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子供の謎とセカイちゃん!

 ここはどこだろう。周りを見ようとしても体が動かない……というか体の感覚が無い。

 見えているのはお月様。雲の隙間から少し顔を出しているだけであるが真っ白で神々しい。


「グルル……」


 何かの声が聞こえる。あぁ、ここだったのか。

 声の主が視界に入ってきた。あの異形だ。

 ここは夢の世界。俺の未来の世界だ。いや、まだ決定しているわけでは無いのか。

 

「ヒュー……ヒュー……」


 声をかけてみようとするが音が出ない。ただ空気が通り抜ける音だけが鳴る。

 そっか、さっきから体の感覚が無いと感じていたが、潰されていたのか。肺も潰されているらしい。

 不思議と痛みは無い。夢だからだろうか。奇妙な感覚だ。

 異形は突然四つん這いになり俺のすぐ横に近づいた。

 ガツガツという音がする。

 感覚は無い、しかし分かる。俺の左腕を喰らっている。

 痛みも無く、恐怖も無い。

 何故コイツが俺を喰っているのかも分からない、興味も湧かない。

 

 音がだんだんと近づいてくる。多分、肩口辺りまで喰らいおわったのだろう。

 なんだ? 急に強烈な眠気がやってきた。視界が霞む。意識が朦朧とする。

 一瞬だけ異形がこちらを見るのが見えた。


「おはよう!」


「うおッ!」


 いきなりセカイの大きな声が聞こえた。

 あれ……? ここは宿のベッド……


「俺、どうしてたんだ?」


「ああ、君が無茶した後ぶっ倒れたの。で、私が一生懸命宿に運んだんだ!」


 どや顔のセカイ。多分、瞬間移動でも使ったのだろうけど……


「ありがとうな。で、あのゴブリンは? 俺……アイツをやっつけたのか?」


 あの攻撃には手応えが無かった。確かに激しい音はしたし、アイツも消えていたけど倒せていたのか……


「分からない。アンタの突撃は確かにアイツに当たってた。だけど吹っ飛んでいったのかは見えなかった。破裂したようにも見えたし……」


 セカイは俺の足下に座り、腕を組みながら悩ましげに言う。


「だいたい……紫色のゴブリンがいるなんて私知らなかった」


「知らなかった? 俺が飛び出す前にあいつら作ったの私だ~って言ってたじゃ無いか」


「確かに作ったよ。突然変異だとしても私には分かる。でも……あの色にあの身体能力……アンタ、あの時魔力を結構体に取り込んでいたよね?」


 あの時か。飛び出す直前、左腕に力を入れたとき……


「初めてだからあまりよく分からないけど、確かに量は多かったはず」


「だよね」


 大きくうなずくセカイ。


「あれについて行けるのは普通のゴブリンには無理。絶対に! だって私の力だもの! ただの魔族が身体能力だけで敵うはず無い」


「じゃあ、俺みたいに魔力を?」


「それでも無理よ。アンタにはチートを授けたんだから」


「じゃあどうやって……」


「ちょっと気になってるものがあるの。ついてきて」


 そう言ってベッドから立ち上がる。

 俺も彼女を追って起きようとするが……


「ぐぅ……あ!」


 左肩に激しい痛みが走る。


「何してるの。早く起きなさい」


「あぁ……肩がちょっとな」


 肩を摩ってみる。クルクルと回してみると何か引っかかるような感覚もある。


「ちょっと見せて」


 セカイは振り返り、俺の左の胸ぐらを掴んでコートを開いた。

 インナースーツの左胸辺りを摩る。ちょっと気持ちいい……


「はぁ……」


 何かに気づいたのか、胸からすっと手を離しため息をついた。


「どうした?」


「杖。左胸の半分ぐらい侵食されてるわよ、アンタ」


「はぁ!?」


 いきなり何を……もしかして!


「ドーピングの……影響?」


「そうよ。派手なチートを使いすぎると“アレ”になるって言ったけど大量の杖の魔力を取り込むと体がそれに順応して徐々に侵食されていくの。最初ぐらいの程度なら影響は無かったんだけど……あれはやり過ぎ」


 そう言って彼女は部屋を出て行く。

 俺もついていかなくちゃ。コートを直しベッドから立ち上がる。

 左腕は痛いが我慢出来ないほどでは無い。肩を押さえながら彼女を追いかける。


「なぁ、セカイ」


「なに? 今、考え事してるの。話しかけないで」


 神妙な面持ちをしながらスタスタと先を急ぐセカイ。

 さっき口に出していた紫ゴブリンの正体とか分からないって言ってたし……


「俺が決めることってぶん投げてたけど……結構心配してくれるのな」


 セカイの足が急に止まる。

 ん? どうしたんだ……


「あっ、しまった」


 ついつい声に出てしまったのか……話しかけるなって言ってたから怒られるのかな……


「べ、別にそういうのじゃ……」


「ん?」


 何かうつむいて小声で言っている。すると、彼女はこっちに振り返り、


「別に心配してるとかじゃ無いし! 今までのデレデレのやつとか全部演技だから! アンタがどうなるか見たくてからかってただけだし……とにかく! そう! 私はアンタの心配なんてしてない! 以上!」


 うっわ~……顔真っ赤ぁ……耳まで赤くしちゃって。

 セカイは元の方向をすぐさま向き、先ほどよりも速いスピードで歩き出す。


「もしかして……照れちゃってます?」


 後ろについていきながら話しかける。


「話しかけないで」


 静かなトーンで言葉を返してくる。怒っているのか恥ずかしがっているのか……多分前者だな。でも……


「これって、ツンデ……」


「だーーーー! もう、うるさいって言ってるでしょ! 次、話しかけたら消すからね! いい!?」


 足を止め、リンゴのような真っ赤な顔で怒鳴ってくる。

 こりゃあ……どっちもだな。これ以上は話しかけないでおこう。


「はい」


 しょんぼりとしたトーンで返事をする。

 するとセカイは荒く鼻息を立て元の方向に進む。

「それでいいのよ」


―――


 気になることって……やっぱりこれか。

 今はまたカミさんの店の前にいる。あの子供……ゴブリンに連れ去られようとしていた……あのゴブリンは実験の結晶とか言ってたな。


「お邪魔するわよ」


 そう言って、セカイは店のドアを力強く開けた。

 中にはおじさんとカミさん……そして例の子供がいた。

 金色の髪にやせ細った顔、そして体の男の子。十歳に行くか行かないかぐらいだろうか。

 そして病気がひどいのだろう。ホールの片隅に用意された質素な小さいベッドに横たわっている。如何にも苦しそうだ。


「邪魔するなら帰ってくれ。俺らはこの子の看病で忙しい」


 おじさんが子供のベッドの近くから近づいてくる。


「それにユイト。お前には関わらないって言っただろ。早く出て行かないと、お前をぶん殴ってでも外に連れ出すぞ」


 拳を強く握りしめている。ギチギチと音が聞こえる。


「待ってください、おじさん。あの子のことを教えてください!」


「お前に教える義理は無ぇ。さっさと出て行け」


 強く睨まれる。つい気圧され、たじろんでしまう。


「アンタは出て行って良いよ。私が聞く。後で教えるから外で見張ってて」


 セカイは俺の前に出ながら言う。

 俺はやっぱり邪魔か……


「分かった。外で待ってるよ」


 開けられたままのドアを静かに閉めながら店を後にする。辛いなぁ、仲間はずれは……許されないことをしたのだから自業自得か。


 あれから数十分が経過した。

 

「終わった。帰るわよ」


 そう言いながら店から出てくるセカイ。


「おじさんはなんて?」


 帰り道の途中に聞いてみる。


「あの子供、正体不明の病気にかかってるって。どこの医者に見せに行っても治らなかったらしいわ。で、アンタが殺した人の子供だってさ。恨まれるねぇ~」


 ニヤニヤとした顔で俺を見る。俺は何も言い返せなかった。


「で、アンタ。戦ってるときゴブリンに何か言われたんでしょ? なんて言ってた?」


「実験の結晶って……」


 すると彼女は片手で顎を摩りながら、


「実験ねぇ……」


 何か考えているようだ。そっとしておこう。


「多分、また来るわよ。アイツら」


 顎を摩ったまま話しかけられる。


「だろうな。またあの子を狙って……」


「守らなきゃね」


「えっ?」


「アンタが親、殺したんだからその代わりに守ってあげないと」


「ああ、そうだな。俺が守らなきゃな」


 せめてもの罪滅ぼしだ。それで許されるわけじゃ無い……許されるわけじゃ無いけど何もせずに引きこもって、逃げるよりか増しだ!


「なぁ、セカイ」


「ん? 今度は何よ」


「お前って……なんだかんだキツいこという割には結構良いやつなんだな」


 そう言った瞬間、彼女の頭から蒸気が上がり、歩みが止まった。


「ど、どういうことよ……それ」


 うつむきながらチラッとこちらを見ながら言うセカイ。顔が赤いのがはっきりと分かる。


「だって、最初の時だって俺のこと散々けなしてきたし、心配してくれてたみたいだけど結構俺のことどうでもいいみたいに思ってたって感じたからさ……まさかお前からあの子を守るだなんて言葉が出るとは思わなかったよ」


「い、良いでしょ! それぐらい! ってか、心配なんかしてないし! 掘り返すな!」


 彼女はこちらを向き、ムキになって言い返す

ははっ! 照れてる照れてる! 真っ赤な顔が面白い。


「まさかかもしれないけど、今までの俺への色々って……もしかして愛情の裏返しとか?」


 もっとからかってみる。いじるのってやっぱり楽しい! 癖になりそう。

 すると、彼女の顔が今までよりも赤くなった。

 ちょっとヤバいかも……逃げる準備を……


「もういい! 私、キレた! キレちゃったから!」


 ヤバっ! 逃げなきゃ!

 思い切り前へ駆け出す。


「望み通り消してやる……って、こら! 逃げるな!」


 顔を真っ赤にしながら追いかけてくる。まさに赤鬼だ。


「捕まえれるもんなら捕まえてみな!」


 もし彼女に俺が捕まるようなことがあるなら俺は宿の前の桜の木の下に埋まってもいい。

 絶対だ!


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