E.C.1019.05-3
セレスティア視点の番外編です。
第二章冒頭と第三章冒頭の間に入るお話です。
誤字のご指摘ありがとうございました。
反映させていただきました。
侍従の持ってきた皇太子の死の報せを聞いたセレスティアは小さく長く、息を吐いた。
数えるほどしか会ったことのない、血の繋がらない義理の息子の死に何も感じていないわけではない。
直接的な関わり合いはほとんど無かったけれど、セレスティアの娘や息子は彼によく懐いていた。
特に長女のキャロライナは、彼のことを心酔と言っていいほど慕っていた。
彼らの心中を思うと、可哀想に、と心が痛まないでもない。
もちろんまだ二十五歳という若さでその生涯を終えたアデルバート自身のことも、哀れだと思う。
「……結局、あらがえないのね」
「え……?」
セレスティアの呟きを聞き取れなかったのか侍女が聞き返してくるが、眼差しだけでそれを制する。
これからやらなければならないことは山ほどある。
たとえば葬儀の準備とか、同盟国や属国への訃報の連絡とか、次の皇太子の立太子式の準備とか。
アデルバートの死を哀しみ嘆くこと。それはセレスティアの役目ではない。
「すぐに正妃殿下へのお悔やみの文を。それから遺影を描かせる画家の手配。あと……」
手短に命じながら、セレスティアはアデルバートのことを想い返す。
セレスティアの夫によく似た美しい青年。彼もまた夫――ルーカスを残して一人旅立った。
どうして彼が愛した者は、彼を置いていってしまうのだろう。
「今、陛下はどちらに?」
「……皇太子殿下の元へいらっしゃいました。御最期には間に合わなかったようですが……」
「……そう」
間に合わなかったのではなく、きっと行けなかったのだろう。
アデルバートが旅立つ現実を、ルーカスは受け入れられなかった。
何年も前から覚悟はしていたはずなのに。
もともと身体の弱かったアデルバートは、十七歳のとき、医師にあと十年生きられるかどうかわからないと告げられた。
このことは、アデルバート自身さえ知らない。ルーカスと、アデルバートの生母アンジェリカ、そしてセレスティアだけの秘密だった。
その残酷な事実を知ったルーカスの落胆ぶりは、見ていて痛々しいほどだった。
決して辛いなどは口に出さないけれど、ただ一言「お前も私を置いていくのか」。そう呟いた彼の声を、セレスティアは今も覚えている。
そして残酷な現実は、ルーカスに残酷な決断を強いた。
どうして神はこんなにもこの人に茨の道ばかり歩ませるのだろう。
項垂れるルーカスの肩を見つめ、セレスティアはそう思った。
「……レオンさまは?」
「第二皇子殿下は王太子妃殿下についておいでです。随分憔悴していらっしゃるようでしたので……」
「キャリーは御最期に間に合ったの?」
「そのようです。第二皇子殿下と第三皇子殿下、それから第四皇女殿下で看取られたそうです」
「そう……よかったわね」
口にしてすぐ、自らの失言に気付く。
セレスティアはこんな日が来ることを知っていたけれど、彼らにとっては予期せぬ不幸。心中を思えば、「よかった」なんて言えるわけない。
「……今のは聞かなかったことにして頂戴。ニコラ」
「何のことでしょう」
できた侍女に感謝しながら、最愛の兄を失くしたレオンハルトのことを想う。
アデルバートと同じく血の繋がらない義息であるレオンハルトのことは、我が子以上に溺愛してきた。
「彼女」にうりふたつの彼を慈しみ、愛でてきた。
似ているというただ一点だけで愛情の対象になるのだから、つくづく自分という女は単純であり、強かだ。
けれどそうでもしなければ生きられない。
大切なものに似ているものを上手に見つけていかなければ、きっとこの手には、何ひとつ残らないのだから。
次回、いよいよ(?)あの方が初登場。




