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新しい指  作者: 原口光陽
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第1話

「こちらが新しい指端末になります」


綺麗な顔立ちの携帯ショップの店員の女は、若さゆえか、恥ずかしそうに自分の人差し指を外すと、桐の箱に入れて台の上に置いた。

ちょうどわたしは、そういう指を欲していた。桐の箱に水色のリボンをかけた店員は右手人差し指を無くしても器用にリボンを丹念に結んでわたしの前に差し出した。


「ありがとう、大切に使うよ」


契約では、一週間のレンタルになっていた。人手不足の業界では、リースで指をカートンで注文する会社もあるという。

とにかく、五本指では足りない現代において、若くててきぱきと仕事をこなす指は重宝がられている。

一般に流通している指だから、わざわざ桐の箱に入れなくてもいいようなものだが、そこはそれ相応の価値のある品物だ。まさに箱入り娘のようにして、わたしも丁重にスーツのポケットに入れた。

指があの別嬪店員の元を離れ、これから毎日、わたしの第六の指として好きなように使われることに対して、いくばくか羞恥心を抱かないだろうか、使用人の意思を拒んで使われることをサボったり、ボイコットしたりしないだろうか。

とにかく初対面が大事だと思い、大切に自宅に持ち帰った。途中で落としたり、汚したりしないよう注意して家路を急いだ。ことにきょうは野分きが来襲して風が強い。ポケットから箱が吹き飛ばされぬよう、わたしは右手で左のポケットを押さえて歩いた。わたしの掌の匂いが桐の箱の中にまでとどくとは思わないが、指と別の指が物理的に近づいたという意識は、わたしの気持ち以上に、指同士が恐縮して、(はじめまして、どうぞよろしく)(あら、ご丁寧に。どうぞお好きなようにお使いくださいな。わたくしの指は細くて痩せておりますが、存分に代価にふさわしいぐらい、働かせてくださいな)と早くも指同士が会話を始めているような気がしていた。だから、掌がなにかしらもぞもぞして、聞いたこともない、キュッキュという擦れた音がした。

自宅に着くと、わたしは赤面した。はたして、別嬪さんの指に、このようなむさ苦しい居室に一週間も居させてよいものだろうか。男の放つ臭いが、いつもよりよけいにつんと鼻をついた。


「人差し指さん、嫌じゃないかい」

「いいえ、わたくしはいろんな男の家や会社に行きました。こう見えて経験は豊富なんです。平気ですわ」


箱の中の指は軽く間接を曲げてはにかみながら囁いた。

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