っててな。食って行くのには困らん。」
式は終わり、社員達が退席して行く。
新入社員は左側の出口から配属先の職場に向かう。
卒社員たちは右側の出口から地下のガス室に向かう。
サトウはその姿を見送りながら呟いた。
「でも、年金制度を崩壊させたのは政治家と一部の公務員なのに、その責任を会社員が取らされるってのはなんだか割り切れない気がしますね。」
ナカタはすこし沈んだ声で言った。
「でもな、そんな政治家を選んだのもあいつらだし、こうなることがわかってて批判だけして何も行動しなかったのもあいつらなんだよ。結局自業自得だと俺は思うね。」
全ての社員が出ていき、扉はゆっくりと閉じられた。
今日で正月休みも終わり、明日からまた社畜へと戻ります。
それではみなさま、良い終末を。