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杖の呪いと紫ゴブリン

「どうなってる……説明しろ! セカイ!」


「わぁ! もうそんな大声出さないでよ。鼓膜破れちゃう」

 

 耳を塞ぎ片目を閉じて不快を訴えるセカイ。


「いったい、俺の体に何をした!」


「ねぇ、ユイト」


「何だ?」


「私がこの二つの武器渡すとき、なんて言ったか覚えてる?」


 なんだ急に。もちろん覚えてるさ!


「戦うかは俺次第……」


 セカイはその言葉を聞いたとき、親指と人差し指でパチンと鳴らし、


「か~! おしい! あと一言先だね!」


「何だと?」


「私は、『全てはあなたが決める』って言ったよね」


「あ、あぁ。確かにそう言っていた。だけど、それと俺の左腕と何の関係が……」


「答えはもうちょっと我慢してね。君はここに来て何をした?」


 何……何を? 


「杖を使ってチートの限りを尽くして……」


「それで?」


 それで……


「街の人を殺してしまって……」


「どうなった?」


「街の人たちに……」


「嫌われた」

「嫌われた」


「そう! 君は嫌われ排斥された! このコミュニティから」


 先ほどとは違いベッドの上で両手を大きく広げ生き生きと話している。まるであの時だな……


「これは罰だ」


「罰……?」


「君は何のためにこの世界に来たんだっけ?」


 何のために……確か、


「魔王討伐と……俺自身の更生」


「その通り! 偉いねぇ、ちゃんと覚えてた!」


 両手で大きく拍手をするセカイ。


「君は道を誤った。その杖は呪いさ。君にしか解けない呪い」


「俺にしか……解けない?」


「もちろん魔王を倒すと解けますよ! みたいな陳腐なものじゃないよ。そんじょそこらの魔物と比べてもらっちゃあ困る。一応女神なんですから!」


「じゃあ、どうやったら解けるんだ?」


「そりゃもう、あなたが“それ”を卒業したら」


 そうして彼女は俺の左腕を指さした。


「この杖を?」


「そう! その杖……って言って良いのか分からないけどその腕を使わなくても良いぐらい君が成長したらその杖は自然消滅するよ」


「もし……」


「ん?」


「もし、俺がそこまで成長出来なかったら? 俺はどうなる?」


「ん~、すぐ分かると思うよ」


「は?」


「まぁ、今日は久しぶりに宿で休んだら? 疲れてるでしょ! 私が癒やしてあ・げ・る」


 からかっているのか、唇をぐっと前に突き出しもにょもにょと話している。


「遠慮するよ」


 馬鹿なことをしている彼女を軽くあしらい、俺の服がかかっている椅子に座り、大きくため息をつきながら腕で顔を覆った。


 俺が“コイツ”に頼らずに生きていけるだろうか……そして、俺の居場所は……どこにあるのだろう。


―――


 夜になった。もう深夜だ。

 街の光は消え、騒がしかった街も静まり眠りに入る。


 夢を見た。

 なんだかよく分からない夢である。辺り一面真っ暗。霧が出ていて見えないとかでは無く、本当に真っ暗なのである。

 風が吹いているから……ここは外か? 多分、夜だ。

 月明かりは……と思って上を見てみるが暗くて何も見えない。多分、雲で隠れているのだろう。しかし、月明かりが漏れ出さないほどなんて……よっぽど厚い雲なんだろうな。

さっきから足下がヌチャヌチャとして気持ちが悪い。泥とは……ちょっと違う。くっついてくるが滑りやすい。


「とっとっと……うおっ!」


 ついにスッテンコロリと転げてしまった。最悪だ。得体の知れない地面を歩くのさえ嫌だったのに、あまつさえ転んでしまうとは……

 ん? 何だこの匂いは……嗅いだことのある匂い。少しどろっとした液体……微かな鉄の匂いがする……鉄?


「グァァァァァァ……」


 何か獣の叫び声のようなものが微かに聞こえる。かなり距離が遠いらしい。

 

 ドスンッ……ドスンッ……

 

 何だ? 何か大きな足音が聞こえる。何か、どんどん音が大きくなってないか? 何かが近づいてくる!


 ドスン……ドン……


「はぁ……はぁ……」


 真っ暗でも目が慣れてきたからであろうか、輪郭はしっかりと見える。

 大きさは俺の二倍ほどか。輪郭の形からして人間じゃ無い。全体的にゴツゴツしていて、まるで岩のようだ。

 やばい、動悸が止まらない。怖くて息が上がる。

 次の瞬間、空から一筋の光が降りてきた。雲は少しずつ晴れていき、月明かりが辺りを照らす。


 地獄であった。彼岸花がそこら中を埋め尽くしているのでは無いかと思うほど地面は真っ赤であった。

 地面は言わばキャンバスであろう。それを塗りつぶしているのは血と言う名の真紅の絵の具。筆をとったのは……


「ガァァァァァァァァァ!」


 この怪物だ。異形という名にふさわしい身なりをしている。真紅の血が体中に張り巡らされている幹に大量に染みこみ、もう黒くなっている。

 狂気と美しさを孕んだその姿は俺を夢中にさせ、恐怖を味わせた。


「お前は……」


 血で濡れた地面に腰をついたまま語りかける。


「グロロロロロロ……」


 異形は俺をじっと見つめる。真っ黒な瞳で、どす黒い闇を抱えたその瞳で俺を見る。


「俺なのか?」


 そう言い放った瞬間、異形の巨大な手が俺を叩きつぶした。


―――


「ぉ……」


 何かが聞こえる。小さい声だ……セカイ?


「おっはよー! ユイト! 今日も素敵な朝がやって参りました!」


「ああ、おはよう」


 なんだか不思議な気分だ。殺される夢だったのに恐怖を全く感じていない。


「何かあったような顔だねぇ~。良い夢でも見れたかい?」


 相変わらずのにやけづらだ。コイツ、もしかしなくても俺に起こったこと全部知ってるよな? 俺が言うのも何だが、神様なんて大嫌いだ。

 ん? 何か今日は外がうるさいな。


「外が騒がしいけど何かあってるの?」


「ん? まぁ、一緒に見に行こうよ~! 最近、閉じこもりぎみだったしさ! 行こう! これ着て! これも!」


 いつもの服を乱暴に投げつけられる。そして、手をつかまれ……


「ちょ、ちょっと待て! 俺、まだ着てな……」

 

 思い切り引っ張られる。このまま引き釣り出すつもりだ!


「動きながら服着れるでしょ! ほら、がんばって!」


「だああああああああ!」


 なされるがままだった。


「はぁはぁ」


「出来たじゃん。動きながら服着るの」


「あほか! あんなの二度とやりたくねぇ!」


 ここはカミさんの店の前……から少し離れたところ。実際に何かが起きているのはカミさんの店であったのだが、俺が近づくと何かと騒ぎになりかねないので遠目で観察している。

 って、言っても……


「遠くて見えねぇ……」


 視力はある方なんだが、流石に遠すぎる。


「こういうときぐらい使ってみたら? 腕の杖」


 セカイはぼーっと店の方を見ながら言う。彼女は「女神だから」らしいが、身体能力はかなり高いみたいである。本人談では、「動けてなんぼ」だそうだ。なので視力も良い。


「まぁ、使ってみるけど……望遠鏡にでもするのか? これ」


 まあ、望遠鏡になれ! とか、双眼鏡になれ! とか言って杖の形を変えるのもありだが、問題は俺の腕がどうなるかだ。この杖と腕は一体化しているらしく、杖が形状も変えたら、腕自体も変わるらしい。なんだか気持ちが悪い。


「今、アンタの体と一体化してるから杖の力を体全体で使えるの。魔法とかそう言うのじゃ無いけどね。身体強化ができるのよ、身体強化」


 ふ~ん、身体強化ねぇ。やってみるか。


「ふん!」


 左腕に力を込めると、左腕の杖に血管のようなものが浮き出て首元まで伸びていった。


「うおっ! なんだこれ! セカイ! なんだこれ!」


「いちいちはしゃがないの。魔力が腕を通して注入されてるのよ」


 さっきよりかなり遠くのものが見えるようになった。

 すげーよ、これ! 店の方も余裕で見れる!


「あれ、なんだ? あの緑のヤツ……なんかゾロゾロと店から出てくるけど」


「あれはゴブリンよ。醜悪な生き物。作ったのがアホらしくなるほど間抜けだし、言葉だって話せるヤツでもカタコトで最低限のコミュニケーションしかとれない。その代わり、筋肉は発達してるわ。多分、普通の男十人ぐらいなら片腕だけで倒せるんじゃ無い?」


 普通のフィクションよりか強いんじゃ無いか……? このゴブリン。


「ん?」


 出てくる数が少なくなってきたとき、一体だけ人の子供を抱えて出てきたヤツがいた。

 あの子は確か、店の前で泣いてた男の子……


「セカイ、悪いけどここで待ってて」


「は~い。ユイトくんの奮闘を見守っておくね~」


 左腕に力を込める。血管が首筋まで到達し魔力がドクドクと注入されはじめた。

 両足に全身の力を込める。溜まりにたまった力を解放すると、足下付近で爆発でも起こったような衝撃、音と共に駆けだした。

 

 奴らのところに着いたのは走り出してから五秒ぐらいだろうか。二百メートルぐらい離れていたけど。

 まず、取り巻きのゴブリンの顔面に精一杯の右フックを食らわせる。ゴブリンはそのまま錐揉み回転。紫色の血を吐き出しながら地べたに倒れた。

 見よう見まねでやってみたけど案外上手くいくものだな。やっぱり実際に食らってみたのが良かったのかも……と、こんなこと考えてないで次だ!


 さっきの襲撃で気づいたのか前方にいたゴブリン部隊が一斉に振り返って襲いかかってくる。

 動体視力も強化されているのか、相手の動きが手に取るように分かる。

 トゲトゲのついた金棒で殴ろうとしてるヤツに普通に殴る蹴るで攻撃してくるヤツ……


「有象無象ッ!」


 回し蹴りをして遠くへ散らさせる。そして、


「消え去れェ! サンダー!」


 蹴散らしたヤツらにとどめの雷をおみまいする。杖と化した左腕を天高く掲げ、雷を落とす。

「みんなここから離れてください!」


 その言葉を聞くやいなや、周りにいた野次馬達は蟻の子を散らすように逃げていった。

正直、衆人環視の中で戦うのは緊張するし、守りながら戦わないといけないから余計体力を使う。ヒーローの気持ちがよく分かった。


「はぁはぁ……最後にお前だ。その子を離せ!」


 コイツは他のゴブリンと違って体の色が紫だ。変異したヤツだろうか、後でセカイに聞いてみよう。


「だ、ダメ……だ。この子は……我らの実験の結晶……渡さ、ない」


 結構しゃべれるじゃねぇか。とにかく、あの子を取り返さないと!


「返さないなら……力尽くで!」


 紫ゴブリンは抱っこしていた子供を地面に投げ捨て殴りかかってきた。

 普通に俺も殴るッ! って、あれ? いない……


「ゴッ!?」


 いつの間にか後ろに回られていたのか、近くに落ちていた棍棒で後頭部を殴られた。しかし、まだ大丈夫だ! 多少は効いたが、いつもより体が堅くなっているおかげで耐えられる。


「今度は俺の番だぁ!」


 しゃがんで足払いをしようとするも軽いジャンプで避けられる。そして、飛びながら回し蹴り! 下あごにあたり視界が揺れる。


「うぐぅ! 痛ってぇなぁ!」

 

 よろけながら立ち上がり、適当パンチを繰り出す。もう当たってくれるだけで良いという本当に適当なパンチだ。

 それを軽々と避け、腕を掴み「本当のパンチはこんなもんだ」とでも言いたげに手首をプランとさせ、次の瞬間激しい衝撃が顔面に走った。


「がぁ、がっ!」


 意識がもうろうとする。コイツ、他の奴らよりも何倍も強い。

何かが負けてる。何が負けてる? 力? いや違う。力は多分互角だ、多分。

速さか、速さが足りない。

じゃあ、どうすれば速くなれる? これが限界か? まだイケる!


「おい! 紫ゴブリン……」


 大丈夫だ、まだ立ち上がれる。


「ドーピングって知ってるかい?」


 左腕からドックンドックンと何かが流れ込むのが分かる。視界が少し紫がかってきた。多分、大丈夫だろう。チートあるし、回復できればワンチャンあると思う。


「一発だけだ……行くぞ!」


 足にありったけのパワーを注ぎ込む。タックルだ。精一杯のタックル。これでコイツをめちゃくちゃ遠くへ吹っ飛ばして終わり!

 紫ゴブリンはこちらをじっと見つめている。警戒しているのだろうか、険しい目をしている。

 力を解放し、ゴブリンに向かって突撃する。瞬間、パァンという大きな破裂音のようなものが鳴り響いた。

 ゴブリンは目の前から消えていた。


「なんとか、やったか……ぐぁっ!」


 体中、特に頭が割れるほどの激痛が走る。その次


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