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夢のあと  作者: 緋桜
第三章
23/114

E.C.1011.04-3


「どういうことですお母様!彼女たちはわたくしの友人でも何でもないはずです!それなのにどうしてあんな嘘をおっしゃるのですか!」

「あらやだ。アトリー卿ってば、もう白状してしまったの?」

「申し訳ございません、妃殿下」

「まぁよろしいわ。それで、首尾はいかが?どなたか貴方の御眼鏡に適う方はいらして?」

「お母様!」

「もう、騒がしい子ね。誰に似たのかしら」


 ふぅ、と頬に手を添えて小首を傾げるセレスティアは、やはり今日も今日とて可愛らしく、恐ろしいほどにマイペースだ。

 一人娘が怒り狂って目の前できゃんきゃん喚いていても、気にも留めない。

 彼女の興味は今、「キャロライナ皇女殿下の御学友」の中にレオンハルトに相応しい御令嬢がいるのか否かと言うことだけに向けられている。


 今日のお茶会が作為的なものであることに、レオンハルトは早い段階から気付いていた。

 今まで一度もキャロライナの友人が城を訪ねて来たことなどないし、何より食えない教育係が後ろでニヤニヤしていたのだ。不審に思わないはずがない。

 その首謀者がセレスティアだとはいうことも、少し考えてみればわかること。

 キャロライナの名を騙って許される者など、この国内を探しても彼女の生母セレスティアくらいしかいないのだから。


 そうまでしてセレスティアがしたかったこととは、ずばりレオンハルトのお見合いだ。

 もちろん正式なものではなく、あくまでお見合い候補を、と言うことなのだろうけれど。


「で?どうなの、アトリー卿」

「そうですね……。

 私ごときが殿下の行く末に関わるようなことを口にするなどおこがましいですが、ひとつだけはっきりしているのは、やはり我が君が一番美しいということだけですかね」

「そうよね。そうなのよね。どうしてもそうなってしまうのよね」

「はい。何しろ我が君は天使にして女神。この世で最も美しくも愛らしい御方なのですから」

「……」


 困ったわねぇ、困りましたねぇ、と何に困っているのか困る必要があるのかまるでわからない養母と教育係に、レオンハルトは呆れて二の句が継げない。

 特にジャン。いつもの頭の悪そうな口上を、まさかセレスティアの前でも言うとは思わなかった。


 そうしているうちに無視され続けたキャロライナと言うと。


「お母様!キャリーの質問に答えてください!!」

「あらあら。キャリー、そんなに焦らなくても、貴女のお相手もきちんと見つけてあげるわよ」

「ちっがーう!!」


 噛み合わない母娘の会話にキャロライナはとうとう大声を上げて地団太を踏む。

 姫君らしからぬ言動だが、それほどまでにキャロライナが腹を立てているということだろう。

 おてんばだが基本的には生真面目で実直なキャロライナは、子どもじみた我儘を言ったり無理に我を通したりしようとはしない。

 ただ道理に反したことや納得できないことには相手が誰であろうと「否」の声を上げる。


「お母様は横暴です!

 どうして兄様やわたくしの結婚相手を、お母様が決めてしまおうとされるのですか!?」

「あら、ちゃんとレオン様にお目通りしてお選びいただくつもりよ?もちろん貴女のときにもね。

 まぁ、最終的にお決めになるのは陛下ですけれど」

「そんな……ッ」

「キャロライナ」

「……ッ」


 愛称ではなく本名で呼ばれたキャロライナは、更に反論しようとした唇を閉じ、眉を寄せる。


 歳よりも若く――幼く見え、ともすれば十代の少女にさえ思えるセレスティアだが、キャロライナやウィリアムといるときは「母親」として映る。

 歌うように柔らかな声にも、今は厳しさが滲んでいる。


「こんなことで大騒ぎしないでちょうだい。はしたなくってよ」

「こんな……ッ」

「えぇ。『こんなこと』よ。

 万が一にも貴女が結婚相手に夢を見ているのなら、或いは結婚したいお相手がいるというのなら、そんなものは捨ててしまいなさい。無意味よ」

「……ッ」


 きっぱりと告げられ、キャロライナは下唇を噛む。


 厳しい言葉はキャロライナに向けられたものであるのに、レオンハルトもまた、心臓を貫かれたような心地がした。


 決して知られてはいけない、暴かれるわけにはいかない想いを、白日の下に晒された心地になる。


 眉を寄せ、言い返さないキャロライナにセレスティアは再び甘やかな声を出す。

 あやすような、宥めるような。

 まるで聞き分けのない子どもに言い聞かせるように、優しく。


「……ねぇ、キャリー。貴女たちのような人間が、想う相手と結ばれることはほとんどないわ。奇跡よ。

 だからこそ、結ばれた相手を想いなさい」

「……お母様」

「そうすれば貴女はきっと幸せになれる。……えぇ。きっと、よ」


 そう言ってセレスティアは、夫によく似た面差しの娘の頬をそっと撫でた。


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