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その1


その日のセオリボスの街は小雨交じりで少し肌寒かった。

だが、マフラーで首を絞められ路地裏に白目を剥いて倒れたその女性は、二度と寒さも雨で触れる感覚も感じることはないだろう。

キース刑事とその部下の警官たちは数人がかりで、浅黒い巨漢の少年をその場で拘束した。

「オ、オレじゃない。ち、ちがう、オレじゃない……」

その頃、レストランから出た食糧をたらふく味わっていたハエはその場の出来事を一部始終眺めた後、飛び立った。

巨漢の少年は、幾人もの法の手によって押さえつけられながらも、ハエに向かい力の限り右手を伸ばした。一片の希望のカケラを掴むように。






セオリボス警察署の出入口付近はまさにこの街の縮図だった。

詐欺の被害者が相手方の弁護士に胸ぐらを掴み上げられ、恩赦を要請する高級役人の代理人と警部が5回以上はデートした男女のように睦まじく語り合い、『連続少女誘拐事件の真相を』と書かれたプラカード持った市民たちを武装グループが襲撃しても、警官たちは引き続き注視しているのみ。

この街の法曹関係者が誇りにしているのは、ただひとつ、

『重大事件の容疑者は迅速に捕まえ、法によって“キッチリ”裁く』ことだった。


喧騒をよそに、オトポールは足を小刻みに揺らしながら警察署の門で“ある人物”を待っていた。

「遅えよ、ホントに来んのか?」

まだ待ち合わせにはだいぶ時間があったのだが、前金を大目に払っていたせいもあってか落ち着かなかった。

普段はクスリの売人をやっている彼にとってはここは居心地のいいところではなかった。だが、オトポールにはやらなければならないことがあった。

オトポールは、おい、と目の前通る警官呼び止めた。

「なあ、この辺でガキの女を見なかったか? ちょっと変なヤツで、頭に長いスカーフ巻いて、箱を背負ってあちこち旅してる13歳くらいのすげえ丸顔の女が——」

と言った瞬間、

「誰が丸顔じゃあ! 失敬なっ」

オトポールの尻はつま先で蹴り上られた。

「痛えっ、誰だ!」

振り返ると、そこにはオトポールが描写した通りの13歳の少女が目をギラつかせていた。自分の背丈と同じくらいの箱を背負い、大人サイズのブカブカなライダージャケット着込んだロングスカーフ頭の少女。

「じゃあ、あんたがプラントハンターか? エンジェルってヤツから紹介された。”今売り出し中の新人凄腕丸顔プラントハンター”」

「なんか嬉しくない紹介ね。あたし丸顔じゃねーし」

そのプラントハンター・佐保姫詩音はブーたれた顔で答えた。

「で、なに? あたしなんで呼ばれたの。言っとくけどあたしは高いわよ」

詩音はすぐ横で部下を頭ごなしに怒鳴り散らす私服刑事が抱える紙袋からドーナツをひょいとひとつ拝借し、美味しそうにかじりった。

手癖悪いな。

普段からあまり上品でない客を相手にしているオトポールだが、それでも詩音を少し胡散臭く感じた。こいつに頼んで大丈夫なのか?

だが、オトポールは安物のサングラスを外し口を開いた。

「クマラを、オレの弟を助けてくれ……」

その言葉を聞いて、砂糖まみれになった詩音の口が止まった。



ーその2へ続くー




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