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3/3

その3

カラッと晴れた日差しは水着姿で行き来する海水浴客には心地いいだろう。

詩音とオトポールは海岸線から少し離れた、白い邸宅が見えるテラスカフェにいた。

オトポールは少しソワソワと落ち着かないのか、あたりを伺いながら詩音に尋ねた。


「おい、なんでここに来たんだ」

「これ食べ終わったら答えるわ。あ、お勘定よろしくね」


詩音はガツガツとミートボール入りスパゲティとサラダを頬張りながら答えると、


「あ、来たわ。あたしが待ってたものが」


詩音の元にやって来たのは、一匹のミツバチ。一見ただのハチに見えるのだが、スポッと詩音のおでこに吸い込まれた。いや、自分から飛び込んだと言った方がいいのか。


「なんだそりゃ、いったい⁈」

「へへん、今のはあたしの『虫』よ。『メモリースター』って名前だけど、お目当ての『花』がどこにあるのか教えてくれるのよ。“虫の知らせ”ってやつかな」

「ホ、ホントか、じゃあ居場所がわかったのか。弟の無実を証言してくれる『花』がどこにあるのかが」

「どうやら、あそこの中よ」


詩音は好物のストロベリーアイスクリームを幸せそうにひと口含みながら、指を指した。


「おい嘘だろ、マジかよ‥‥‥」


オトポールは顔隠すようにテーブルに崩れ落ちた。

お城を想起するような白を基調としたその巨大な邸宅の門から30代ほどの長身の女性が現れた。来ている薄いエリの立ったワンピースも白だ。

女性のすぐ脇を子供が走り抜けようと駆ける途中つまづき、手にしていたジュースが女性の白い服に少しかかってしまった。

女性はころんだ子供に笑みを浮かべ、頭を優しくなでてあげた。

その子の親らしい中年男性が急いで飛んできたが、女性が雇っている屈強なボディーガードたちがすぐ様羽交い締めにし、その子の目の前で腕と指をへし折った。


「見たかよ、あれが“ビッチ”って呼ばれてる女だ。この街でアイツを知らないヤツはいねえクソヤローだ。胸糞悪い。来たくなかったぜこんなとこに」


オトポールが教えてくれたこの通称”ビッチ“はここ最近のし上がって来た実力者で、当初は株や不動産取引でちょこちょこ利益を上げて来た。

その売買の手法は絶妙なタイミングと関係者しか知り得ないような情報をもとにしたものだったため、なぜか”ビッチ“の周りには重要な情報が集まるとの噂が立ち始め、“白いインテリジェンス女王”と異名を取っていた。

その噂は事実で、投資で得た利益をもとに自身の警護団を組織し、有力投資家や要人の機密やウィークポイントを握ることで詐欺や脅迫で彼らの資産をゆすり取り彼らをコントロールもしていた。

”ビッチ‘の生命線はまるで街中あらゆるところに幾千もの目と耳を配置して監視しているかのようなその情報網にあったが、誰もそのカラクリが掴めなかった。


「つまり、この“ビッチさん”があたしたちのお目当て花『カウグラス』を手に入れてたのね」


詩音はスプーンを舐めながら説明した。


「『カウグラス』は道に生えてる木や草、そこらへん飛んでる蝶々なんかが見たものを視覚化できるから、そこから脅しに利用できる情報を取っていたのね」

「な、なるほど、あいつがやたらあちこちに顔が効いていたのはそういうわけだったのか」

「もちろん、弟さんを見ていたハエさんにも有効よ」


希望が見えたのかオトポールはよし、と拳を手の平で受けてみせたが、


「だが、どうやって手に入れるんだ?まさか貸してくれるわけねーよな」

「『お願いします』って頼んだら断られるわよね。だから、仕掛けるわ。だってあたし“ハンター”だしね」

「そ、そうか、頼むぜ。だがーー」


失敗すれば腕折られるくらいでは済まなそうだ。


「だから、お願い。ひとつ、頼まれてくれる?」


デザートまで食べ終えた詩音は、カフェのお勘定の他にオトポールに頼みごとを伝えた。





その日の深夜、詩音は白邸宅に再びやって来た。

まるで要塞の壁のように高くそびえ立つ壁を詩音は見上げた。

出入り口には暗視カメラ。おそらく庭にもセンサーが巡らされていることだろう。

最新のセキュリティシステムと屈強な護衛に守られた女王宅。

詩音は腰のホルスターからピッケルを抜いた。まるで日本刀を抜くように。

静かに目を閉じ、祈りを込めるようにピッケルを握ると一気に壁に打ち込んだ。

その尖端は不思議なことに弾かれることも壁を砕くことなく、抜けるように突き刺さった。

詩音が愛用するこのピッケルは代々のプラントハンターたちから受け継がれて来たもの。幾多の自然を超え、ハンターたちを守って来たアイテムだった。

詩音はピッケルを頼りに一歩、一歩と要塞の壁を登っていった。

“頂上”に敷かれていたバラ線はジャケットを脱いで被せ怪我しないように超えた。

こういう時、背負っている箱がやけに邪魔に感じる詩音だった。


ジャンプし、庭内に着地したその瞬間、強烈なライトが照らされ銃で武装した護衛たちに囲まれていることに気づいた。


「うそっ、なんでバレた⁈」


護衛のひとりが拘束された男を蹴って地面に転がした。

なんとオトポールだった。


「す、すまねえ。ドジった」

「残念だったな、お嬢ちゃん。お前よりもひと足先に忍び込んだこのマヌケが教えてくれたぜ。『箱を背負ったすげえ丸顔のプラントハンターが今夜盗みに入るってな」

「だ、だれが丸顔だーー!」


と護衛たちに食ってかかった詩音だが、背負ってる大きな箱を掴まれあえなくダウン。

ジタバタと身動きして反抗するも両手をロープで縛られてしまった。


「こいつ、女のクセにやけに腕が太いな」


詩音は気にしていることを言われ思わず言い返した。


「う、うるさいっ!厳重に縛らないと後で後悔するからね」


詩音の減らず口で言われなくとも護衛たちは何重にもロープを巻いて、邸宅内のゲストルーム“尋問部屋”へ2人を連れて行った。




ーその4へ続くー



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