第3話
わたしは、その女の指を見た目よりたくましいのだなと思いながら眺めた。自由な生き方のできる指は、別嬪さんの手を離れ、この世に多様な職業のあるかぎり、宇宙飛行士にだって、洋画家にだってなることができる。
ふと、指を貸しているとき、人差し指の抜けたあの別嬪はどうしているのだろうかと思いを馳せた。不自由なときを過ごさねばならず、寂しくて泣いてはいないか。
わたしは明日の仕事に備えて、貸された指を引っこ抜いて枕元に寝かせた。今日の疲れをとろうと風呂に入った。女の指を男の裸に触れさせるのはさすがに躊躇われた。わたしが気を遣いすぎているのだろう。指が喋ったことはけっして嘘ではないと思うが、後で別嬪の顔が火照るのを見るのが厭で性的なことは避けようと思った。
しかし、手洗いに行ったっけと苦笑し、平然と男の象徴に触れたはずの女指がどんなことを思っただろうかと思いを巡らし、わたしは愚かだと気づいた。女指が男の手にはめられたら、十中八九そのような場面を何度となく経験したはずだ。いわば百戦錬磨のベテランである。わたしが恥ずかしがってどうするというのだ。
おかしな発想に高揚して眠気が吹き飛んだので、めったに飲まないウヰスキーを呷ってベッドの灯りを消した。
別嬪の指は寒さに弱いのか、クレーンのように関節を折り曲げてシーツを這いながら布団の中に入り込んだ。
朝、枕元の目覚めしが鳴った。女指がボタンを探してオフにしてくれた。
「ありがとう、さっそく使わせてもらおうか」
目覚めのよさげな女指は、ピンと筋を伸ばしてきた。左手で指を挟み、右手の昨日と同じ位置に挿す。その朝したことは、コーヒーを沸かして右手で飲んだ。わたしのもとの指も、カフェインの作用で気だるさを体から追い出した。
今書き連ねている小文も、六本指でもって書いている。わたしの職業は文字を書くこと。世間的には、文筆業とかライターと呼ばれている。
六本指で顔を洗い、服に着替え、ノートに字を書き、ワープロ打ちをした。それがかねてからの計画であり、元からある指への負担が減ると思い、指をレンタルしたのだ。
それは男のごつごつした指で構わなかったが、入店して、たまたま別嬪の女にしてくれてこうなった。事務作業は手慣れたものと見え、シャーペンをノートに走らすのも、キーボードを正確に打ち込むのもお手のものだった。




